12話『寿物語』
癒し系幽霊・寿千鶴ちゃんのストーリーです。
ちょっぴり泣けたら泣いてみてください。
明朝の降りしきる雪の中。私は柊橋をふわふわと飛びながら渡りきる。
そこはちょっとした広場になっています。周りの建築物の構造上とても音が反響しやすくなっていて、若者達の溜まり場になり毎日‘りずむ’に合わせて‘だんす’という踊りを踊っているのです。
私はそんな場所で毎朝、いつものように大きく深呼吸をしてこう叫ぶのだ。
「みっなさ〜ん! あ〜さ〜で〜す〜よ〜!」
これが私の……クタビレ荘に住んだ日から毎日おこなっている行事だったりします。
そんな私に。
好きな人ができました。
【柊橋広場】
「みっなさ〜ん! あ〜さ〜で〜す〜よ〜!」
いつものように広場で声を上げると、この場所で初めて声をかけられました。
「うるせぇんだよ朝っぱらから」
「むむ……何奴ですか?」
そこにいたのは一人の少年でした。歳は拳使郎君くらいでしょうか? 雰囲気も同じような気がします。
「別に誰でもいいだろ、とにかくその叫ぶの止めてくれよ」
「それは駄目ですよ……私の日課なんですから」
毎度悲しい幽霊と人間の会話が……あれ?
なんだろうこの子? 普通の人とは何かが変です?
「ん〜君が透けてるように見えるのは私の気のせいでしょうか?」
「当たり前だろ幽霊なんだから。誰にも話しかけられることなくココにいるんだよ俺は」
羨ましい……いやいや間違えた。
可哀想です、でも私なんかより全然幽霊っぽいのが悔しいです。
「お前さ、飛ぶの止めろよ目障りだから」
「なぬぬ! 飛べない寿はただの寿です!」
「それジブ〇映画の紅の〇だろ?」
「えへへ。最近観たんですよ……お気に入りの‘せりふ’です、取っちゃ嫌ですよ」
「取らねぇよアホ」
「でもでもですね。幽霊は飛ぶものなんですよ。貴方の方が変なんじゃありませんか? 足ありますし……幽霊として失格の駄目駄目ですよ」
私はびしっと少年を指差し言ってやりました。
「テレビの心霊番組じゃ飛んでる幽霊は逆にダサいぜ」
「が〜ん!」
「それに今時幽霊の服装も和服はウゼェ」
「がが〜ん!」
「なにより癒し系は時代遅れだ」
「はわわわわ……言わせておけば〜!」
私は両手をぶんぶんと振り回しながら逃げる少年を追いかける!
……そして見事に追いつけずに私は諦める。
「ぜぇ……ぜぇ……」
「幽霊が疲れてんじゃねぇ〜よバ〜カ」
私はこの身が朽ち果てようともこの少年を一発殴らないと気がおさまりません。肉体ありませんけど。
「くはは……お前面白いな。オレ嫌隼勝嘉ヨロシクな」
見事なまでに一話で消えそうな名前です。
「私は寿千鶴です!」
それから私達は、時間とともに増えてくる人々を余所に無我夢中で遊びました。蹴鞠やお手玉で遊ぶ事しか知らない私には理解できないような遊びばかりでした。
幽霊だから出来る映画館のタダ観というのもどきどきしました。
そして、たくさんお喋りもしました。
私の住ませてもらっているクタビレ荘の事はもちろん、私の巡ってきた日本各地のことなどです。
もちろん勝嘉君の事もです……‘さっかー’という部活の‘きゃぷてん’だったということや。妹さんを車の事故から救うために自らの犠牲になったことなど。
私達は日が暮れるまで語り合いました。
【夜の103号室】
「どういうことなんです間様!?」
間様に向かって私は怒鳴った。
「落ち着かれよ寿殿。その少年はいずれ土地神になろう……たぶんその広場の近くが事故のあった現場なのじゃ」
「土地神になったらどうなるんですか? 成仏させたほうがいいなんて」
「土地神になると生きていた時の事は一切忘れていずれ悪さをする可能性があるのじゃ」
だからってあんまりですよ。
「もはや少年に未練は無いハズじゃ。妹さんは昨日交通事故で亡くなられておる、じゃろ結衣」
「ハイ、調べたところ確かなようです」
「そういう運命だったのじゃ……遅かれ早かれ事故で亡くなる。きっと冥界で兄を待っておることじゃろう」
それを聞いた私は居てもたってもいられなくなり、思わず外へ出て柊橋広場へ向かってしまった。
「よろしいので間様?」
「恋せよ乙女……じゃよ結衣」
私が去った一○三号で間様がそう言った。
【柊橋広場】
「勝嘉君!」
「おう、どうしたんだよ千鶴? また幽霊のくせに息を荒くしてさ」
広場のベンチに腰掛けていた彼は私と違ってとても落ち着いていた。
「勝嘉君じつはですね……あの……」
「言いたいことはわかるぜ。妹が死んだんだろ? お前がアパートに帰った後でそこのゴミ箱に入ってた朝刊でみたよ」
「……勝嘉君」
勝嘉君はふわっと宙に浮き、だんだんと空へと飛んでいく。
「お前が成仏したら必ず俺に会いに来いよな」
私に向かって微笑む勝嘉君。
「はい。いつになるかわかりませんが……必ず」
私の目から涙が流れた。幽霊だって涙を流したっていいじゃないか。
「その時さ、地獄へ行ってデートしようぜ。そっちのほうがスリルあるじゃん」
「はう〜お断りいたしますですよ〜」
最後まで明るい子でした。
そして勝嘉君は空へと消えて、また今日も雪が降りました。
たくさんたくさん降りました。
私の体には感じませんが、とても寒かったです。
そう……とても。
【次の日の二○一号室】
「完助さん! 妹さんは大事にしてくださいね!」
ぽりぽりと頭を掻きながら、ズレたメガネをかけ直す寝起きの完助さん。
「なんだよ朝っぱらからよ、言われなくても妹は丈夫過ぎるぞ」
「いいから大事にしてください!」
どうしてかはわかりませんが、どうしても言いたかったんです。
どうしても。
どうしても。
「あぁ……わかったよ」
よし。
では、今日もあの場所へ……いざ出陣です寿千鶴。