8話『アレは悪魔に見えたりする』
夏になりました。
年々暑くなります。
去年もそうだった。このアパートに初めて来たときも汗をダラダラ流しながら間様から回覧板を渡されたっけな。
「懐かしいですね〜」
「そーだな、その時アンタは居なかったけどな寿さん」
「細かいことは言いっこなしですよ完助さん」
ほのぼのと201号室の窓から木に群がるセミを眺めながら……クタビレ荘の1日が始まります。
《201号室》
寿さんと別れて10分後のことである。
「何処へ行くのかな〜終羽里ちゃん?」
「……遊びに行くの」
去年のゴキ〇リ騒動と同じ。そう……まさに同じパターンで終羽里は友達と遊びに行く。
「兄さんはそんな子に育てた覚えはありません!」
「……怖いの……蚊?」
「やや怖い……かな」
「……そう」
すると終羽里は一つのスプレーを俺に渡した。
「……餞別、じゃあ頑張って」
バタン。
そう言うと終羽里は行ってしまった。
「こ、これは!?」
45%の確率で蚊を殺すカト〇ススプレー!
「なんて微妙な」
ブゥゥゥン。
「ひゃあ!」
今、ヤツが俺の耳元を通りすぎた!
クソッ! やってやろうじゃないか!
『此似手完助VS蚊』
1本勝負!
【完助の体力100・蚊の体力100】
「くらえぇい!」
スパーン!
百円ショップで購入したキ〇ィちゃんスリッパ攻撃が見事に……外れた!
「バカな!?」
悠々と飛び回るヤツは天井に張り付いた。
クソ〜、あれって叩きにくいんだよな。
「完助さ〜ん。昨日気持ちだけ頂いた桃なんですけど」
再び登場した寿さん。
「でかした千鶴!」
「ふぇ!?」
「その天井にいる蚊を……!」
無理じゃん!
しまった、彼女が幽霊だと言うことを忘れていた!
「この役立たずが!」
「はわわわ……いきなり何ですか? 怒られるような事しましたか私?」
「存在が役立たずだ!」
「ふぇぇん!」
泣き出す役立たず幽霊。悪いことを言ってるのはわかっている、悪いのは俺だ。
だが、たぶん俺は今かな〜りパニクってるのだろう……頭がな。
「それはヒドイですよ完助さん!」
ゲッ! 恵理華ちゃん。いつの間に居たんだ?
「恵理華ちゃ〜ん! 頼みがあるんだ。部屋の中にいる……」
「きゃあああ!」
ドフッ!
「ぐふっ!」
俺が悪い。
恵理華ちゃんに抱きつこうとしたのだから……しかも俺自身はわからないが、たぶん気持ち悪い顔をしていたのだろう。
護身術をマスターしている恵理華ちゃんの肘打ちが腹部に命中。
「何だかよくわかりませんが失礼します!」
そう言って恵理華ちゃんと寿さんは部屋から出ていった。
にしても恵理華ちゃんに初めて怒られた……かなりショックだ。
【完助の体力80】
虎だ! 虎になるんだ俺!
心を虎にしてこの空飛ぶ黒い悪魔を。
ブゥゥゥン♪
「上等だコラァ! 核持ってこい核! 気持ち良さそうに飛びやがって! その羽むしり取ってキン〇バスターかましてやるから覚悟しやがれ!」
「さすがにソレは無理だピョン」
「なんだとピョン太……アレ?」
そこにいたのは爆乳チャイナのシェオルン。
「ピョン太は?」
「それは私ネ、モノマネしたヨ」
まぎらわしいことしやがって。つーかマジで似てたし。
「とりあえず飛び回る黒い物体に苦戦してるあるネ? 私に任せるアル」
そー言うとシェオルンは妙なダンスを踊りながら爆乳を回す。
ブルン!
ブルン!
ブルン!
「あの〜? 何して遊んでるんですか?」
「こーやって黒い物体の目を回そうとしているますダヨ」
トンボじゃね〜んだから無理だバカ野郎!
ブハッ!
ドサッ!
「ん? 玄関の方から何か倒れる音が?」
俺が玄関の方を見ると……バンダが大の字で倒れていた。
鼻血を流しながら。
「阿呆豚! 大丈夫アルか!?」
「テメェのパンダを興奮させただけじゃねぇか!」
このコンビ駄目だ。初めから期待してなかったけど。
【完助の体力50】
限界だな。
あの兵器を使うしかない! 終羽里にもらった〇トリススプレー!
「うおぉ! くらえ外道がぁ!」
どうだクソ野郎! ブシュゥゥって、ブシュゥゥ?
アレ? でない?
「チクショー!」
まさかのアクシデントだ……こんなときに何でも運び屋の東野さんがいてくれれば。
「ちわ〜呼ばれて飛び出た運び屋の東野で〜す」
まさかの神降臨!
タイミングが素晴らし過ぎて涙が出るぜ!
「東野さん!」
「わかってますよ完助さん! スーパーデラックス‘蚊取り君’ハイパーです!」
メチャクチャ効きそ〜!
「では早速使わせてもらいます!」
これで一気に形勢逆転だ……くらいやがれ!
ブシュゥゥゥ!
「……ん?」
ブゥゥン!
ブゥゥン!
あれれ? なんだか蚊の数が増えていませんか?
俺は目を疑いながら蚊を数える。
…………二十匹?
俺は持っていたスプレーを確認して、そして気付いた。
「‘蚊呼び君’?」
「はい、新商品を開発していたらできちゃいました。蚊を呼び寄せる蚊呼び君です。このスプレーを面白可笑しく有効活用してくれるのはクタビレ荘だけかと思いましてね」
「アンタ鬼や〜!!」
約十分間。蚊達から本気で逃げた結果。
【完助の体力0・蚊達の体力100】
此似手完助はその場に倒れた。
「もう……どうにでもしてください」
俺は無抵抗で蚊達に血を吸われ続けた。