月夜の逢瀬
手を伸ばしたら届くんじゃないかと、そんな馬鹿げた考えが浮かぶ位に吸い込まれそうな美しい月だった。
喉元には銀色のナイフが突き付けられていて、身動きする度に月光を反射して煌めいている。
地面に無様に転がされながらも、ただひたすら月と青年に見とれていた。
ああ、何て絵になる光景なんだろう、と現実逃避もそこそこに。
お金がないレベルもない運もない、という事で近くの町まで同行させてくれと頼み込んだ。
持ち物の公開に加えて涙ながらの土下座が効いたのか快く承諾して貰い、言われずともいそいそと雑用をこなす。
今後の展開はまだ迷っている最中だが、なんたってヒロインは麗しの女勇者様だ。下々の人間がついて行きたい理由には事欠かない。出来るだけ好感度を上げて無理矢理にでもパーティーインしなければ。
「キャロルちゃーん?」
「は、はい!お呼びですかナオミ様!」
「もう、キャロルちゃんったら様付けなんてなくていいよー、ナオミって呼んで?」
「む、無理ですよー!」
いやあ憧れの勇者様にフレンドリーに接してもらえるなんて嬉しいなあカッコボウヨミカッコトジ。
にしてもこのお嬢さんいくらチート付いてるからって、よくもまあバッサバッサとモンスター切り捨てられるもんだ。躊躇いとかないんだろうか。もしかしたらそのへんも悪魔に調整されてるのかもしれないが。
日も暮れ夜が深まると、見張り以外は各々仮眠を取り始める。今晩は麗しの勇者様は見張り免除、怪しい私は見張り付きの見張りだそうだ。私が見張る意味あるのかソレ、などというツッコミはもちろんしなかった。交流の機会があるに越したことはないし。
目を閉じて羊でも数えていよう。その内私の番が来るだろう。
羊に筋肉質の脚が生え全速力でレースをしだしたところで、身体を揺すられ起こされた。ゆっくりと瞬きをしながら、欠伸を咬み殺す。薄暗くて見えづらいが、揺すった犯人はどうやら神官の青年のようだった。そのまま場所を移動するよう彼に促されたので特に抵抗もせずにのんびりと追う。
パーティーに声が届かない程度の距離まで離れると、前触れなしに掴みかかる勢いで地面に押し倒された。うん。意味がわからん。
こうして冒頭の現実逃避に戻るのである。
「…し、神官様…?な、なにをなさるのです…?」
「穢らわしい魔の者が。私に向かって馴れ馴れしく口を開かないで頂けますか」
「…?なんのことですか?私は人間ですよ?」
「バレてないとでも?貴女が出身地と称した村は既に魔物に滅ぼされているんですよ。一人残さずね」
「………」
「そして何よりその身に宿る悪しき魔力…『勇者』と同じ」
「ナオミ様と…?」
「ええ」
…マジかよ。悪魔パワーが感知出来るのかコイツ。私一人なら適当に呪われただのなんだの、話作って誤魔化そうと思ったんだが…。
「勇者様、なのに悪しき魔力…?」
「ええ。穢らわしい、と感じている私ですら惹き寄せられるほどの」
よし。魅了が効いていない訳ではないんだな。なら、希望はある。
「一体全体、貴女達は何者です?何が目的なんですか?」
「…ナオミ様に、関しては、わかりません。ただ私は…」
「私は?」
「その、悪しき魔力とやらの持ち主、白髪の魔人を殺したい、だけ…!」
「…ほう」
「…ソイツのせいで…村の皆は…私の身体も…!」
一人マナーモードで激情に駆られて震えてみる。嘘と本当を織り交ぜる事が騙す時の基本である。実際誰でもいいから殺せるもんなら殺してくれないだろうかあのクソ悪魔。
「…貴方方に危害を加える気はありません。私は私の目的を果たしたいだけ。ただ、もし神官様の仰る通り、あの魔人がナオミ様にも関係しているのでしたら…」
「………」
「何と言われようと意地でも私はナオミ様についていきます。それだけが私の生きる理由ですから」
「そう、ですか」
何をどう納得したのか彼はナイフを下ろし、上から退けてくれた。そしてそのまま話をそれ以上追求するでもなく、また皆のいる場所へと踵を返して戻っていく。
…なんか、どっと疲れた気が………これからどう動こうか。




