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神様の忘れ物  作者: k2k2
11/14

 7 智美の一日



 昨日も和也と深酒をしてしまった智美だが、いつもの時間にはめざまし時計より早く起き、台所へたった。昨日のうちに準備をしていた味噌汁を火にかけ、サラダを作り出した。きゅうりをトントンとリズムよくきっていると譲が起きてきた。

「ただいま、ママ」

「おかえり、譲。今日はどんな冒険だった?」

 譲と砂原家で流行の挨拶をかわし、譲に今日の出来事を聞くのが最近の智美のお楽しみだった。

「あのね、すごいんだよ!源が飛べたの!少しだけど源が飛んだの」

「あら、それはすごいわね!」

 智美はご飯をつぎなら大げさに答えた。

「でもね・・・。」

 想像外に暗い声をだした譲に智美はしゃがみ込み視線を合わせて聞いた。

「どうしたの?」

「源がね、ご飯食べなくなったの。なんか痩せちゃって、ちょっと心配なんだ」

「そうなの、それは心配ね。この前のパパの話を源達にしたの?ほら、飛ぶなら痩せろ、潜るなら太れって教えてくれたやつ」

「うん、そういえばしたよ。そういえばアルも太ってきたけど。・・・本当にこれでいいのかな?」

「そうね、パパに聞いてみましょう」

 二人でそう話していると和也が眠そうな顔でリビングへとやってきた。きっと昨日ベットに入ってもなかなか寝付けなかったのだろうそう智美は思いちょうど良い気分転換だろうと和也に声をかけた。

「おはよう、パパ。あのね譲が大事な質問があるんだって」

 そう言うとほらっと譲の肩を叩いた。

「あのね、源がご飯食べないの。アルはなんか太ってきたし、本当にこれでいいの?パパ」

 和也はいきなりの質問にびっくりしている。智美が「大事な質問」なんて前置きをしたからなおさら戸惑っているようだった。見かねた智美が助け舟を出した。

「パパさんが、この前、譲の夢の世界での友達アルベルトさんと源さんに飛ぶなら痩せて、潜るなら太るべきだ!って言ったのをどうも実践してるみたい。でも譲は二人の体が心配なのよね?」

 和也は「ああっ」と一本指をたてて納得した様子。すぐに譲に話しかけた

「まさか源さんは絶食してるわけじゃないよな?」

「絶食?よくわかんないけど、ここ2、3日なにも食べてないみたいってアルが言ってたよ」

「それは駄目、駄目だよ、減らせとは言ったけど、食べるなとは言ってないぞ」

「え、パパ言ったよ~」

 二人の会話を聞きながら普段の和也の様子を感じてほっとしながら智美も食卓へついた。智美はよく食べる親子二人を満足気に見つめながら自分も朝食を楽しんだ。

「とにかく、ご飯はしっかり食べなきゃ駄目だ!食べすぎも、食べないのも駄目。前言ったのはコツを掴むまでは少しご飯の量を調節したらいいって意味だからね。譲から二人にしっかり教えろよ、よく食べなきゃ、よく飛べないし、泳げないって」

 そういうと和也は会社へ出かけた。今日は最後までパパモードで出かけて行ったな、そう智美は思いながら後片付けを始めた。

「譲、源さんの怪我はもう良くなったの?」

「うん、1日で治ったよ、良く寝るようになったから身体に変化が現れやすくなったってアルが言ってたよ」

 譲はランドセルを背負いながら返事をした。

「良く寝て、良く食べ、よく頑張る。いいことね。譲も学校頑張ってね」

「うん、行って来ます」

 二人が出て行くと智美は「よおし」っと気合を入れなおし家事をこなした。

 昼前には全ての家事をこなすと智美は久しぶりに真っ白なブラウスに袖を通した。

「本当に久々ね」

 そう呟きながら玄関を出た。智美は父親の税理士事務所に出かけた。7年前までは毎日通っていた道は景色は変わったが、足はしっかりと覚えていた。事務所につくと少しためらったが扉を開けた。智美を見つけたこの事務所の重鎮である望月富子が声をかけたてきた。

「あら、ともちゃん、久々ね。また綺麗になったんじゃない?」

「富子さんこそまた女ぷりあがったんじゃないですか?」

 富子とはここで働いていたころからこんな会話ばかりしていた。

「今日はなに?ついにさっちゃん仕事復帰?」

「いや、そうじゃないけど、でもどう?実際人手は足りてる?」

 智美は探りを入れるような顔をした。

「えっ、ケンカでもしたの?」

「ちがうわよ、お父さんは最近どうかな?って思ってさ」

「竜二郎先生は相変わらず忙しそうよ、あと一人資格を持った奴がいればなんていつも愚痴ってるもの。そうそう、今日も人手が足りないとかで急遽出かけていったわよ」

「本当!」

「うん?仕事探してるの?」

「違うわよ、じゃ今日は帰るわ、またね」

 智美は逃げるように事務所を後にした。その後本屋により税法関係の本を買い家に戻った。

「なにやってるんだろ」

 そう呟きながら本を読んだ。

「でも、どうにでもなるわよね」

 自分に言い聞かせるよう言うと「覚悟ができた、どんな回答でもきてみろ」と一人ファイティングポーズをとった。


 今晩は和也が早く帰ってきた。智美は今日はきっと和也の帰りが遅くなるだろうと思っていたので驚いた。「森樹の話しをバンドの仲間にしないのだろうか?仲間に言えないほど深刻に悩んでいるのか?」そう智美が心配していると

「明日、蛭子直己の歓迎会をするから遅くなるし、明後日はGSのライブだから今日はちょっと早めに仕事上がってきたよ」

 和也は自分から理由を話し始めた。智美は「こんな大変な時に家の心配なんてしなくていいのに」そう思いながらも何事もないように

「ということは明日は夜明けまで帰らない気かしら?」

 といつもの軽口で返事をした。本当ははっきりと「私達のことは心配しないで、やりたいようにやって」っと言ってあげたい智美だったがその言葉が和也に与えるのはプレッシャーの方が大きいだろうと思い口にできなかった。それに智美自信今の生活を自分の方から放棄することはできなかった。「多いに悩みなさい」結局それが智美の出した結論ということになるのだろう。

 その日は久々に夫婦で飲むこともなく早く寝た。和也は考え込む様子もなく、智美もそれをきにしないフリをして眠りについた。

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