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11話『デンジャラス最前線』

 海での一件から三日後。

良い感じに肌が焼け、風呂に入るとヒリヒリする俺の体。

そんな体に鞭をいれて、いつものようにバイトに明け暮れる夏休み。休みが多い大学生は今が稼ぎ時なので毎日必死だ。

「ちょっと息抜きも必要か」

と、独り言を呟き……バイトの帰りに軽い気持ちで阿修羅商店街にあるゲームセンターへ向かった。

二、三百円くらい使う程度で止めればいいかな?


しかし、そこは俺の不幸運命……抜かり無しである。

「ばんなそかな!」

思わず作者のお気に入りドラマの名セリフが口から漏れた。

とりあえず俺は驚いた、その『ボコボコ・オブ・ファイターズ』(以降、略・BOF)という格闘ゲームの席に座る一人の男に見覚えがあったからだ。


「す〜ず〜き〜!!」


何故ココにチャールズの唯一の崇拝者である鈴木がいるのだ。

渡米したんじゃなかったのか?

しかも。こんな所で、あんな恰好で!


「お前いつの間にオタクになったんだよ?」

思わずゲームに夢中の鈴木に言った。

まさに今の時代はオタクブーム。

そのオタク街道まっしぐらと言いたくなるくらいにダサいキャラクターTシャツにボロボロのジーパン。そしてドラ〇エのト〇ネコ並に膨れ上がっている背負いカバン。

「お久しぶりであります兄貴!」

こちらに気付いた鈴木が俺のところへ歩み寄る。

「近づくんじゃねぇ! 俺も似たようなタイプだが、そんな眼のデカくてゴチャゴチャした衣装の女性キャラなんて知らん!」

Tシャツに描かれているキャラクターを指差して俺は言う。

「知らないんですか兄貴!? プリンセス雅男ですよ!」

そのナリで雅男って意味わからんにも程があるキャラクター万歳!

「にしても、チャールズが知ったら驚くぞ」


「イエ〜ス。とても驚いてま〜ス」


でた! マジでチャールズのおでましだよ! コメディお約束の『都合の良い登場』……今回も余計なお世話だっつーの!

「チャールズ大佐!」

「鈴木二等兵!」


ガシッ! と、二人は息の詰まるような抱擁をした。

「お〜い。君たち、見てる側にとっちゃメチャクチャ気持ち悪いから止めろ……そろそろ」

「フッフッフッ……二人が揃えば怖いもの無し。今なら完助の兄貴をBOFで瞬殺できますよ大佐!」

「もちろんでありま〜ス! みせてやりなさいマイボーイ!」

なんでそうなる!?

どうすればそうなる!?

「帰る! テメェらに付き合う気は無ぇ!」

チャールズ達に背を向けた俺の後頭部にガチャっと鈍い音のする何かが当たった。

「席に座って楽しくゲームをしましょう完助ボーイ」

振り向くとショットガンが俺の目の前に姿を現す。

めちゃくちゃ強制じゃん!

デ〇ノートに名前書かれた後で、死の内容を自由に書かれた気分だ。

せめてクレーンゲームで勝負させろ、格闘ゲームは大の苦手だ。


百円をゲーム機に入れてピロンと効果音が鳴る。

BOFというゲーム名が画面を覆いつくし、すぐにキャラクターセレクト画面になった。

様々なキャラクターがいるなかで、鈴木は迷うことなく肌が紫色で異色な恰好をしている男キャラクターを選んだ。

名前は『ベチュナーガ』

誰だ……こんな変質者みたいな名前にしたヤツ。

ネーミングセンスが無いにもほどがある。

そんなキャラと打って変わって、俺が選んだキャラクターは赤い着物を着た可愛らしい女の子。


……だが名前は『ドポポ』


このゲーム一遍死ね。

どこの民族だコリャ?

『レディファイト!』

ドカッ! バキッ!


『KO』


優雅だ……お見事です。

あっという間の連続コンボで、まさにゲームの題名のようにボコボコにされました。

いや、本当に素晴らしい。

「もう一度だ」

なにもできずに負けたのは、いくらなんでも悔し過ぎる。


ピロン。


次はクマのようにデカイ図体をした男性キャラの『キム・チョンペリ』を選んで鈴木に挑んだ。

『レディファイト!』

ドスッ! メキッ!

『KO』

うがぁぁ! 次はえ〜と?

『斜藻児』

……たぶん、『しゃもじ』と読むのだろう。キャラクターの手に大量のしゃもじを持っているから間違いない。

『レディファイト!』

ドドドドドッ!!

『KO』


屈辱だ……極道の女がドコの馬の骨かもわからないチンピラに股を開くくらい屈辱だ。


「ラスト〜!」


ドオーン!!

『KO!』

キャラクター選択画面ですでに負けるという裏技をやられた。

「テメェの血は何色だーー!!」


ニヤニヤと笑みを浮かべながらゲーム台から身を乗り出して俺を見るチャールズと鈴木。

チクショウ。俺はもう迷わない、アイツを呼ぶしかない!

「終羽里せ〜んせ〜い!!」




「……何? 兄さん?」

あ、本当に来た。冗談のつもりだったのにな。

と、言うより妹の名前を叫んで周りからの視線が痛い痛い。後悔した。恥ずかしい。

「え、え〜とですね妹よ。鈴木があまりにもムカつくので、図に乗る前にヘコましてもらいたいのだが」

「……そう。理解したわ」

すると終羽里は席に座り、鈴木に向かってお辞儀した。

「……はじめまして。此似手終羽里です」


いやいや初対面じゃありませんよお嬢さん!

「ハッハッハッ! 今となってはデンジャラスガールも怖くありませ〜ン! やってしまいなさいマイボーイ!」

「イエッサー!」

興奮のあまり天井に向かってショットガンをぶっぱなすチャールズ。


迷惑迷惑!

「終羽里、このジャージを着た男キャラが強そうだぞ」

「……じゃあコレにする」


相変わらず何を考えてるのかわからないボーとした顔で画面を見つめる終羽里。よし、お得意の能力でパパッと倒しちまえ。

「フフ……残念ながらこのベチュナーガは魂を持たないうえに魔法も効かないキャラなのですよ兄貴」

「なにっ!」

「そういう設定で生まれたキャラクターなんですよ」

なんてこった! つーか都合の良すぎる設定だなオイ! それが本当ならマズイぞ!

「ヤバくないか終羽里?」

「……問題ないわ兄さん」

そういうと終羽里は素早くコマンドを入力した。


『上下上右下下左上左下右右下左右上…………』


途中でパンチやキックボタンなども加えて最後にスタートボタンを押した。


ジュワワワワン。


次第にベチュナーガの姿が消えていく。


「なんだなんだ? 何をしたんだ妹よ?」


「……データ消去。存在自体を消してみたの」


コイツの血も何色だーー!!


「うわぁぁぁ! ベチュナァァガァァ!!」


そう叫びながら席を立ち、走り去っていった鈴木。


その後、彼の行方を知る者は誰もいない。

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