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ロックオン




眼が合った瞬間、ほのかに彼女の頬が赤く色付き、一段と色香を漂わせた。

ああ、うん、えっと…どうしてこうなった?








本日は保健室に負傷者を引き摺っては放り込み適当にベッドに転がす簡単なお仕事、諸々の屍が片付いたところでいざ風紀室に戻ろうとした途端にヒロインと出くわす始末。今日の運勢は大吉だったか大凶だったか。




「…あれ。樹原さん、どうしたんです?具合でも悪いんですか?」


「あ、狩野君。えっと…ちょっと足首捻っちゃって」


「…どこの馬鹿にやられたんですか?風紀の方で指導しておきますので、相手の名前か特徴を教えて頂けませんか」


「ち、違うの!ちょっと躓いて転んじゃっただけなの!」


「そうですか。…すみません、早とちりを」


「ううん。心配してくれたんだよね、ありがとう狩野君」




ニッコリと笑う君は僕のエンジェルかっこ笑いかっこ閉じ。

こんなに可愛らしいオンナノコなんて勿論天然モノな訳がない。メイドイン悪魔製の美貌とか最先端すぎるなあ全く。

しっかしどうしたものか。保健医はいつも通り職務放棄で何処かで煙草でも吸ってるだろうけど、探してくる間ヒロインをずっと放っておくのも可哀想か。カーテンの向こうに死屍累々の惨状が広がってなければ選択肢としてはありだったんだが、ヒロインに無駄なショックを与える必要もないし。

戸棚から湿布と包帯を取り出して小脇に抱えると、そのまま椅子を引きヒロインに視線を向けた。




「どうぞ」


「え」


「先生、暫く戻らないようなので。自分で手当するのは大変でしょう?」


「えっと…狩野君が手当してくれるの?」


「素人ですので応急処置程度になりますが。それとも先生をお呼びした方がよろしいですか?」


「ううん!狩野君がいい!」




…ん?なんか凄くテンション上がってないかこの子。気の所為かな。

いそいそと用意した椅子にヒロインが座るのを確認して、そのまま彼女の足元に片膝をついてしゃがみ込んで足首の状態を確認する。




「右?左?」


「…ひ、ひだ、り」




左側の靴を脱がして触診すると、どうやら少し腫れているようだ。この程度なら湿布でなんとかなるだろう。




「…ん。ちょっと腫れてますね」


「…う、ん…」


「樹原さん。患部に湿布を貼りますので靴下を…」





あれ、なんで顔赤い…?




…。




………。





………………!!





赤面している女子生徒の足元に跪いて靴下越しに足首を撫で回す男子生徒…!そしてナチュラルに靴下を脱ぐように迫るだと…!傍から見たらどう考えても完全にセクハラですどうもありがとうございました!

そうだよ。今私、学ラン着てるんだよ。オンナノコの足首撫でた挙句に靴下脱げって完璧に変態じゃないですかやだー。

慌てて彼女の足首から手を離し立ち上がろうとしたものの、ヒロインに肩を掴まれ制止させられる。




「えっと…樹原さん?」


「…」


「すみません…やはり専門の先生の方が良いかと思いま「いや」




手が震えて、耳も赤く染まって、それでもなお、彼女は私から視線を逸らさない。





「狩野君が、いいの。手当…して、ください」





そう言うと彼女は自身の左足に纏う靴下に手をかけ、そのままするりと脱いでしまう。白く艶やかで、なんとも触り心地の良さそうな少女の生肌が視界に晒された。短いスカートから覗く太腿から爪先までのラインは思春期の男子生徒なら思わずかぶりつきたくなる位魅力的だろうが、あいにく私は生物学的には女である。もう一度言おう、どれだけ絶壁な胸板を誇ろうとも女である。いっそ泣きたい。



どう返答すればいいかわからず、けれど逃げ出す訳にもいかないので諦めて無言で手当に戻った。いかに素早く終わらせるかタイムアタックに挑戦する気分で機械的に作業を行う。そして手当が終わると引き留める隙を与えないようすぐに立ち上がり、包帯を仕舞うために彼女に背を向けた。




「…狩野、君」


「…なんですか」


「私のこと、きらい?」




後ろで彼女が立ち上がった気配がした。そのまま私の背中にそっと寄り添い、囁くように彼女は問う。




「仁君や紀正君にはタメ口なのに、私にはずっと敬語だし。いっぱい気遣ってくれる割には、近付いてもすぐ離れちゃうし」


「柏原や三船は男で、樹原さんは女性ですから、扱いも変わりますよ。あと…」




首だけ振り返り視線を合わせると、突き放すように鋭い眼差しを向ける。




「さわられるの、嫌いなんです。離れてくれませんかね?」


「あ…ごめん、なさい」


「樹原さん」


「…はい」





ヒロインに正面から向き直り、腕を組んでキツく睨み付ける。ここでキッチリ突き放しとかないと非常にマズい。今すぐこのフラグを死に物狂いで叩き折れと脳内の警鐘が鳴っている。今の一番の問題は私とヒロインが同性という事実ではない、どれだけ頑張っても私は一生彼女を愛せないであろうという事実だ。



契約履行のサインはただの口付けでは意味がない。出会い頭の事故チューでゲーム終了なんて面白味が欠けるという悪魔の判断で『愛し合う二人の口付け』が契約の証となっている。極端な話お互いにほんの僅かでも愛さえあれば、同性だろうと犬猫だろうとロボットだろうと構いやしないのだ。そう、お互いに、愛があれば。




「僕は、貴女のサポートを任されておりますので、与えられた仕事はこなします。ですが必要以上に貴女と関わる気はありませんし、貴女を好く事もありません」


「…どうして?私、狩野君になにか嫌われるような事、した?」


「ええ」




つまり、私が1ミリも彼女を愛せない以上、彼女が万が一にでも私に惚れた場合、その時点で完全に詰むのである。




「僕、貴女みたいに空気読めない人って、見てるだけで虫酸が走るんですよね」




泣き出した彼女から視線を逸らし、静かに保健室を後にする。

完全に、サポート役としての発言を間違えた気がする。…つーか何でイケメン揃いのこの学校でよりにもよって顔面偏差値が悲しい数値の私に粉かけたんだ。誰彼構わずにも程があるだろうに。思わず溜め息が零れた私をきっと誰も責めないだろう。


















…そう。











私はこの時、全く気付いていなかったのである。











肉食系のオンナノコは











追われるより追う方が俄然燃えるという事を。




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