嘘はいけないよね
なんで、こんなことしてるんだ俺。と自分に聞いてみる。
この学園に来たのは、5年程前の中学2年の時だ。転入生だった自分は、同じ小学校で出来上がってしまっていた人間関係に馴染めずにつまらない日常を送っていた。中学生になって初めての春休みに来た奥入瀬学園への編入を進める手紙にたいした希望も持たずに流れるように編入した。
そこまで、思考が追い付いたときに、教室のドアがガラガラと五月蝿い音を鳴らした。
すっかり温くなった珈琲を啜りながら見ると、そこには桜子がいた。
「変な顔をして、どうなさいましたか?」
「五月蝿いな。変なのはデフォルトだよ。いや。7人もいて、仕事してるのが、俺だけな理由を考えてた」
温くなった珈琲からもわかるようにお茶汲みすらしてくれない。
「まあ。何故でしょう」
十中八九お前のせいだろ。というツッコミを抑える。
そして、編入した直後。桜子に会い、生徒会に誘われた、生徒会というものに幾らかの憧れがあった俺は考えずに生徒会に入り、桜子の面倒を見る係に任命されて、今に至る。
静まった廊下からカツカツと足音が聞こえる。
「まだ。帰ってねーのか。お前ら。鍵閉めっから、さっさと出ろ」という無責任な言葉に腹が立つが、我慢をする。
はい。と返事をし、カバンに物をしまい。教室を出た。ピーチクパーチク小うるさい桜子を適当にあしらう。
納期に間に合わないなら、責任をとるのは、俺じゃないという諦めの境地でいこうと自分に言い聞かせた。
「ああ、神谷。妹さん。初等部に編入が決まったから。それだけな」
「ああ。はい。よかったです。」と返すと首筋に何か冷たい違和感が走る。重要なことを忘れていたようなと頭を捻らせていると。
「あれ。翔さん?妹さんと仰いましたか?海松先生は?」そうだった。桜子には、いずればれてしまうだろう姑息な嘘をついてしまったんだった。
桜子が電話を掛ける。これは、死神とか悪魔とか鬼とかそういった者どもをサモンする行為。
桜子はデビルサマナーなのだ。と良い声の脳内ナレーションをしていると、外から黒塗りの自動車のヘッドランプが光輝く様が見えた。
あっ。これ終わった。俺はなろうの異世界物主人公みたくチート能力者じゃないし、最弱(大嘘)とかのラノベ主人公でもないからこの人数の893は無理。
そう染井桜子はデビルサマナーではなく、893の1人娘なのだ。
外から屈強な男達の声が聞こえる。
こうなったら、白を連れて、全力で元締めのところに行って、謝罪もしくは、弁解するが吉。
「先生。白は今何処ですか?」
「白か?今は理事長のところで、書類にサインしてもらってるはずだが」
「ありがとうございました。俺、今日はもう帰ります。おつかれさまでした」
全力で階段を駆け上がる。あの男達が、校舎に入り、俺のところまで来てしまったら、俺は責任を取って、桜子と付き合うないし、指をつめることになる。白は考えたくもない結末を辿る。
理事長室の前に立って、ノックをするが、俺は室内の返事を待たず、室内に入った。




