6話『ヒーローは絶対正義とは限らない』
まだまだ序の口なクタビレ物語。
今回は麗華ちゃんとの何気ないお喋りから事件の魔の手が忍び寄る。
《102号室前》
「ふ〜ん、じゃあ二人の正体は初めから晶子ちゃんも知っていたのか」
「最初に私たちが天使と悪魔の子って気付いたのは晶子ですのよ」
「ほほぅ……で、反応は?」
「まぁそんなことど〜でもいいやん! にゃはははは! と言ってましたわ」
晶子ちゃんらしいな。
「そーいえば晶子、最近アルバイトを始めたらしいですわ」
「晶子ちゃんも頑張ってるみたいだね、ちなみに何のアルバイト?」
「たしか『邪道喫茶』とかいう喫茶店?」
邪道喫茶!? いろんな意味で興味あるな。
絶対行かないけど。
「世界の平和は我々が守る!」
なんだなんだ? 俺の部屋(201号室)から声がするぞ?
確か部屋には終羽里がいるが大声で叫ぶような奴じゃない。しかも男の声だし……テレビか?
俺と麗華ちゃんは階段をあがって201号室へ。
「‘炊きたて洗隊炊飯じゃー!’」
炊きたて洗隊炊飯ジャー?
クタビレ荘の幽霊アイドル寿さんがテレビのヒーロー番組を見ながら叫んでいる。かなり興奮しているようだ。
「何やってんだテメェ」
ボコッ!
「ぐハッ!」
とりあえず寿さんと一緒にテレビを見ていたチャールズを殴る。
「殴ったネ!?」
幽霊の寿さんはなんとなくテレビを見るのは許す。だが無駄に大型テレビを持っているコイツ(チャールズ)は許せん。いい年してヒーロー番組なんか見やがって、自分の部屋で見やがれってんだ。
「容赦はいらん、殺れ終羽里」
「……御意」
ドドドドドドドドドドドド!
北斗〇拳に引けをとらない終羽里の乱打。
殴られすぎで醜い顔のチャールズ。
「ぐっ……また打っタ、二百四十三発モ。上官にも打たれたことないのニー!」
そんなもん知るかア〇ロ君。
「ところでなんなんだ、炊きたて洗隊って?」
「知らないんですか完助さん!? いま子供にも大人にも人気があるんですよ。私も流行の波に飲まれちゃいました♪」
ウキウキな顔で寿さんが言った。ぶっちゃけ可愛い。
しかし俺はヒーローに憧れるのは小学一年生の秋に卒業しましたけど。
「そーいえば終羽里はアン〇ンマン見てたよな昔」
俺は冷蔵庫からジュースを取り出し、ポテチを食べながらテレビの前に座りこむ。
「……空飛ぶ正義の食物」
ア〇パンマンのことをそんな風に見てたのかコイツ。
「コホン……その中でも確か、犬の〇ーズが好きだったっけ?」
「……歩く食物」
そのパターン止めろ。
「はわわわ、そろそろ出ますよ必殺技」
む、どうやら話は終盤らしいな。最近のヒーローの必殺技はどんなものかな? 微妙に興味ある。
「くらえ! 必殺バナジウム光線!」
ビビビッ!
ドカーン!
めちゃくちゃ健康に良さそうな技だな、しかも光線って……ウルト〇マンかコイツら?
俺は何気なく新聞のテレビ覧で炊きたて洗隊炊飯ジャーのサブタイトルを見た。
『炊きたて洗隊炊飯ジャー・第三話……偽りの愛情表現』
なんだこのお昼のサスペンス劇場みたいなタイトルは!?
こんなのが本当に人気あるのだろうか? みんな騙されてんじゃ?
「越後屋お主も悪よのう!」
炊きたてレッドが言った。
「いえいえお代官様ほどでは」
炊きたてブルーが言った。
「はっはっはっはっ!」
他の三人(イエロー、グリーン、ピンク)も含めて五人が笑った。ん? もしかしてコレが決め台詞か? 番組が違うだろ番組が。
ピロリンピロリン。
エンディングが終わったと同時にニュースが流れる。
「え〜速報です。とんぼ町の阿修羅商店街に我らがヒーロー『炊きたて洗隊炊飯ジャー』が悪の怪人を倒すために参上しました」
なんだとー!!
「きゃあああ! 炊飯じゃーが阿修羅商店街に!」
寿さんは興奮しながら外へ。
「きゃあああ!」
たくっ、うるさい幽霊だな……しかし今のは悲鳴か?
「どうしたんだよ寿さん?」
カチャと戸を開けるとそこには……。
「なんだこの状況は?」
俺が目にした光景は。今にもクタビレ荘を出ようとしている炊きたて洗隊炊飯ジャーの姿が……しかも両手には麗華ちゃんの刀コレクションが。
「大変ですよ完助さん! この人達、この人達」
どこからどうみても泥棒だ!
「いや、我々はその……高く売れるかなっと思って」
レッドが必死に言い訳をしようとするが、言い訳になっちゃいねぇ。
「ホッ、私の銃じゃなくてよかったで〜ス」
ボクッ!
「おブッ!」
麗華ちゃんは腫れあがったチャールズの顔に右ストレート。
「この害虫がっ! よくも私の刀を!」
炊飯ジャーに向かって走りだしたはいいが刀を持っていない麗華ちゃん。
そうだ! 確か前に貰ったままホコリを被っていたコレクションNo.36『魅頭妖感』があったはず。
「受け取れ麗華ちゃん!」
俺は麗華ちゃんに向かって刀を投げた、回復系の刀だが効力は無いから普通の刀だ……たぶん。
「駄目です〜! なにか彼らにも事情があるはずです!」
と言いながら刀が麗華ちゃんに渡るのを阻止しようとする寿さん。もちろん幽霊なので体を貫通……麗華ちゃんに刀が渡った。
「はうぅ、死のう私」
心配せんでも死んどるぞ寿千鶴よ!
「あ……あ」
洗隊一同が錯乱状態。黒い翼を生やし、突撃する麗華ちゃん。
「ご託はいらねぇクソ野郎!」
ダメだ、今回の麗華ちゃんは完全にキレてる。下品な言葉のうえに標準語だよ。
「立花流奥義! 亡威斗女亞!(ないとめあ)」
まさかの闇属性が洗隊を襲う!
「バナジウム光線!」
抵抗する泥棒洗隊。マジで出たよバナジウム光線! 実在したのか!
ガガガッ!
なんとか刀でガードした麗華ちゃん。ブツブツと何かを言っている。
「人斬りは所詮、死ぬまで人斬りぃ」
「大丈夫か麗華ちゃん?」
彼女はクルッと振り返りフッと笑みを浮かべた。
「大丈夫でござるよ剣〇」
大丈夫じゃないでござるな……この人。
「やはり完助殿がクタビレ荘に来てから毎日が騒々しいの」
「呑気なこと言ってる場合じゃないですよ間様。どーするんスか? この状況」
「こーいう時は終羽里殿がアッサリと解決してくれるさ」
言われてみればそうだが。
俺はチラッと終羽里の方を見た。
バサッ!
黒い翼が生えた。
「うおぉい! 何生やしとんじゃ終羽里!?」
麗華ちゃんが妹の姿を見て目が点になる。
「……念じたら生えた」
普通は生えない……が、コイツなら何でもありか。
「……後はまかせて」
妹は麗華ちゃんの肩に手をポンッとおいた。
「アナタのその姿を見たら私の怒りも吹き飛びましたわ、もう好きになさい」
終羽里はその言葉を聞き取ると……コクリと頷き、右手を前に出して唱えた
「……バ〇ス」
チュドーーーン!
「ひぎゃあああ!」
炊きたて洗隊炊飯ジャーは空の彼方へと飛んで行った。よくあるコメディのように。
そして刀は無事に戻り、麗華ちゃんは一安心。寿さんはこれから先、何を信じたらいいかわからない……そんな顔をしている。まぁ明日になれば元通りなのだろうがな。
「滅びの言葉を使ったんじゃ、あの子はバカ共から〇ピュタを守ったのじゃよ」
守ったのはラピュ〇じゃありませんけど、なんか終羽里のは破壊力が半端ない気がしますよ間様。