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お風呂上がりなう








「……じゃあ、また明日ね。おやすみ兼成、愛してるよ」




ブツリと電話を切った直後にテーブルの上に置いておいたタブレットに通知が来ているのに気付く。頭の上に乗せたタオルで乱雑に髪の水分を飛ばしながらテーブルに近付き、携帯を横に置くとそのまま片手でタブレットのロックを解除した。

どうやら悪魔からのメールのようだった。仕事に関する資料がようやく届いたらしい。添付されているファイルを碌に目を通さず片っ端から印刷する。すぐに破棄しなければならないデータを印刷しても、ただインクが勿体無いのはわかっているんだが…デジタルだとどうにも目が滑ってしまうのだ。やむを得ない。




印刷された紙の束を一枚一枚捲りながら目を通していく。今回のヒロインの経歴や好み、人間関係なとが記載されている。どういう傾向の行動を取るのか、何が好きで何が嫌いか、把握しておくに越した事はないデータがギッシリ詰まっている。





「相原、馨…ねえ」





一通り読み終わった後にヒロインの名前を呟くと、なんだか妙な違和感を感じた。何かが何処かで引っかかっていて、ただそれが何かは全くわからない。続けて何度か名前を暗唱してみても結果は変わらない。

特別支障がある訳ではないが、喉に小骨が引っかかったような違和感が取れないのでひとまず悪魔に電話をかけてみる。






『…ハロー、キティ!どうしたの?』


「ハロー、マスター。今大丈夫?」


『キティのお願いなら年中無休フル稼働で受付さ!』


「あ、そう。あのさ、今回のヒロインの件なんだけど」


『うんうん』


「なんかさ、名前にちょっと違和感があるんだけど、もしかして私この人とどっかで会った事ある?」





一瞬間があく。電話越しだと表情が読み取れないのが辛い。まあ面と向かって話したところで、どれだけ心理を読み取れるかはノーコメントとしたいが。





『…覚えてるの?』


「いや、全く。欠片も記憶にはないのに、なーんか変な感じがするんだよね」


『…ック、アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』





キーンと嫌な音がしたので携帯を耳から離す。爆笑するなら爆笑すると先に言えという話だ。心臓に悪いだろーが、微動だにしなかったけど。





『あーあ、おっかしい。友情って凄いんだねキティ!僕感動したよ!』


「爆笑しといて言う台詞じゃないと思う」




感動のかの字も出てきやしない。









『あのねえ、キティ。彼女はね。君の生前の幼馴染みで、一番の親友だったんだよ!』









「…マジかよ。全く覚えてないよ?」


『そりゃそうさ!なんたって君の体感時間からすれば飲み込めない程に遥か昔の記憶だもの!』


「しかもさっきの経歴に私らしき人間が見当たらないんだけど」


『忘れたのかいキティ。君の名前も、過去も、ぜーんぶ僕のものなんだよ?』





…なるほど。納得したようなしないような。

つまり、私は既に存在しなかった事になっているから彼女の経歴や記憶に私は存在せず。

唯一覚えているはずの私は昔の出来事過ぎてすっかり彼女を忘れてしまっている、と。





「…それ、赤の他人と何が違うの?」


『それは僕じゃなくて君が決める事だよキティ!』





それもそうか。仕事の内容に影響が出る訳でもないし、あまり気にしないでおく事にしよう。


電話を切り資料を手に取るとゆっくりと名前の部分を指でなぞる。私の親友をやっていたくらいだ。彼女は恐らく驚く程図太い神経をしている事だろう。

今回ばかりはライバルポジション狙いで早めに待機してて当たりだったなあ。嘗ての親友と対決なんて、なかなか胸が躍る展開だろう。




…まあ、お互い覚えてないんだけど。舌に残る違和感だけが親友だったらしい彼女の残滓だ。




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