休息
いつの間にか持ち物に追加されていた今回のヒロインの資料に関しては、全て目を通せたのでそのまま処分をした。
野宿を経た後の宿屋で久しぶりのベッドに深く沈むと、無性に眠ってしまいたくなる。
その衝動を遮るかのようにポケットのギルドカードが鈍く振動した。普段の携帯との違いから形状に著しく違和感を覚えながらも、恐る恐るカードを耳に当ててみる。
「…ハロー?」
『ハロー!キティ元気?』
「やっぱりコレ電話機能付きかよ」
『キティのための特別製だよ!お得機能を多数搭載!』
「ちなみにマスターのオススメ機能は?」
『三回連続で振ると辺りに納豆の臭いが漂う』
「何故搭載した!?」
『日本の食文化に敬意を表して?』
「敬意どころか冒涜の極みだわ!」
と言いつつも電話しながら三回振ってしまうあたり、私も大概アホである。すぐに部屋いっぱいに納豆の臭いが漂い何とも言えない気分になった。念の為申し上げておくが、私は別段納豆が嫌いな訳じゃない。だが大抵の人間には、納豆を食べる訳でもないのに納豆臭に包まれる趣味はないだろう。
「つーかマスター、聞いて聞いて。なんか神官様が神様パワー発揮で悪魔パワー見破るの巻」
『ガンバ☆』
「救いはないんですか」
通話の向こうで低く笑う声が伝わってきて、いつも通りだなあ、なんてしみじみと思った。いい加減この悪魔の愉快犯的テンションに慣れるべきなんだが、諦め切れずについ溜息が漏れる。
『別に見破られたところでどうにもならないよ?』
「えー、困んない?」
『たかだか一神官程度が僕の力に影響を及ぼすとも?』
「ですよねー」
そもそも大前提として、勇者召喚時に発生したであろう神様パワーを捩じ伏せて悪魔はヒロインを召喚させたのだ。
原理まではよくわからないが、途中で横槍を入れられる位だ、力は拮抗しているか此方の方が上なんだろう。
「そういや、よく勇者召喚なんて都合良くあったね」
『そりゃあ魔王復活させたしねえ』
「おい」
『てへぺろ☆』
おまわりさん、コイツです。
つまり、アレか。ヒロインを勇者として異世界に放り込む為にわざわざ魔王を復活させ、勇者召喚を促したと。鬼か。
『いいえ悪魔です』
「まだ声に出してないんだけど」
『まあそんな訳で気にせずお仕事してちょーだい!このままヒロインに同行するんでしょ?』
「呪いだなんだでこじつけたら同行オッケー出たんだよ。何故か神官様も賛成したしな」
『裏があるのかな?』
「さあ」
仕事の邪魔にならないなら何でも良いんだが。考え過ぎても仕方ないし絡まれたら適当にあしらうか。
「つーか聞いてて思ったんだけど、最初っから私が魔王ポジションでよかったんじゃない?」
『可愛いキティに少しでもファンタジー世界を満喫して貰おうと思って…!』
「お気遣いありがとう。そのおかげで今現在神官様の熱視線で胃がマッハな訳ですが」
『キティってばモテモテだねえ!』
「ああ、うん。あまりの視線にときめき過ぎて死にそう」
『死んでるのは…!』
「私だ!」
『正解!』
「わーい」
扉をノックされたので通話を切る。
おっと忘れてた。扉を開ける前に部屋の換気をしなくては。




