7話『雨降れば修羅の道』
梅雨になると心も体もジメジメしてくる。そう思いません?
ここ数日の間、止むことのない雨。
今回はそんな中でのお話です。
ピンポ〜ン。
俺を闇へと引きずり込むチャイムが不気味に鳴った。
「ふぁ〜い」
俺は欠伸をしながら戸をあける。
カチャ。
「はじめに言っておくが貴様に拒否権はない、黙ってついてこい」
「は?」
タバコをくわえながら、結衣さんは強引に俺の腕を引っ張った。
部屋を出て雨でツルツルと滑りやすくなっている階段を駆け下りる。
「……いってらっしゃい」
妹よ。帰ることのない兵士を見送るように手を振るな……マジで死にに行くようで怖いから。
《103号室》
「間様。此似手完助を連れてまいりました」
「うむ……ご苦労じゃたな結衣」
103号室および管理人部屋。
ここ最近よく間様にパソコンを教えるため通い続けているので見慣れた部屋ではある。
「なんスか間様? 俺昨日あまり寝てなくて眠いんスけど」
間様はババッと扇子を懐から取り出し扇ぎだした。
「実は完助殿に届けてほしい物があるのじゃ」
そう言って取り出したのは一枚の向日葵の絵だった。いつ見ても間様の絵はキレイだなぁ……だが、今の俺は眠くて意識がハッキリしない状態。
お気に入りのパソコンを指さしながら何やら話しているようだが……グーグー。
「……起きろバカ野郎」
ドカッ!
「ぐおっ!」
結衣さんのゲンコツで目が覚めた俺は一つの平らな小包を渡されて部屋の外へ蹴り飛ばされる。
「……はれ? 届け物、何で結衣さんが持って行かないスか?」
「だから言ってんだろーが、大事な寄り合いがあるんだよ。サッサと行けよクソ野郎が!」
俺が寝ている時に言ってたのか? この小包はたぶん向日葵の絵だよな? 間様が描いた……で、コレを何処に持って行くんだ? わからん! 聞いてなかった!
「まかせたぞ完助殿。一応付き人も用意しておるから安心せい」
そう言って間様は俺に向かって手を振る。
結衣さんはというとポイッと折りたたみの傘を俺に放り投げて戸を閉めた。
「ちょ……マジで何処に行けばいいんスか!? 他の人の頼んでくださいよ!」
スタタタタ!
飛び交う無数の手裏剣。
「ほあたぁ!」
避ける! 寝ぼけていても反射的に避けれる俺……実はスゴいかもしれん。もはや俺にはサイ〇人の血が流れてる可能性があるな。
「サッサと行け。次はワザと外さんぞ」
半開きの戸から覗き込むような体勢で結衣さんが言った。今の攻撃はワザと外したのですか……一瞬だが自惚れたな俺。
しかし間様の話、ちゃんと聞いとけばよかった。たぶんパソコンで場所とか説明してたのだろう。
「困っているようだな」
「その声は!」
傘をさしながら反省している俺に救世主が現れた。
美しくなびく紫色の髪、豪雨の中でも香るラベンダーの香水の匂い。
「シュバリエさん!」
「今日はヒマだったのでな。この任務が成功すればフェノが私を元の姿に戻してくれると言うので全力で手伝おうではないか」
ヒマってアンタ……仕事上ヒマになることないと思うんだけど。
それに元の姿に戻す件は嘘だと思う。ってかシュバリエさんは作者の都合上……減っていく年齢の限界ギリギリまで戻らないだろう。
「とりあえず何処へ向かえばいいのだ」
「え〜と確かうろ覚えですが〇〇荘って言ってたような?」
「なるほど別の荘へ届け物か?」
シュバリエさんはドコから出したのか、とんぼ町の地図をバサッと広げて他のアパートの位置を確認する。
「近場だと……暑荘があるな」
う〜わ暑そう。
「あと寒荘」
う〜わ寒そう。
「なんか違うような気がしますね」
「フェノが他に仲良くしている管理人の場所は……」
ビシッと地図の中心部を指さすシュバリエさん。
「住みにく荘」
わ〜お住みにくそう。
「じゃあ住みやす荘なんかあるんじゃないっスか?」
「それは無いな」
無いんかい!
「まぁ詳しいことは飛びながらしよう」
飛びながら?
バババババ!!
強烈な音が耳に響く。
そこには大型のヘリコプターの姿があった。
「ぎゃああ! いつの間にヘリなんか用意したんスか!?」
「今さっき錬金術で作ったのだ。空に渋滞は無いからな、便利だ」
スゲー近所迷惑だ。
「さぁ乗りなさい」
「なんか、こう……鬼気迫るものが。乗ったら終わりのような気がして仕方がないんスけど」
「いいから乗れ。じゃないと月に変わってオシオキするぞ」
「……御意」
渋々と俺はヘリに乗り込む。
「出発だ!」
ババババ!
おぉ! ちゃんと飛んでんじゃん。確かにこりゃ便利だ。
「ヘリって燃料とか何使うんですか?」
「知らん。テキトーだ」
バババババ!
「お〜ろ〜せ〜!」
ツいてないツいてない! 俺はダイ〇ードのマ〇レーン刑事並みのツいてないぞ!
得体のしれない燃料とともに逃げ場のない空を飛んでいるなんて。
「バカ! 暴れるな完助!」
「暴れずにいられるかっ!」
「待て待て待て〜い!」
外から聞こえる電波的な声。見覚えのあるUFOがヘリコプターと並んで飛んでいる。
「げっ! ティール!」
「ふはははは! 見たぞ見たぞ此似手完助! 貴様がそのヘリにお宝を入れるところを!」
お宝? まさかこの間様の絵のことだろうか?
「コレは違うぞティール!」
「問答無用。くらえ! ブ〇ストファイヤー!」
ズドーン!
UFOからそんな大技出すんじゃねぇよバカ!
「完助! 操縦代われ!」
「はぁ!?」
そう言うとシュバリエさんの身軽な体はヘリから飛び出た。
手には大槍の天守閃幻。
「ちょ……シュバリエさん! そのままじゃ〇レストファイヤーにモロ直撃ですよ!」
「そんなもの消し去る! 唸れ! 閃幻空雷波!(せんげんくうらいは)」
ブシャアア!
槍から飛び出す青白い衝撃波がシェリカティールのUFOを真っ二つにした。
落ちていくティール。
「ふぇぇ、覚えてろ〜ですの〜!」
あぁ今はシェリカちゃんの方か……相変わらずややこしい。とりあえず泣いたなティールめ。
しかしコチラもトラブル発生。
ガタガタガタ!
「あぁ〜シュバリエさん、さっきの衝撃でヘリが……その」
「墜ちるな」
「墜ちますね」
ぎゃああああ!
ズドーン!!
墜ちた場所は見知らぬアパート。
「いててて、ケツ打った。マジで俺ってツいて無ぇ〜」
「尻を痛めただけで済んだのだ。むしろ喜べ」
なんなく着地するシュバリエさん。いったいどんな足してんだよこの人は。
「ここは……?」
「おやおや、お待ちしていましたよ。間さんの所の人ですね」
小柄なお婆さんがアパートから出てきた。間様と違って見るからに管理人って風格だ。
「結果オーライッスね」
「結果オーライだな」
いつの間にか晴れた空の下。俺達は‘無事’に絵を渡すことができた。
もちろんシュバリエさんは元の姿には戻っていない。