2話『チャイナ服は反則、て話』
君に問う。
運命というものを信じますか?
素晴らしい言葉ではありますよね、憎たらしいくらい。
ドラマとかだと感動するものが多いですが、俺にとっては運命という名の死命なのですよ。
この運命からは逃れる術はない。選択肢の無いアドベンチャーゲーム……それを強制的にプレイさせられる俺を救える人は今のところ存在しないのだ。
あ〜訂正しよう、いませんね絶対に。
《都会の歩道橋》
都会と言っても微妙である。
クタビレ荘付近に比べたらって意味で、俺の実家である高級住宅街近辺の有名デパートなどには劣る建築物ばかりが並んでいる。
言っとくが自慢じゃねぇぞ、大体みんなの街である物に自慢もへったくれもないだろ。
とりあえず俺は裕福な家庭みたいなのが嫌いになったのだ、贅沢な話だが俺は一般的な生活が性に合っている。
だが、まぁ阿修羅商店街には無いものがあったりしてココは面白い。たまに終羽里と買い物に来るのだが今日はダメだ……来るべきではなかったのだ。
「……兄さん、チャイナ」
妹の終羽里が歩道橋の真ん中あたりでピタリと止まって言った。
「あはは、そんなわけないだろう……コスプレ大国の秋葉原じゃあるまい……し?」
チャイナじゃん!
定番の格闘ゲーム『ストリート〇ァイター』のチュン〇ーみたいなチャイナ女が二足歩行しているパンダを連れて歩道橋を堂々と歩いてんじゃん!
「スミマセンそこのお二人さん、クタビレ荘を知ってるアルか?」
頭の中のシグナルが鳴る。
ピーピー、警告! 警告!
関わるとマズイ、速やかに逃げるべし。
「知りません」
「そんなことないネ、アナタからはクタビレ荘オーラが漂ってるますダヨ」
どんなオーラだ? 見てみたいよ実際に。
「まずは自己紹介ネ、アタイはシェオルン。この子はパンダの阿呆豚。1週間くらい前に中国から不法入国してきたアルよ」
阿呆‘豚’!
なら、ここは豚にするべきだろ。しかもサラッと犯罪染みたこと言わなかったか今!?
いや……そんなことはどうでもいい。
俺の中にいるもう1人の俺が告げている。
逃げろ……逃げて……逃げてください。
逃げなきゃダメだ逃げなきゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ。
結論、逃げないように逃げよう。
「……兄さん、頭の中で崩壊しちゃダメよ」
あぁぁ、妹に心の声を読まれた!
バキッ!
「がはっ!」
パンダに殴られた。
ボフッ!
「げはっ!」
パンダにボディブローされた。
器用なヤツだ。
ガブッ!
「ぎゃああ!」
パンダに……食われてたまるか!
頭を食われかけたが必死にもがいて後ろへ下がる。
「何すんじゃテメェ!」
頭からダラダラと血を流しながら俺はパンダに向かって叫んだ。
「ウルセェぞ、さっさとクタビレ荘の場所言わないと太平洋に沈めるぞクソガキィ」
パンダが当たり前のように喋った。
そうか、パンダも喋る時代なんだ。
ここは納得するべきだろう、だって知り合いに喋るウサギがいるくらいなのだから。
「お、教えてもいいが凶暴なパンダはお断りです」
「失礼なこと言うないネ! この子は我が国では有名な戦士『月天心』の生まれ変わりアルよ!」
「所詮はパンダだろ?」
「……兄さん、失礼なこと言ってはダメよ」
妹が珍しく他人に肩を貸した。
「……パンダは貴重な食べ物なのだから」
やはり妹は妹だった……それでこそオマエだ!
ギロッとパンダが獲物を狩るような勢いで終羽里を睨み付けた。
「……なに?」
終羽里はパンダを頭から丸かじりにする勢いで見上げて睨み付けた。
「!!!!!」
パンダは言葉にならない言葉を発しながら恐怖のあまり赤い汗を流した。白と黒で構成されているパンダに赤が加わった。
見てる方も痛々しい。
目で殺しかねない妹の睨み付け……これは立派な革命的暴力というものだ。
くわばらくわばら。
《阿修羅商店街》
なんだかんだでココまで連れてきてしまった。
魅力的だよな、シェオルンのチャイナ姿。
揺れる爆乳……長くてツヤツヤの美脚!
コイツに、このスタイルに負けたのか俺は。
「くっ、今月はサイフの中がピンチだと言うのにバス代まで俺の負担とは。大体パンダがバスに乗れたのが奇跡だよ」
「両手にスーパーの袋持ってちゃ説得力の欠片もないネ」
「必要最低限しか買ってねぇ〜よ! 終羽里、お前も何か言ってやれ!」
「……ごめんなさい兄さん、袋の中に予定外の食物が多数あるの」
えぇぇ! いつの間に……。
「コ、コホン。あ〜なんだ、どんな用件でクタビレ荘を探していたのかは知らんが、まさかウチで晩飯を食おうなんて思ってないだろうな?」
「心配ないヨ。お金無いから毎日スーパーの試食コーナーで食いつないでるアルよ」
迷惑この上ないな。
つーか質が悪すぎる。
「ホレ……着いたぜ、ココがクタビッ!」
ビュォン!
嵐のような風が吹いた。
先ほどまでの穏やかな表情が一変、妖艶な目付きのシェオルンが猛スピードで202号室へ。
同スピードで後を追うパンダがシェオルンを追い越して202号室の扉を蹴り破る。
バキッ!!
「ウリャアアア! 一撃光太郎! いざ尋常に勝負アルヨ!」
トントントン。
中国四千年ファイティングポーズも虚しく、一撃光太郎の妻……愛子さんが夕食を作っていた。
「あら、シェオルン……ごめんなさいね。光太郎さんは出張中で今はいないのよ」
「が〜ん!」
シェオルンが崩れた、ついでにパンダも崩れた。
「何しに来やがったんだよ!」
部屋の隅で携帯ゲーム機『BS』をしながら拳使郎が言った。
どうやらシェオルンは一撃家と知り合いのようだ。
険しい顔でシェオルンを威嚇する拳使郎だったが、玄関に立っていた俺と終羽里を見て……いや、終羽里だけを見て恥ずかしさの余りに女々しくうつ向く。
「どーしたの兄ちゃん? お腹痛いの?」
恥芽が心配している。
いろんな意味で弱いぞ拳使郎ちゃん。
「ぐぬぬ……十年前に総合格闘技戦で光太郎に負けた父の仇をとりにきたヨ!」
立ち直るシェオルンの脳内には今まさに、波動拳コマンドが入力されていることだろう。
「フム、お主の父を倒したのは光太郎ではなくワシじゃぞ」
床に座って紙に『優柔不断』と書いている最中の一撃友蔵が立ち上がる。
さっきから何を渋い顔で書いてると思ったら、家訓ジジィめ。
「あら? そーでしたのお父様」
「アイヤー! 人違いだったネ、でも好都合アル……覚悟するヨロシ!」
友蔵に襲いかかるシェオルン。
「じゃ〜んけ〜んポン!!」
友蔵はグー、シェオルンはチャキ。シェオルンが負けた。
「む、無念」
ガックリと膝を折るシェオルン。
「何故にジャンケン?」
俺はシェオルンに尋ねた。
「我が一族は暴力禁止アルね、だから決闘の日までジャンケンの修行だけに明け暮れたヨ」
嘘つけ! さっきの総合格闘技の話はなんだよ!
「まだまだ修行が足りんわい!」
たかがジャンケンに勝ったくらいで図に乗る友蔵。
「覚えてろアル! 行くネ阿呆豚!」
パンダと一緒に走り去ろうとしたシェオルンだったが。
「待つのじゃシェオルンとやら……」
騒々しかったのか、結衣さんを従えて間様が現れた。
「急で悪いが、庭に使われていない小屋があるから住んでもらえんか?」
「ありがたき幸せアル」
シェオルンは間様に深々と頭を下げた。
え! ココに住むの!
後から聞いた話。
間様がシェオルンをクタビレ荘に招いた理由……もちろん面白いヤツだから、である。
こんな理由このアパート以外はあり得ないな。
☆プロフィール
クタビレ小屋
シェオルン。
年齢18歳。
超人クラス。
※美しいチャイナ娘。
阿呆豚。
年齢2歳くらい。
※喋る暴力パンダ。
(つまりコイツ一族と無関係じゃん)