入学式前日
「いやあついうっかりやりすぎちゃってね!君のところの世界が元々僕の地元なんだけど、出禁くらっちゃって」
「人間に直接ちょっかいかけれないし、あまりに暇だからゲーム始めたらはまっちゃってさ!」
「この乙女ゲー?よく出来てるよねえ、処女の妄想大爆発☆みたいな感じで!」
「それで今度は自分で遊びたくなってね!」
直接的な干渉が制限されているので、夢を渡って侵入し少女の魂を誘拐してくるらしい。この時点で完全にアウトだと思うんだが。
言葉巧みに契約書に署名をさせ、後はその子の望んだ理想の身体を作成、魅了効果をたっぷり振りかけて乙女ゲーに類似した好みのイケメンたくさんの異世界に突っ込むだけだ。
なんという出来レース、そもそも魅了効果ついてる時点で願った相手と結ばれる事は確定しているのである。
誰にだって夢を見る自由はあるだろう。その夢がそのまま現実とすり替えられるのだ。人が蝶になる夢を見ているのか、蝶が人になる夢を見ているのか、そんなもの現実だと認識したい方が現実で構わない。理想の自分、理想の恋人、願った通りのハッピーエンドがお手軽に手に入る親切設計。まあ勿論、当然のようにそれに見合う代償が発生する訳だが。
たとえ、何処か遠くで魂の抜けた死体を抱き締め泣き叫ぶ大切だった誰かが居たとしても。
たとえ、もう元の自分の顔を全く思い出せなくなっても。
たとえ、死後の安息は永遠に訪れないとしても。
願いが叶えられた時点でもう二度と戻れやしないのだ。
「つーかそれ私居なくても普通に結ばれるんじゃない?」
「君が居た方が面白そうでしょ?」
ひたすらにそれに尽きる。
具体的な成果を期待しているというよりは、より面白くなればなんだろうと構わないらしい。
とにかく盛り上げればオッケーという事らしいので、説明が終わり次第早速お仕事を開始させられた。
が、
「詰んだ…」
まさか初日で難関にぶち当たるとは思ってもみなかった。
与えられたマンションの一室で鏡と向かい合う。
生き返りなどというそういう便利な設定ではなく、死体のまま異世界に放り込まれたのがなによりの原因だと思われる。
悪魔のおかげで最低限の顔色と体温は保っているが、心臓に手を当てると動いてないのがわかるという手抜き品である。いやまあ心臓部分が問題なわけではないのだが、もう少し手を加えて工夫して頂ければ…なんというか、
死ぬほど、制服が似合わない。
そもそも享年21歳に女子高生の制服を着せる事に無理がある。元々老け顔で実年齢+3〜6歳位で見られる人間なら尚更だ。
どう頑張っても若々しさが感じられない。痛々しさなら溢れでんばかりに滲みでてるが。
というか成人済の女性が制服着ていいのなんてコスプレプレイする時だけじゃなかろうか。なんにせよボッチには無縁の世界である。
深くため息を吐くと制服を脱いで放り投げ、下着姿のままベッドの縁によしかかる。
早急に必要なものは決まった。とりあえず化粧道具を買いに行かなければならない。あと煙草も欲しい。吸わなければやっていられない。
クローゼットから適当に服を取り出し身につける。財布と鍵だけ持てば後は不要か。春先らしく過ごしやすい気温だ、わざわざコートも必要ないだろう。
金なら何故かうなるほどある。金といい住居といいサポートは万全だ。これだけ万能な悪魔ならもう直接引っ掻き回した方が手っ取り早くなかろうかとも思うんだが、数えるほどしか会話していないがアイツの性格はなんとなく察している。
万能な悪魔が動くよりも、無能な玩具があがく方が面白いんだろう。腹抱えて笑う姿が容易に想像出来る。
鍵を閉め、そのまま鍵を手で弄びながら適当に歩き出す。地図はないが薬局なんてそのへんにあるだろうきっと。
自分で言うのもなんだが、どう考えても急展開に順応しすぎである。
明日から本格的にお仕事開始だ、どうなることやら。