入学式当日
主役か脇役かが一目でわかりやすくて助かる。
体育館内を見渡す限り黒か茶色の頭の群れの中にところどころ赤やら青やら派手な色が混じっている。
イケメンだろうがなんだろうが日本人としては違和感が半端ないが、コンセプトが乙女ゲームだから仕方ない。
入学式は滞りなく終了し、教室に戻った。
入学式が始まる前の出会いイベントの為に木に登り桜の花びらを撒いたり子猫を使ってヒロインを誘導したりもしたが、そのへんはどうでもいい話だろう。
私が今回初めてサポートするヒロインの名前は「倉橋 梓」だ。本名か今回限りのハンドルネームかは知らないがひとまず識別できればなんでもいい。
ピンク色のふわふわロングを靡かせ、まあるいお目目をパチパチさせる美少女だ。素晴らしい。とても素晴らしい。可愛いは正義である。ちなみに悪魔から貰った資料として現実世界の写真も手元にあったが、そちらはただの汚ブタだった。もちろん私は確認後見なかった事にして即シュレッダーにかけた。いや、なんだ。着ぐるみの中に人が入ってると知らされた子供の気分になったので。
イケメン生徒会長と桜の木の下でエンカウントさせ、裏庭で不良のイケメンともエンカウントさせた。ひとまずメイン二人の出会いイベントはクリアだ。
あとは生徒会繋がりで副会長やら会計やらとは食堂で会わせればいいかな。とりあえずヒロインに接触しタイミングをはかろう。
あまり大多数に暗示をかける訳にはいかないので、学園ではどうしても新入生か転入生のどちらかの立場でしか紛れ込めない。ほら、私もヒロインも偽造戸籍だし。
やっぱり恋敵として登場するならヒロインより一年位早く待機してなきゃ厳しいなあ。いや、もちろん一目惚れです☆で邪魔しても良いんだろうが、ヒーローと関係性皆無からのスタートだと相手にされなすぎて盛り上がらないと思うんだ。恋敵の方が面白そうなんだけど、初回だし今回は諦めて親友のサポートポジションでいく事にした。
「ねえ、あなたの名前聞いてもいい?」
「え、はい?」
「急に話しかけてビックリさせちゃったかな。ごめんね?私の名前は『楠木 優香』だよ。宜しくね!」
もちろんこちらは十割偽名である。出席番号を近い番号にして前の席に座るために苗字は気をつけたが、後は適当につけました。
契約書に署名した段階で悪魔の台詞通り自分の名前も奪われたようで、元の名前がなんだったのかは全く思い出せない。少なくともアイツが呼ぶキティというあだ名にイラッとするくらいだから、DQNネームじゃなかったと信じたいが。
「わ、わたしは倉橋 梓です…よ、よろしく…」
「うん、よろしく!」
あ、この子コミュ障っぽい。なんだか一気に親近感わいた。キラキラの美少女っぷりにそぐわぬ大人しさで、ちゃんと恋が実るかちょっと不安になった。まあでも魅了効果ついてるんだし放っといてもホイホイ釣れるだろうきっと。
「ここの食堂すっごく美味しいらしいよ?ね、お昼に一緒に行ってみない?」
「う、うん…!」
お、ちょっと目が輝いた。美味しいご飯に反応したのかイベントフラグに反応したのかどっちだろう。腹ペコキャラなら可愛いのにな。
とりあえずヒーロー共のタイムスケジュール見ながら適当に調整して、全員出会わせた後とっとと本命を見定めないと。
逆ハー狙いでも構いやしないんだが、口付けが契約履行のサインらしいので色んな人間とキスしまくりのビッチはちょっと勘弁願いたい。あと校内を走り回らなきゃいけなくなりそうだから体力的に辛すぎる予感がする。体力とか無限状態だけども、気分的に。
ニコニコしながら適当に世間話を続けているとチャイムがなり、前に向き直ると先生の話が始まった。ちなみにこの先生も主要キャラたるイケメンである。髪の毛はまさかの紫。公務員にあるまじきカラーである。教育委員会は一体何をやっているんだ。
自己紹介が始まり自分の番が来たので適当に喋った。後はモブはそのまま聞き逃し、メインヒーローっぽいカラフルカラーの頭をした同級生の名前だけしっかり頭に叩き込む。贔屓?いえいえ、これもお仕事のうちですので。
退屈なレクリエーションが始まる。くるくるとシャーペンを回す私を悪魔はあの部屋から覗いてるんだろう。
欠伸を噛み殺して先生の話にひとまず耳を傾けた。