どれにしようかな
今回のヒロイン、胡桃本人の告白によると、どうやら彼女は男の子と同じ空間に居るだけで吐き気がするレベルで男の子が嫌いらしい。
詳しい経緯は本人からは語られなかったが、悪魔から送られてきた資料には事細かに載っていた。細かな説明は省くとして結論を述べると幼少時の性的虐待が原因のようだ。まあそりゃあこの愛らしい容姿がアバターじゃなくてリアルそのままだっていうんだから、さもありなん。
「胡桃、遅い。」
「だって悠…こんなに可愛いお菓子がたくさんあるんだよ?選べないよう…」
胡桃がいかにもわたし困っています、という顔でしょんぼりする。あらら。花も恥じらう美少女をぞんざいに扱ったせいで店員のお兄さんにコッソリ睨まれてしまった。繊細な乙女たる私はついついそれに対して嘲笑を返した。うっかりうっかり。胡桃に見えてなきゃセーフだよ、うん。
「どれとどれで迷ってんの?」
「いちごとチーズ…あ、でもあのチョコレートも可愛いなあ!」
胡桃が指差したケーキを1個ずつ注文し持ち帰りにして貰う。真横でキラキラハートを飛ばしている生き物はスルーだ。
「ぜんぶ食べてもいーの?」
「半分こでいいならな」
「うん!悠大好き!」
今の微笑みで店内のハートを全て撃ち落とした事だろう。コイツ多分魅了効果ついてなくてもイケメン無双出来そうな気がしてならないなあ。いや、結構マジな話で。天然モノの美少女ってすげえわ。
「あ…」
私が会計を済ましている間に、胡桃がケーキを包装した箱を受け取る時にわざとか事故か知らないが男性店員の指が胡桃の指を掠める。傍から見てもわかる程度に肩を揺らした胡桃の後ろから、覆い被さるようにして箱を奪い取った。
「落としたら大惨事だっての、ドジっ子も大概にしろよ胡桃ちゃん」
「…もう!別にわたし、ドジじゃないもん!」
むくれる表情に影がない事を確認すると踵を返してお店の扉を開け、先に店を出るよう胡桃を誘導する。胡桃が先に出たのを確認すると同時位のタイミングで先程の店員を睨みつけておく。怯える素振りからみるに先程の行為はわざとだったようだ。顔は覚えたよお兄さん。次はない。オーケー?
「…悠?」
「ん?なに?」
「どうかしたの?」
「どうもしないけど、なんで?」
何事もなかったように扉を閉め首を傾げると、胡桃はそのまま誤魔化されてくれたようだ。それにしてもイケメンがちょこちょこ出現する割には胡桃に似合いの奴が居ない。先程の店員もかなりのイケメンだったんだが、胡桃を怯えさせた時点で論外だ。
「…んー、きのせい、だったみたい?」
「変な奴。…ああ、お前が変なのはいつもの事だな。悪い悪い」
「もう!悠ってばひどーい!」
まあ進行は順調とは言い難いが、全く希望がないわけではない。そもそも悪魔のおかげで自由に容姿を選べるというのに、トラウマたっぷりの自分の容姿をそのまま選択するくらいだ。根はビッチかドMの二択だろう。
…ああ、例外としてありのままの自分を愛してくれる、イヤラシくない素敵な王子様がきっと居るはず!とかいう僅かな希望に縋っているピュアガールという可能性もあるか。うん。もしそれなら男を何だと思ってるんだって感じだがな。好きじゃなくても欲情出来るだろうけど、欲情抜きで好きになれとかそれなんて無理ゲー。
「…風が冷たいな。さっさと行こう」
「あー!待って待ってえ!」
胡桃の歩く速度にのんびり合わせてはいられない。無理矢理手を繋いで引き摺るようにしながら進む。
…同性に蛇蝎のごとく嫌われそうな性格もお顔のパーツも可愛らしくてすごく好きなんだが、あの糞マスターと口調が似ててどうにも鳥肌がたつ子だなあ。




