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「狩野君、おはよう!」


「狩野君、一緒にご飯食べてもいい?お弁当作ってきたから狩野君にも味見して欲しいな」


「狩野君、今度の日曜日…もう予定、入ってるかな?」


「狩野君」「狩野君」「狩野君!」













…たすけてかみさま。

悪魔の下僕が言うセリフじゃないのは重々承知だクソったれ!
















「…で、どういう事か説明してもらおうか」




空き教室の片隅で男二人に追い詰められ、為すすべもなく座り込む。降参の意を示す為に私は静かに両手を挙げた。残念ながらこの場で薄い本が厚くなる展開など起きない。


剣呑な眼差しで私を見下ろすのは、短く切り揃えられた黒髪で人でも殺してそうな目つきをした柏原と、派手に染め上げた金髪でジャラジャラと過多に身に着けたアクセを揺らす三船の二人だ。随分と対象的な見た目をしたこの二人は見た目の印象通りに仲が悪い筈だが、今回だけはどうやら仲良く結託しているらしい。そんなところで柔軟性なんて発揮しないでいい。





「どういう事、と言われてもな。正直僕の方が聞きたい」





保健室での遭遇直後、学校中のアイドル樹原真由にものすごい勢いで纏わりつかれるようになった。そう、この不良高校の唯一の華であるヒロインに。逃げられると追いたくなる気持ちはまあわからないでもないが、全く不毛にも程がある。どれだけ想いを伝えられようとこちらには応える術などないというのに。というか恨み言ぐらい言わせてくれ。猪突猛進なヒロインのせいで、学校中の人間に敵意やら殺意やらを向けられまともに気を抜ける時間がないのだから。現在進行系で。




「お世話役だかなんだか知らないけどよ、ちょっと調子乗り過ぎじゃねえの?」


「かりのんってば全然興味ないフリしてコッソリまゆちゃんにアプローチ?ずっるいなあ」


「いや…アプローチというか…僕としては突き放したつもりだったんだが」


「はア?」




溜め息混じりに以前の保健室での出来事を説明する。この二人はかなり喧嘩も強く、かつ、めちゃくちゃ気のいい奴等なので敵対しないに越した事はない。まあ魅了効果と儚い友情なら、友情がドブに捨てられるのは分かりきっているんだが。





「…おい。なんでお前が真由に抱き着かれたんだバカリノ」


「僕が知るか。たまたま寒かったんじゃないのか」


「かりのんかりのん、ムカつくからぶん殴っていーい?」


「…勘弁してくれ三船。僕が貧弱なのは知ってるだろ」


「貧弱そうなのは見た目だけでえ、意外と丈夫なのも知ってるよーう」


「お前ボッコボコにされても次の日案外ケロッとしてるしな」


「毎日牛乳飲んでるからな」


「かりのんが丈夫なの牛乳のおかげなのー?カルシウムって凄いなあ」


「…今の冗談まともに信じるとか馬鹿じゃねえのかクソ風紀。…ああ、前から馬鹿だったっけ悪い悪い」


「あっははー、悪人面した童貞野郎に馬鹿にされたくないなあオレ」




話が逸れたせいか場の空気が少しだけ緩む。二人ともまだ納得いかなさそうな様子だったが、一年間かけて築いた友情のおかげかどうやらリンチは免れたようだ。ビバ友情。儚いとか言ってごめんね。

言い争う二人を尻目に壁に身体を預けると、懐から煙草を取り出し火をつけた。すっと目の前に手を差し出されたのでライターを投げ渡すと虚空に向けてゆっくりと煙を吐く。…なにやら視線を感じて目線を二人に戻すと物言いたげな表情を向けられた。




「…なんだ」


「…いやあ、かりのんが煙草吸ってんの、いつ見ても変な感じだなあって」


「…お前のキャラ的に似合わねえ筈なのに、なーんかしっくりくるっつーかなんつーか」


「煙草ぐらい黙って吸わせろ」


「風紀の副委員長サマがいっけないんだあー」


「見咎められたらお前らのせいにすれば問題ないな」


「おいこら」




柏原に軽く肩を小突かれたものの、穏やかに変わった雰囲気に久々にリラックス出来たおかげか思わず笑みがこぼれる。が、しかし。…気が緩んだ次の瞬間に鳴った通知音に笑みがそのまま凍りついた。

恐る恐るポケットから取り出したスマホにはメッセージが一言。『放課後、風紀室』…なんてことはない。ただの死刑宣告を告げるお知らせだ。




固まった表情に事態を察したのか二人の顔に憐憫が浮かぶ。まぎれもない同情にカラ笑いを返すとまた煙を肺に深く吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。「…愛しの委員長様からラブコール」




「…今更だがな。よりにもよって、この僕が、委員長の狙っている女の子に本気で手を出すと思うのか?お前らと違って自殺志願者じゃあないんだよ僕は」


「「…ああ…」」





この九重東学園で絶対に逆らってはいけない代名詞といえば、何を隠そう我らが風紀委員長、夏伐勇人様である。入学当初に学園全体を拳一つで纏めあげ、襲いかかる他校の連中を千切っては投げ千切っては投げ、歩いた跡には血の跡しか残らない鬼の風紀委員長だ。ちなみに表現に一切の誇張はない。ガチで人間か不安に思うレベルでチートな戦闘力を誇る男である。

いやあ、なんだ。百人近くの不良の集まりを無傷のまま30分で土に還す男子高校生とかそれなんてファンタジー?ここ現代日本だよね?流石のゾンビでもビビりますよ?





「…僕が死んだら僕の部屋のエロ本の処分は任せた」


「お前エロ本持ってんのッ!?うっそマジで!?狩野がエロ本!?」


「まっかせてえ。ちゃあんと教室に張り出しするからねえー」


「物理的な死後に訪れる社会的な死か…哲学的だな」


「でっしょーう」


「ツッコミが追い付かねえ!!!」





いくら可愛がって貰っていたとはいえ、愛に盲目な今の委員長に話が通じるとは思えない。むしろ可愛がっていたからこそ、裏切られたと感じてるのではなかろうか。

…ああ、何も見なかった事にして家に帰りたいなあ。なんだか、売られる子牛の気分だ。




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