スケジュールそのいち
とあるゾンビの一日。
5:00 起床
睡眠はもはや必要としていない身体だが、なんとなく習慣としていつも眠ってしまう。正確には眠るというよりは気絶しているような状態なのだが、まあ大差ないだろう。
必要のない朝飯も食パンに蜂蜜と生クリームを塗りたくり粉砂糖をまぶしてきっちり頂く。味付けは御容赦下さい。強烈な甘味や辛味でないと、舌が認識できないのである。
食後の一服は換気扇の下で。喫煙者には肩身の狭い世の中になったが、制服を着なければいけない身としては尚更辛い。一応、身分証明書上は未成年となっているので何一つ言い逃れのしようもないのだ。私服なら外で吸えない事もなさそうな顔面なのだが。
6:00 登校
マンションから学校までは歩いて10分かかるかという所だ。まだ学生の姿は一人も見受けられない。どこぞの少女漫画のように塀をよじ登り校内へと侵入する。勿論校門同様玄関入口もまだ閉まっているので事前に開けてある窓から入る。
足音が響くので靴を脱いだ状態で静かに靴箱まで進む。
足音を警戒しつつ、梓の靴箱に入っているモブからのラブレターと果たし状を回収し中身を確認する。不穏そうな物にチェックをつけすぐさまその場から離れた。
なにが面倒かって魅了効果が男子全てに適応される事である。※ただしイケメンに限る、くらいの融通さを設けて欲しかった。愛情が必ずしもプラスに向かうとは限らない。一人二人ならヒーローの出番だが、毎度毎度モブに多大な尺を払う必要もない。不要なイベントはスキップするのが最短クリアの基本である。
もとより、女子の反感は言わずもがな。
8:00 接触
梓の席にあった悪戯を片付けた後、空き教室で適当に煙草を吸いつつ時間を潰し、頃合いを見計らって窓から校舎外へ脱出。なに食わぬ顔で生徒の群れに混ざる。
着地の際に足首から歪な音がしたが、見た目に問題がないので放置する。不都合が出たら悪魔に修理を依頼しよう。
教室には既にヒロインこと梓が登校済なので笑顔で会話を始める。今朝は生徒会長と一緒に登校したらしい。うむ、よいよい。一途な女の子のためならお姉さん頑張っちゃうよ。なんたって美少女だし。中の人などいない。
9:00 授業なう
担任の紫野郎が梓に熱視線を送るのを遮る。イラッとしたのか黒板の問題を解くように言われたので、サラサラと解答を書き梓に見えない位置から鼻で笑ってやった。いや、別段紫に恨みがある訳ではないんだが、公私混同は良くないと思うのよ。
13:00 お昼
生徒会長に攫われていく梓を笑顔で見送り、教室から出る。助けを求められていた気もするが、気の所為だろうきっと。コミュ障には辛い生徒会メンバーによる逆ハーモードだろうけど、頑張って生徒会長に助けて貰うんだよ梓ちゃん。
朝方回収した手紙で指定されていた場所に向かい、穏便に話をつける。交渉(物理)は乙女ゲーの基本中の基本である。一般的な男子高生女子高生は問答無用で殴りかかられる経験などないようだ。こちらはいくら反撃されてもノーダメージなのでチートもいいところである。この前は校舎裏で不良のお兄さんに鉄パイプを持ち出され、うっかり首が折れ曲がってしまい、相手のSAN値をゴッソリ削ったのは反省していなくもない。稀なケースはさておき、大抵の学生は吐くまで痛めつければ大人しくなるので助かる。あとは恥ずかしい写真を撮った後にお帰り頂けば終わりだ。
16:00 放課後
本日梓は生徒会長とデートらしい。よし、良い調子である。モブを二三件片付けた後に、デートを邪魔しようとする生徒会メンバーを妨害する。梓の友人とあってか無下にもできないようで悔しそうな顔が大変メシウマである。強引に突破しようとする場合には交渉(物理)を使おうと思っているんだが、今のところその機会はない。残念だ。
18:00 尾行
生徒会メンバーを出し抜き、デートの様子を確認する。その際再度モブを二三件片付け、バレないよう注意深く観察する。カフェに入ったのを確認すると裏口から侵入し、スタッフを一人気絶させると服を剥いでロッカーに押し込みさり気なく紛れ込む。本来であれば服が変わった程度ではバレてしまうのだが、元々死体だと認識されづらいよう、私の存在はこちらから干渉しない限り他人からは意識されないようになっているのだ。とはいえ、あまりに違和感が激しいと普通にバレるのでわざわざ服を剥いだのだが。
店内のBGMをムード溢れる音楽に変え、うるさいモブを通り過ぎるついでに黙らせ、会話の内容を盗み聞きする。なんとも甘酸っぱい青春を送ってるようでなによりだ。私の人生にもそんなことがあったような気もしたが完全に気の所為だった。店を出るようだったので料理を軽くつまみ食いした後、服を返却し後を追った。
21:00 帰宅
デートも終わり、梓が家に入ったのを見届けると私も帰宅する。帰る前にストーカーを片付けるのも忘れずに。ここまでくると美少女というより誘蛾灯の一種だろう。際限なく男を虜にする魔性の女だ。一体何匹絞め落とせば終わるのやら。
帰宅後缶ビールと枝豆を取り出し、資料に目を通しながら一杯やる。逐一データが送られてくるので助かるには助かるんだが、悪魔って意外と暇なんだろうか。
23:00 就寝
軽くシャワーを浴びベッドに入る。
それでは、おやすみなさい。