01 ニューヨークでのブック・フェスティバル
まったく正直なところ、わたしが飛行機に乗るのはこれが最初だ。飛行中は自分の座席に堅く堅くしがみついていた。しかもそのうえ、わたしは高所恐怖症なのだ。窓の外のほうを見る勇気は一秒もなかった。だけど、わたしの心はやはり浮き浮きしていた。この二日のあいだ学校に行かないというのは悪くなかった。でも信じられる? わたしが学校に行かない理由はすなわち、水疱瘡にかかったってこと。それを考え出したのはわたしのママ。親たちは嘘をつくわたしの手助けをしたわけ。想像してみてよ。嘘をついたの!
いいわ…、実は親たちが嘘をつくのには理由がある。本当の話をすると、わたしの名前はグラディスト・スウィング。高校二年生の子供で、年齢は16歳だ。わたしが住んでいるのはダルヒングベイ市。アメリカではいちばん小さな町だけど、わたしにはぴったりのいちばん不思議な町だ。だから、このわたしを知っている人が多くないのは、わたしの町がそのように小さいからだとみなすことができる。友人や隣人も少ない。とはいえ、『ウェスト・カウボーイ・ストーリー』の作者であるガルリーン・ヒスについて知っているような分野の人はきっと多いだろう。それは、滑稽だけど本当に素敵なカウボーイの物語だ。その本はごく最近出版されたもので、ガルリーン・ヒスはわたしの崇拝の的だ。それどころか彼女は本当は、わたしが創造したものなのだ…
わたしの願いは作家になることだ。すでに本を一冊書いていたけど、わたしがこんなに早く作家になることに、親たちは賛同していない。やれやれ、親ってそんなものよね。あいにくわたしは、親たちが知らないうちに出版の代理店を手に入れてしまった。アハハ、このわたしだって悪い子になることがある。両親はわたしが本を出版することに対して賛同してくれるようになった。やったあ! でも、わたしはもう運命が決まっているのかしら。両親の名において、駄目と言われれば永久に駄目なのだ。一晩中、わたしが泣くまで説得しても成功はしない(最初はね、赤い玉ねぎを使うだけ、遂には本泣きになる)。このようになってしまったら、わたしは考え直さなければならない。
その嘘というのは確かに良くない事だ。でも神かけて、これはまったくもって不測の事態なの! 最大限の許しを乞おう。わたしはママとパパに言った。「わたしが契約書にサインしてしまったから、その本は印刷してる途中よ」そしてこう付け加えた。「もし契約を取り消したら印刷所には、そうね…1万ドルほども賠償金を払わなきゃいけないわ」間違いなく親たちは深刻にショックを受けた。わたしたち質素な家族が、どこにそんな大金を所有することができるだろうか。
結局親たちは、その本がわたしの著作であることを知っている人が存在しえないという条件で、それを出版することをわたしに許した。熱心になってもくれた。ママとパパの許しもなく契約書にサインしたことについて、わたしに罰を与えたにもかかわらず。このゆえにこそわたし、ガルリーン・ヒスあるいはグラディスト・スウィングは、初めてニューヨーク市でブック・フェスティバルに出席することになったのだ。わあ、ニューヨーク市よ。
ニューヨークは本当に、ものすごく大きいわ! わたしは、自分の考えていることが分からなくなってきた。飛行機から降りると、わたしはタクシーを頼んで自分の出版代理人のポール・ダルクスを探すことにした。名前はフランスの人名のようだが、不思議と彼はメキシコから来ている。それはともかく、わたしはタクシーを探した。だけど、何とわたしは愚かであることか。何故わたしは、世界でいちばん大きな都市で、自分の行く道を一人で探すことができると考えているのか。もうすでに迷子に…多分どこでもこれなのよ。わたしは樹木をたくさん見たが、人間は一人もいないのだ。ひょっとしてこれは墓地か?
「お嬢さん、道に迷ったね?」やっとわたしを助けてくれる人がいた。わたしが眼を凝らしたときはっきり見えたのは、とても長いあご髭をした厳つくて男っぽい男性だった。その顔かたちはギャングのようだ。神よ、何ゆえわたしの救い主がこのような人なのか?
「えっ…はい、ブック・フェスティバルの場所がどこかを教えてもらえますか」と、わたしが道を尋ねる間もなく、その男性はカバンから何かを取り出した。
「君、これを買ってくれるかな?」その人は、体がやせる薬と背が高くなる薬を見せてきた。だけど、それが禁止薬物だったらどうしよう? きゃああああああ!
「買いたい気がするんですけど、私はまずお手洗いに行くんですの。本当にもう、我慢できないんです」とわたしは言った。
その男の人は手洗いに行く道を示してきた。はからずも、手洗いにまでわたしについて来るのだった。わたしは今、手洗いの中にいて、鍵穴からのぞいている。その男性はまだいるのだ! わたしは10分間待ってみた。多分その男の人も行ってしまうだろうと思った。ところが、がんとしてまだ仁王立ちになっていた。わたしの足は、すでにこわばっているにもかかわらず真っ直ぐに立っていた。ついにわたしは便器に座り込んだ。
携帯電話だ! このわたしは大変な馬鹿だ。携帯を持って来ていることを、どうして忘れていたのか? うわあ、わたしは自分の頭を自分で、割れるまで叩きたい気がした。ああ、それで充分よ。重要なのは、わたしがもう少し自立すべきということだろう。
「もしもしポール、こちらはグラディストよ!わたし道に迷ったの!」と、電話で言うわたしはパニックになっていた。あのギャングのおじさんに聞かれないように、あまり大声では話したくなかった。
「グラディスト、どこにいるんだ? 空港で君を探したけど、もういなくなってた。ブック・フェスティバルは10分前にもう始まったよ」ポールもパニックになっているようだ。彼にはわたしに関してすべての責任がある。もしわたしに何かが起ったら、パパは哀惜のハンマーで、ママは哀惜の料理鍋で、じかに彼をぶんなぐるだろう。それも面白いわね。
「わたし、どこにいるのか分からないの。でも、あなたがわたしを助けてくれなきゃ。お手洗いにまでわたしについて来た、すごく厳つくて男っぽい男性がいるのよ。外でわたしを見張っていて、とっても怖くなってきたわ」
「そこに道路名か、その手洗いの名前を書いたものはあるか?」
「ないわよ!」わたしはますますパニックになるだけだった。周囲を見回したそのとき、わたしは何かを見た。この手洗いの換気口は開けられるようだ。だけどとても小さい。わたしの体が入るかしら?「ポール、また電話するわ。ちょっとやってみることがあるの」携帯を閉じてわたしは便座に登り始めた。うわあ、登るにはすごく邪魔になるから、今日はスカートをはくべきではなかった。力一杯やってみると、ついに換気口は開いた。だけどわたしの胴体は届かない。わたしはやむをえずぶら下がりながら、換気口の外へ頭を出してみた。
「どうしてこんなに長く中にいるんだ?」と、ギャングの男の人が手洗いの戸を叩いたので、わたしは滑って転げ落ちた。不審に思い始めたみたいだ。すごく大きな音をたててわたしが転げ落ちるのを聞いて、彼はじかにその戸を打ち破ろうとした。戸は三回打たれたあとに開いた。その戸には鉤があることを言うのを忘れていたわ。それがわたしの足に突き刺さったので、わたしは反射的に叫び声をあげた。だけどうれしいことに、わたしはちょうどそのとき(叫んだ瞬間に)換気口の外へ跳び出ることに成功した。今がそのとき、走れえええ!!!
よかったあ。わたしは平穏無事に、ブック・フェスティバルに到着した。どうにか道路の名前が分かったので、ポールに電話をした。彼は直接わたしを迎えに来てくれた。わたしはとても運がいいと思う。というのは、電話が終わるや携帯のバッテリーが底をついて使えなくなったからだ。もしポールに電話をする前にその携帯が使えなくなったらと想像してみた。使えなくなったのはその携帯だけではなく、きっとわたしも同様になったことだろう。
ブック・フェスティバルでは、ファンのため本にサインする作家が大変多い。討論会や本のセミナーもあるだろう。ここではっきりしているのは、このわたしがガルリーン・ヒスだとは名乗らないということだ。正直に名乗るのは、このわたしが、『ウェスト・カウボーイ・ストーリー』という本の意見を出す競技の勝者となるグラディスト・スウィングだということだ。でも、完全に嘘をつくわけではないわよね?
実際にわたしは、賑やかなお祭りフェスティバルか何かがあるだろうなんて、期待すべきではない。ただわたしは、あとでわたし自身が評判になるときを想像するのが好きなだけだ。ガルリーン・ヒスが本当は誰かをすべての人が知りたがっている。それをわたしは不可解に微笑するだけだろう。それを想像するのはすごく楽しい。
ポールがどこかに行ったので、わたしは陳列された諸本をただぶらりと見て歩いた。もう幾世紀にもなる昔の本がある。作家たちのオリジナル原稿がある。わたしの書いたもののほうが、彼らが物したものより優れているのは明白だ。わたしの書いたものが鶏の足爪みたいな駄作でないこと、分かるかしら? だけどわたしは常に、作家たちが書いたものに敬意を払っている。作家たちは一冊の本を、彼ら自身の手による自筆で書いたのだが、それは本当にすごいことだ。もしわたしがコンピューターを使うことがないなら、怠けてしまうこともあるだろう。
多分わたしのオリジナル原稿もここにあるのではないか? おそらく新刊本のところにあるだろう。あるわ! やったあ、自分の本を見たときはうれしく思うものね。すでに何百万回となく見てきたけれども、常に飽きることがない。
「もしもし」と、背が高い男の子が一人、わたしに話しかけてきた。えらく背が高い! その人を見るには上のほうを見上げなきゃいけない。首が痛くなってくるわ。
「えっ…は、はい」と、可愛く微笑んでわたしは答えた。どうか、もうわたしに話をしてきませんように。ずーっと上のほうを見なきゃいけないのはすごく面倒よ。話をしている人を視ていないとしたら、それは礼儀をわきまえないことになるわ。
「僕の名前はハリー・ブンチョン。君は?」明らかにこの人は、本当にわたしとお喋りをしたがっている。ちょっと待ってよ。ハリー・ブンチョン? あの人じゃないかしら…
「あなたは『スラッシング・ヘブン』という本の作者じゃないですか?」
「『ファイティング・トゥー・ヘブン』だよ」と、その人はわたしの言葉を訂正した。
「ああ、そうそう。『ファイティング・トゥー・ヘブン』ね。わたしの名前はグラディスト・スウィングよ。わたしは、その最近のガルリーン・ヒスの著作本に対して意見を出したコンテストの勝者なんだけど…」わたしは、とても元気よくガルリーン・ヒスという名前を言った。
「僕はまだ『ウェスト・カウボーイ・ストーリー』という本を読んでない。ガルリーン・ヒスという名前を聞いたのは、ここ最近が初めてのような気もする。本の世界では最近の人みたいだ。だけど、小さい子供ながらそれは優れた人物で、作者氏は物語りをするのが巧みだと、僕は聞いたりしてる。話の様子から、その人物が子供だと分かってくるよ。その作者はやっぱりまだ若いのかな?」
「知ら…ないわ」危ないわ、何かわたしの正体がばれるようなことを言ってしまわないようにしないと。
「君は知らないの? ガルリーン・ヒスにまだ会ってないのか? そのことでコンテストの勝者になったのじゃないのか?」
もちろんわたしは知っている。そのガルリーン・ヒスはわたしではないか。「わたしはインターネットでその勝者になっただけよ。だから、ガルリーン・ヒスと直接には会ってないわ」また嘘をついてしまった。
「君はガルリーン・ヒスのEメールアドレスを知っているのか?」
「いいえ、できるだけそれを尋ねるつもりよ」
「もし分かったら、僕に知らせてもらえるかな? これが僕の名刺だ。そこにEメールアドレスが書いてある」ハリーは自分の名刺を渡してきた。その名刺は普通のものだ。一枚の白い紙に黒く書いたものがあるだけだ。当然のことそれは少し創作してある。わたしの名刺には、「ザ・バッグス・バニー&パワーパフ・ガール」とあるのだが。
「じゃあ。できれば、あとで必ず君に連絡するよ」ということはつまり、わたしは新しいEメールアドレスを作らなければならない。何ですって? galereenahith@yahoo.com がもっと長くなったら駄目よね?
「君に出会えてうれしいよ、グラディスト。また会えるといいね」
「わたしもそう思うわ」いいえ、百年たっても駄目よね。明日からわたしが、あるいは20センチ高くなったら別だけどね。
ハリーはさよならをして去って行った。かたづいたわ! そしてわたしもポールを探しに行った。分からないけど、このわたしは磁石か何かかしら。わたしのところにやって来る人がすごくたくさんいるのだ。
「こんにちは、お嬢さん。そのスカート、どこで手に入れたの?」女の人が一人、わたしに尋ねてきた。先に言っておくと、その人の名前はスーザンだとか。「まったくモデルさんみたいよ」
「本当ですか?」実はこれはわたしのママのスカートだ。出発する前にその衣装箱から取ったものだ。
「そうよ。今朝テレビのファッション番組を見てたところなんだけど、あなたのスカートの型はまったくモデルさんが着たものみたいよ。あなたって確かにとてもスタイリッシュね、お嬢さん。わたし自身は本のカバーのデザイナーよ。昨日、ガルリーン・ヒスの著作の新刊本をデザインしたばかりなのよ」
はあ? それ、わたしの本じゃないか!
「あなたはもうそれを読んだかしら?」
「読みました。わたしは、ガルリーン・ヒスに対して意見を出すコンテストで勝者となったグラディスト・スウィングです」明らかにこの女性こそ、わたしの本のカバーをデザインした人だ。
「本当なの? あなたはガルリーン・ヒスにもう会ったの? わたし自身はまだだから。当然カバーのことでまず彼女と話をしたいのにね。でも彼女はすごく忙しいそうで、それで会うことができないのよ」
忙しいって何のこと? 家でわたしがすることなんて、テレビを見ながらスナックをボリボリやることだけよ。
「ああ、しまった。わたしもう行かなきゃ、お嬢さん。ところであなたのスカート、ものすごく魅力的よ。その後ろの切れ目の印象の出し方が平凡でなくて…とにかくものすごくファッショナブルよ!」
スーザンが行ったあとで、わたしは自分のスカートの後ろの部分を見た。ああ、大変だ! その後ろの部分が破れそうになっている。きっとさっき手洗いで転んだ騒ぎのせいよ。ああ、やれやれ。大切なのはわたしが常に堂々と振舞うことよ。わたしが心配なのは一つの事だけ。スカートがこんなに破れていると知ったら、ママは駄目とわたしを亡き者にすることになるのだ。幸いにもスカートが長い。家でそれを縫ってみて、そのあとママの衣装箱にまた忍び込ませるつもりよ。ばれることがありませんように。
結局ポールとまた再合流し、事態は再び平穏になった。いつの間にかわたしにとってまた帰るときが来てしまった。ニューヨークよ、さようなら。いつかわたしが有名な百万長者になったら、きっとまたここに来るわ。じゃなくて、有名な百万長者の作家によ。