休日そのよん
「…僕の話を、聞いてくれるかい?」
「ん」
「僕は元々は名もない小さな悪魔だったんだ。親は知らない。物心ついた時には薄汚いゴミの山で人の死肉を喰らって生きてた」
「…ん」
「何もかも失敗だらけの毎日さ!手に入れたと思ったら奪われ、愛したと思ったら裏切られた」
「……」
「生きていくのに必死で、奪い、憎み、殺して、…気が付いたらあらゆる悪魔に恐れられる位強くなってた」
「………なあ」
「どれだけ強くなったところで、結局僕は昔と何も変わらない。今もずっと、ひとりぼっちのままだ」
「なあそれ、まだ続くの」
バリボリと柿ピーを噛み砕きながら、話を遮る。ビールのツマミにするにはつまらない話だ。
ソファーに座りながら缶ビールを喉に流し込む。床に座りながら此方を仰ぎ見る悪魔はいかにも不満そうだ。
「酷いよキティ!ここから君への口説き文句にシフトするのに!君ってば僕の人生に興味ないのかい?」
「まあ、本音を言うなら全くないけど」
「うっ…キティが冷たい!人でなし!」
「死人だからね」
「なら仕方無いね!キティ大好き!」
「そりゃどーも。…ところで前にマスターが話した時には自分は元々天使だったとかほざいてましたが、その件については」
「善処します」
「何を!?」
悪魔の生い立ちトークは毎回ネタが変わるので飽きないと言えば飽きないが、興味のない長話には違いないので殆ど聞き流すようにしている。
こんな下らない話をしている間も、悪魔がコントローラーのボタンを押す速度は少しも緩まない。これこそがゲーマーの心意気、画面すら見ずに連鎖を積み上げていく修羅のような手捌き。やってるのはただの落ちゲーだが背中に鬼神でも背負ってるような迫力だ。
「マスター」
「なんだい?キティ」
「愛してる」
あ、ミスった。
「キティが…キティがデレた…!!」
「嘘だけど」
「キティ…!」
缶ビールが空になったのでそのまま脇に積み上げる。積んだ空の缶でそろそろタワーが完成しそうだ。ほんの少し愉快な気分でまた中身の入った缶ビールを手に取った瞬間、積み上げた缶の山を蹴り倒された。
「…マスター?」
「ふふん!さっき僕のゲームを邪魔した仕返しだよ!あとキティの愛の言葉に喜んだ僕の純情を返してー!」
「…いい、度胸だなマスター」
「キティなんか恐くないよ!僕の方が主人だって事をその身体に刻んであげる…!」
「…マスター」
「…キティ」
「「勝負!!」」
ゆらりと立ち上がり、相手を睨み付ける。幾度となく争った相手だ、互いの力量はわかっている。勝負の決着がつくのは一瞬だ。タイミングを見計らいながらジリジリと距離を詰める。
ほんの一瞬、だがその一瞬に全身全霊をかける。それが相手に対しての、また自分自身の誇りを保つ為に必要な礼儀だからだ。
「「………………っ!!」」
いざ、
「「最初はグー、じゃんけんぽん!」」
勝った!いや、気を抜いてはいけない。まだ相手は諦めてなんかいない。右か?いや、左…違う、これは!
「あっち向いて…ホイ!」
上だッ!!!
「負け、た…僕が…負けるなんて…!」
「勝負はいつも無慈悲だ。残念だったねマスター、私の勝ちだ」
「くっ…くそ、くそくそくそくそううう!!!」
「ふははははー」
「…キティ、高笑いぐらい棒読み止めたら?」
「感情を込めた台詞がご希望なら別料金になります」
「おいくら?」
「25653844805ペソ」
「はい」
「持ってんの!?」
この後したくもない高笑いの練習をする羽目になったのは割愛しておこう。
身から出た錆とはいえとにかく無茶苦茶疲れた。ノリと勢いで喋るもんじゃない。




