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マイ・シークレット・アイデンティティ  作者: アルディナ・ハサンバスリ
11/17

11 わたしとレオンとケン

「おれのジャケットに何があったんだ?」結局レオンは彼のジャケットに起こったことに気がついた。「これは誰のサインだ? ダサすぎる! ジャケットのかっこいい感じがだいなしだ。おまえ、どうやってこれを弁償するつもりだ?」

「そのジャケット、実際の値段はいくらかしら?」と尋ねたわたしは、疲れて生気がなかった。今のわたしの状態は確かにそんなものだった。疲れて生気がなかった。わたしの体はそのオーラを喪失しているようだった。

「本当に弁償できるのか? おまえの小遣いは制限されてるって聞いてるぞ」とレオンは言った。

「もし本当にそうなら、わたしが履行しないことはできないわ。人間は変わることがないものね」

「おい、おまえ何を喋ってるんだ? 思考力を失ったのか?」とレオンは尋ねた。まったく正直なところ、自分が何を喋っているのかわたし自身にも分からない。わたしの口はさらに考えなしに喋り続けた。

「人はみな健全な思考をもってるの。わたしたちは自分たちの思考の健全性を見守っていかなければならないわ。そうでなければ、わたしたちは思考力を失うことになる。そしてそれは危険な場合があるの」

「なるほど、だけどおまえも思考力を失ってるぞ。これに気づいてるか?」

「その人間の意識は時間に依存してるわ。人間は眠ってるうちにそれに気づくときがあるの」

「ああ、もういいよ。降参だ!」レオンはわたしと一緒に座ったけど、何も言わなくなった。喋り続けたのはわたしだ。何について喋ったのか分からない。

 十分後、「もういい!やめろ!おまえがおれの思考力を失わせるんだ!」と、レオンが言った。

 わたしは彼の顔をふりかえって見つめた。わたしはもうホントに思考力を失ってしまったと思った。とういのは、彼を見たときにわたしが笑ったからだ。再び高笑いをした。たぶん何故かレオンの顔が滑稽に見えたのだ。

「そうそう、わたし気づいたわ」と、ようやくわたしは言った。わあい、わたしにはまだ健全な考えがあったわ。何分か前からわたしの頭の中には何もないみたいだった。すなわち考えをからにするとはこれなのか? レオンは不思議そうにわたしを注視した。

「本当はおまえ、大地に落ちてしまって雲の中で飛べないんだろ?」

「もう違うわ。わたしの足は地面を踏んでるの。本当はあなた、見てないでしょ?」

「素晴らしいぞ。おれは狂人と一緒に見られたくないね」と、レオンはまた言い始めた。むかつくわ! えっ? わたしはレオンにまた失望を感じたのだ。わたしは間違いなく普通になったということだ。有難いわ!

 レオンはとある喫茶店にわたしを連れて行った。最初はついて行きたくなかったけど、彼のジャケットを駄目にしてしまったので(実は駄目になっていなくてそれを大げさに言っているのはレオンだけだ)、彼につきあうことで損害を弁償しなければならないのだ。いやだわ! これはまた値段の高い喫茶店ね!

「それじゃあ、なんで、お前さっき…? おれはまったく分からないんだけど?」間違いなくあなたは分かっていない。本当に、人間と同じサイズの怪物ネズミが所有する脳ってどのくらいの大きさかしら?

「何のためあなたに分かってもらわなきゃならないの?」ウェイターがすごく値段の張るレオンの飲み物を持ってきた。わたしは持ち金の充分じゃないのが心配だったから、飲料水を注文しただけだった。とても可哀相なわたし! なのにレオンはチョコレートパフェを夢中でぱくついている。わたしも欲しい!

「おれたちには協定がひとつあるからさ。おれはその協定を解消することができるけど、もちろんおまえはそれを望まないよな?」

 いやだわ!

「あなたが誰にも言わないのなら、それでいいわ」と、やっとわたしは言った。彼に反論しても無駄だ。彼はわたしの重大秘密を知っているから、わたしは必ず負ける。わたしは勝つためにも彼の重大秘密を探さなければならないのか?

「その問題なら、また取り決めをしなきゃならないよ」と、ずるそうに微笑みながら彼は言った。

 ああ!喋らなかったら危ないわ。喋っても危ない。どうしてわたしはいつもこのような状況に直面するの? なぜ正しい道と間違った道とが一つずつでないの? それを選ぶほうが簡単なのにね。どうしてわたしの道はこんなに面倒でなければならないの?

 ようやくわたしは話をしたのよ。その全体ではなく要点だけどね。不運なことに、わたしが話さなかった数々の出来事を彼は言い当てることができる! いつになったらわたしはレオンを負かすことができるの? 神様、わたしを助けてよ!

「どうしてファルゼンはおまえを告発しようとするんだ?」と、レオンは尋ねた。あちゃ、彼はまたパフェを注文した! わたしの持ち金は充分じゃないわね? 本当はわたし、やっぱり空腹なの。だからわたしは、自分の腹の音が聞こえないようにすごく大きな声で喋った。聞こえたらとことんまでレオンに嘲笑されるかもしれない。

「どこをわたしが知ってるというの? ティシャが知ってる理由を、わたしは知らないわよ」

「おまえきっと欲求不満だな?」と、レオンは言った。

 とっても美味しい、彼はそう言った。きっとあなたが欲求不満ね? 人の気持ちを理解することができないんだから。理由ははっきりしないけど、わたしは誰かに告発されたいと思った。そしてわたしははっきりしない理由で、自分の友人に憎まれてもいる。スーザンは唯一のわたしの友人を奪い取った。親たちは、大学についての話をわたしが志すようにとの方針を変えない。ダカラ明ラカニ、ワタシハ欲求不満ナノヨ!

「おまえは問題を大きくしすぎるよ。ノーテンキなおれみたいになれよ」と、レオンが言った。

 どういう類いの助言、それ? レオンのようになる? つまり横柄でひどく無神経でむかつく、邪悪な心をもつ人物に? いいえ、結構よ。わたしは自分自身になるほうがいいわ。

「それに、ガルリーン・ヒスがグラディスト・スウィングだとみんなが知ったら、実際にどうなる? おまえは死ぬつもりか?」

「たぶんね!」と、わたしは言った。そのような返事をするつもりはなかったけど、わたしは彼に相当怒っていた。結局助けてくれずに、人のお金をまた浪費している(彼はまたパフェを注文した!)。

「本当に死ぬつもりか?」と言い、レオンは再び嘲るように微笑した。

「ええ、もういいわ。あなたと喋っても無駄ね。得るものないわ!」と言い、わたしは彼を残して去ろうとした。

「おい、先に行くなよ!」レオンが叫び声をあげるのをわたしは聞いた。謝るつもりかしら? もちろんこのわたしが悩みの中にあることを理解しているのなら、むしろ彼はわたしを嘲笑するのじゃないかしら。「あとを任せて行きたいならね、先に注文の分を払えよ!」

 ぎゃああああぁぁぁぁぁ!わたしの顔が真っ赤になった気がする。自分の財布を彼にわたしは投げつけ、耳から湯気を立てて店を出て行った。もうホントに彼を憎んでやる!

 レオンに自分の財布をやってしまったのは大きな間違いだ。そこにはまだ赤ん坊のときのわたしの写真がいくつか入っている。構わないわよ。わたしはいま喘息の発作を患っている。

 家に着くや否や、わたしの携帯が鳴った。レオンの番号だ! とにかく開けるまい。えっ、でもそれがケンだったらどうしよう? 結局仕方なくわたしは開けた。そして幸いにも、本当にケンからだった! ああ、神はまだわたしに関心があるに違いない。


「やあ、グラディスト! 調子はどうだ? 悩んでるのか? 弟が帰ってきたとき大笑いしてるのが聞こえたよ。そのあと君の財布をあいつが持ってるのを見たんだ。それでその財布を取り上げてやった。だから君は心配する必要ないよ。僕たち会うのはどうだろう? ついでに君に財布を返してあげたいんだ」


 やったあ!もちろん返してほしいわ! わたしはもうホントに、リフレッシュして自分が直面している諸問題を考えたくない。だって今は確かに諸問題について何も考えることができないもの。どんな計画も考えることができない。おそらくわたしは鏡か何かを割るようなことをしてしまったので不運を蒙っているのよ。たぶんそういうことかしら?

 これはかなり変だわ。ケンがわたしのSMS (ショートメッセージサービス)に返事をしてきたけど、さっきの喫茶店、わたしがレオンにつきあった場所で会おうしている。ものすごく変ね。双子の人はきっと同じ考えを有するの? 双子の友人をもつことをわたしは期待するわ。そうなれば、その人はわたしの諸問題を助けてくれるもの。

 ケンがあそこで待つ? 変だわ! 彼は、レオンがさっき座っていたのを同じ場所に座る。偶然かしら? でも誰が気にする? とにかくすごくキュートな彼がそこに座り、もの静かにリラックスして待ってくれている。性格は、黙ることができないでむかつくレオンとは違う。そしてもう一つ、レオンとケンとで違うところ。ケンはわたしとつきあうつもりだ。やったあ!

「あら、長いこと待ったかしら?」とわたしは尋ね、それから彼の前に座った。

「待ってないよ。いま来たところだ」と、ケンは言った。彼は自分のポケットに手を入れ、わたしの財布を取り出した。「これだけど、弟がこの中にあったお金を取ったかどうか分からない。開けたときには中にお金は全然なかった」

 もちろんその中にお金はない。レオンは金銭搾取の怪物だ。

「大丈夫。この中にお金はいくらもなかったわ」と、わたしは嘘を言った。それは来週に向けてのわたしの小遣いだったけど。来週は空腹で死ぬかも、とわたしは思った。だから来週は空腹になってもいいから、今わたしはパフェをたくさん注文しよう。でも人のお金を浪費してもいいのかしら?

「弟がとんでもないことをやらかしたのなら心の底から謝るよ。君の好きなように注文してくれ。そうでなきゃ、むしろ僕のほうに罪があると感じるよ」

 素敵!今日は超幸運な日だわ。たぶん今は、わたしにとって超いいときね。わたしはとても穏やか気分で、もう欲求不満じゃない。ケンがわたしのそばにいてくれたら、世界は最良に感じられる。これこそまさしく真実の恋で、以前レオンに抱いていた幼な恋のようなものではない。わたしも彼といろいろ自分の悩みをお喋りするのに気が進まないわけじゃない。わたしは彼に自分の秘密のすべてを委ねよう、レオンのようにではなく。どうしてね、わたしはいつもレオンとケンを比較するの? 面白いわね。

 ケンとレオンとの間で区別するところはまだある。ケンは慰めしかも役立つ助言をわたしに与えてくれる。わたしはもう途方に暮れることはなくなった。

「調子はどうだ? こんなふうな状況だったらやっぱり面倒だね。本当になぜ君は自分の正体を秘密にするんだ?」と、ケンは優しい言葉で尋ねてきた(残酷なレオンとは違う)。

「ええ、そのわけは…」えっ…どうしてわたしは返答することができないの? 一秒ほど後、また途方に暮れる気持ちがわたし自身を貫いた。本当に何故わたしは本当のわたしの正体を知らせないのか? わたしの友人のティシャ自身にも知らせていない。本当に知らせたくないことなのか? 「親たちがそれを秘密にするようわたしに命じたからよ」と、ようやくわたしは返答した。だけど、何故かわたしはその返答には満足していない。どうして?

「ひょっとして君の親は、暴かれてしまったら怒るのか?」と、ケンはまた尋ねた。

「分からないわ」これがポールとレオンが言おうとしたことかしら? 問題はわたしのペンネームの背景ということ? だけど、それを言ったのがケンならもっと理解しやすい。とはいえ、いつもわたしは一人で途方に暮れているのだ。本当にどうしてね、わたしは自分の正体を秘密にするの? その理由は何?

「何が起こるか見てみよう。本当の動機が分からずに何かするのはすごく面倒だ。というより何もできないよ。何故ティシャがガルリーン・ヒスを憎むのか分からないし、何故ファルゼンが君を告発したがっているのかも分からない。明確じゃなくてむしろ考えさせられるのはファルゼンを行動させる理由だ。僕が思うには、彼は本当は君を告発したがってはいない」

「それって、どういうこと?」実のところケンも少々戸惑わせることを言ったりするけど、いつもレオンよりはいいわね。

「そうだな、ある芸術家がいて、その紛れもなく本当のファンの一人から遺産をもらう話をされた事例を聞いたことがある。その人はすごく熱狂的だった。だけど実はその人は遺産をまったく所有していなかった。彼はその崇拝の的である芸術家に会いたいだけだった。たぶん君の事例も同じだ」

「そういう例えならね」と、息を吸いながらわたしは言った。

「さあ、元気を出せよ。君のどこが僕は好きなのか知りたくないか?」

「どこ?」 どこ?! どこ?! ケンが好きなのはわたしのどこ?

「その君の強情なところだよ。僕はすごくそれが好きなんだ」と、ケンは言った。

 ケンはわたしの強情なところが好き! ケンはわたしが好き! 今日はワ・ガ・ジ・ン・セ・イのうちで超幸せな日だ。ああ、嬉しいわ!

  *

 家に帰って部屋に入った。いつものように、恋に落ちた者のように、心地よい自分のベッドに我が身を横たえた。よくよく考えてみれば、わたしは問題を大きくしていただけかもしれないのだ。

 えっ、わたし宛にEメールがある。開けてみるとティシャからと、もうひとつは背高ノッポ氏からだった。


「グラディスト、今日はごめんなさい。本の展覧会のとき、あなたを見失っちゃった。だからわたしたちは先に帰ったの。あなたが怒らないことを願うわ。 

                                           ティシャ」


 もういいのよ、ティシャちゃん。あなたが嘘を言っているのは知っているわ。わたしは彼女のEメールに返事するのが億劫になった。だけど、背高ノッポ氏からのEメールのほうがさらに億劫だ。ハリーからのEメールはグラディスト・スウィング宛てだった。


「やあグラディスト、長いこと君からの知らせがないね。調子はどうだ? 先ほど僕はダルヒングベイ市での本の展覧会に行って来たよ。君はそこに行ったことがあるか? 素晴らしいところだね。そうだ、僕のファンたちのため本にサインしていたとき、僕の前から立ち去ろうとしないファンが一人いたよ。その人は僕と同じですごく熱狂的みたいだった。その人は僕のサインを自分のジャケットに求めたんだ。変だね。あれほどすごい熱狂的なファンが僕にいるとは信じられないよ。君の意見ではどうだ? 

                                            ハリー」


 わたしも信じられない。絶対に違うわ!(他の意味においてね:くさくさして気が重いわ!)

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