朝の教室にて
「…………………………おい」
「なんだ?」
「…………………………………何がどうしてそうなった?」
「???」
「不思議そうな顔してんじゃねえよ!!明らかにおかしいだろうが何だそのクソみてえなタスキは!?」
「クソとは失礼だな。夜なべして作った力作だぞ」
「まさかの自作!!!」
前が『熟女にしか興味ありません』、後ろが『40才以下は対象外』と書かれているタスキにいったい何の文句があるというのか。
朝っぱらから柏原は騒がしい。元気が良いのはなによりだが、あまりの大声に教室内の他の生徒がドン引きしている。全く迷惑な男だ。空気が読めない男はモテないよ??
「いや、周りがドン引きしてんのは明らかにお前のせいだろ。俺のせいにしてんじゃねえよ」
「…柏原、お前エスパーだったのか」
「顔 に 出 て ん だ よ」
拳骨を叩き落とすタイプの激しいツッコミはなかなかに頭が揺さぶられる。頭の中身が現在も脳みそかどうかは定かじゃないが、いい感じにシェイクされたのでその内中身がドロッと耳から流れ出るかもしれない。色は可愛いエメラルドグリーンがいいな。
お堅い風紀委員の乱心に、怖いもの見たさか教室には他クラスからも生徒達が集まっている。柏原を除いた他の生徒は一定の距離を置いて、こちらに近づいて来る様子はない。
人だかりが教室の入口を塞いで善良な生徒の邪魔になっているので、そろそろ追い払うかと席を立った直後に人だかりの間を小柄な人影がすり抜けて出てきた。
「…ああ。おはよう真由」
「あ、ゆーちゃ………ええええええ!?どしたの!?」
「?なにか変か?」
「何もかもが変だよ!?正気???」
「失礼だな。正気に見えないか?」
「うん」
「そうか………」
明らかに凹んだような表情を作るとヒロインはわたわたと焦ったような様子を見せる。なだめるように彼女の頭を撫でて笑えば、からかわれたと気づいたヒロインがこれみよがしに頬を膨らませた。ちなみにこの間周囲の生徒の空気は完全に凍っている。一瞬間を置いたのちに視界の端で弾かれたように柏原が動き出し、私の肩を鷲づかんで自身の方に向ける。
「いやいやいや、いつの間にお前真由と仲良くなってんだよ!聞いてねえぞ!」
「昨日壮絶な戦いのあとズッ友になってな」
「!!??」
「本人も初耳の顔してんぞ!?」
「河原で殴り合い友情を深めたんだ」
「してないよね!?」
「息をするように嘘ついてんじゃねえよ!!!」
「…似たようなものだろ?」
「全然違うよ!?ていうかゆーちゃんキャラ違いすぎない!?」
「生きるか死ぬかの瀬戸際だからな」
この一言が完全にフラグだったのか、人だかりを散らしながら死亡フラグもとい委員長が姿を見せた。
愛しのヒロイン、謎のタスキをかけている普段は真面目な後輩、後輩に掴みかかっている後輩の友人の図に、処理しきれなかったのか委員長が柄にもなくフリーズする。
「………ユズりんどないしたん??頭の病気??」
「おはようございます委員長」
「おはようさん。熱でもあるんか?大丈夫か病院行こか??オレついてったるで」
「落ち着いて下さい」
委員長はズカズカと歩み寄った勢いそのままに、肩に乗っていた柏原の手を払い除け私の両肩を揺らした。本気でこちらを心配してくれている様子に、全力でふざけたことに対して少し申し訳ない気持ちになってくる。
「昨日真由と、友人になった、ので1ミリも、恋、愛感情を抱、かないこと、を証明しよ、うかと……うっ」
揺らされすぎて気持ち悪くなってきた気がする。先程の柏原の拳骨も効いているかもしれない。
途切れ途切れにでも理由を説明するとパッと手を離されたので、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。委員長はじっと無言で私を見つめて、こちらの言葉の真意を探ろうとしているようだ。
「…ホンマに?」
「はい。熟女に対する愛は揺るぎなく」
「「「そっち!!??」」」
「…え、つか狩野お前ネタじゃなくてマジで熟女好きなの???」
「人の性的嗜好に文句があるのか」
「ユズりんは性的嗜好とか言わへん!!!」
「委員長は僕の何を知ってるんですか」
「ユズりんが冷たい!お父さんそんな子に育てた覚えはないで!!!」
「育てられた覚えもないです」
全校生徒、および麗しの風紀委員長様にライバル判定されないために手段は選んでいられない。ヒロインの恋路をサポートするのに、校内唯一の同性の友人という立場は捨て難い。秘密を共有したことで一気に近づいた距離を利用しない手はないが、それで全校生徒からの敵意に晒され行動しづらくなるのでは本末転倒だ。
身体を張ったかいがあってか、周りの視線から鋭さは既に抜けているようだ。騒がしい委員長と柏原を横目にヒロインにドヤ顔しながらサムズアップを送ると、ゴミを見るような目で見られた。解せぬ。




