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とある日のエンディング

初投稿です。お目汚しかと思いますが、暇潰しになれば幸いです。宜しくお願い致します。

 





勝敗は既に決している。

恋愛事は勝つか負けるか、曖昧な結末なんて読者が退屈してしまう。

今回の勝者は愛する人に抱き締められ涙ぐむ可憐な少女、そして敗者は愛する人に睨み付けられ、たじろぐ哀れな少女。



「コイツに手を出すとはいい度胸だな、笠原。」


「…どうして…どうして?そんな女の何処がいいの?アタシの方がずっとずっと雅君に相応しいじゃない!!」


「俺に相応しい人間を決めるのは俺だ。お前じゃない。」




親の敵でも見るような厳しい眼差しに晒され、笠原は震えながら僅かに後ずさる。雅が敵と定めた相手に対する容赦のなさを彼女は他の誰よりも知っていたからだ。




「俺の前に二度と顔を出すな。次はない。」


「…!」



学園の権力者による事実上の最終通告に顔を青ざめ、笠原は震える足を押さえ付け逃げるようにその場を立ち去る。

敗者が惨めに立ち去った後に残るのは、勝者のための甘ったるいハッピーエンドだけだ。

幸せな結末に読者は大満足、後は本をそのまま閉じて頂ければめでたしめでたし、なにひとつ思い残りなんてないだろう。

だがここはあえて、視点をずらしてご覧頂こうか。








逃げ出した敗者の結末はどんなものだったのか?








裏庭から足早に立ち去った笠原は、息を整え周りを見渡した。人気のない校舎の廊下、生徒達の喧騒が遠くに響いている。

今しがた盛大に振られたにも関わらず足取りは確かだ。先程まで産まれたての小鹿のように足を震わせてたとは到底感じられない。



靴音を響かせながら階段を登り、裏庭を覗ける空き教室に静かに身体を滑り込ませる。

窓からそっと裏庭を覗くと案の定出来立てホヤホヤの恋人同士が甘い視線を交わしあい、唇を寄せているシーンだった。



笠原はそれを確認すると同時に安堵したように息を吐き、窓から身体を離すと教壇横に座り込む。そして、おもむろに懐から煙草とライターを取り出すと火をつけ深く煙を吸い込んだ。その口元は隠さずとも笑んでいる。恋に燃えるギラギラとした女の眼差しはとっくに死んだ魚のような目に変わっていた。



誤解を招かないよう先に申し上げておくが、笠原に被虐趣味はない。愛する人の他人とのラブシーンに性的興奮を覚える訳ではなく、かといって絶望を感じて投げやりになっている訳でもない。








そもそも便宜上『笠原』と称しているものの、

本来彼女に名前は存在しない。








彼女はゾンビである。名前はもはやない。

これは乙女ゲームを盛り上げる名脇役こと噛ませ犬なゾンビの些細な日常のお話である。

めでたしめでたしのスポットライトの脇で欠伸を噛み殺す彼女の話を暇潰し半分覗いて頂ければ幸いだ。



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