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ラスボス戦(後編)





「…はぁっ!!」


ザクリと忍君の放った苦無が朔夜の肩に突き刺さるも、彼には全く影響していないのか眉すらもピクリとも動かさない。

先程から何度も致命傷と呼べるだけの傷を負っているのに、まるでゾンビのように何度も何度も起き上がって彼はこちらに向かってくる。



「お、おお…せ…のままま…まに…」



呟く言葉は決まって同じ言葉。壊れた玩具のように何度も、何度も、彼女への忠誠を口にしまた立ち上がる。

朔夜の眼に光はない。思考する力すらとっくに失われているようだ。自分がどんな傷を負っているかも気づいておらず、もはや身体の傷が手遅れになってもまだ立ち上がり続ける。




「お………お…せ……せせ…」




しかしついに限界が来てしまったのか、ドシャリと糸が切れた人形のように朔夜はその場に崩れ落ちた。もう動く力なんて何処にも残っていないのに、それでも立ち上がろうと彼は身動きを続ける。何度も、何度も。










「…どうして?」




…見ていられなかった。彼を殺そうとしている私が言っていい台詞じゃないのはわかっていた。でも、どうしても、彼女の無感情な眼が許せなかった。





「どうして、こんな酷い事をするんですか?こんなにも彼は、貴女の事を想っているのにっ!!」



「…酷い、と申すか。一体全体何が酷いのかえ?わらわの為にこんなにも尽くせておるのじゃ。朔夜も本望じゃろうて」



「…っ」



「よせ、彩。こいつに何を言っても無駄だ」





感情的に怒鳴りつける寸前に春彦君に腕を掴まれて制された。とっさに彼に向かって文句を発しようとしたが、彼の表情を見てそのまま言葉を飲み込み、無言で視線を下ろした。彼の拳は握り締められ、血が滲んでいた。




寝台に寝そべったまま抵抗の様子も見られない彼女の元に仲間達と共に警戒しつつも歩み寄る。手の届く位近くに来ても彼女はなんのアクションも見せない。それもその筈、実際彼女には本人の言う通り魅了の力しか存在しないからだ。勿論私の仲間には魅了が効かないようにとっくに対策済である。

春彦君は彼女の胸倉を掴むと、無抵抗の彼女の腹に刀を無造作に差し込んだ。






「あ…あ…なん…と。前戯も…無…しに突き刺、すなど…と…せっかちな、男じゃ…のう」





蓮華さんは自分の腹を眺めて、腹から刀が生えた状態が可笑しかったのか、なんとも楽しそうに笑いながら途切れ途切れに言葉を発し





「……こ……で……終い………つ、まら…………の…」






ゴプリと血を吐き出すと力を失い動かぬ骸となった。











「これで…終わったの?」



呆気ない終わりにまるで実感が湧かず、呟くように疑問を口にした。それに対して仲間が口を開く前に後ろから返答が飛んできた。





「はい。蓮華様が幕引きと仰られましたので、これにて終いでございます」


「なっ…!?」




振り返るとそこには傷だらけの朔夜が悠然と佇んでいた。先程とは打って変わってその眼差しは底知れぬ輝きに満ちている。全員で慌てて武器を構えるもその一瞬の間にスラリと脇を抜けられる。朔夜は蓮華さんの元に跪いて彼女を抱きかかえようとしていた。




「ソイツをどうするつもりだ…!」


「弔いを」





そう彼が答えた途端にボッと何処からともなく室内から火の手が上がり、見る見るうちに火がいたる所に燃え移り始める。





「屋敷を燃やし、この土地を蓮華様の墓標とします。貴女達が立ち去るのであれば追いませんので、御自由に」






火の勢いはひどく強く、このままであれば一晩の間には屋敷を焼き尽くすだろう。朔夜の言葉が信用できるかどうか、考える暇もなさそうだ。急いで屋敷から脱出しなければ丸焼きになってしまう。



部屋を出る寸前に一度振り返ると、炎の隙間から大切そうに蓮華さんを抱き締める朔夜の姿が垣間見えた。声を掛けようと口を開いたが、焦った焔さんに襟首を掴まれそのまま引き摺られるようにその場を立ち去った。












…私達が翌朝発見出来たのは、焼き尽くされた無惨な屋敷の跡から発掘された、無傷の紅の着物だけ。

死体はなかったものの、それから二度と妖怪が暴れ出すような事はなかったので事件は解決となった。


彼らがどんな最期を迎えたか、誰も知らない。



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