薔薇の園の御茶会【カイン】
ふぅ~……30分で1話か……あ、もう携帯の充電がないや……
(↑携帯で執筆してる人)
……という訳で、本日最後の更新はカインくん編でした!
とある日の昼下がり。自由登校日という名の休日。今日はバレンタインです。
私は特に何もする事が無く、家で留守番をしていました。
バレンタインのチョコレートを貰えないことに未練はありません、しかし――。たった1人の女性が作ったものが気になって仕方がありませんでした。
その1人というのは、心向政宗さん。清楚で控えめな女性です。何故彼女に惹かれたのかは分かりません。しかし、必死に何かを作る姿を一瞬覗いてしまった私は、その姿に惚れてしまったのです。
あぁ神様。1つだけお願いを聞いてくださいませんか。あの可憐な少女に会いたいのです―――。
不意に響くチャイム音に、私は極度な反応を示しました。まさか?
モニターで確認して、私は神に感謝せずにはいられませんでした。神は私の目の前にあの少女を呼んでくださったのです。理由は何でも構いません。私は急いで出ました。
政宗さんは、綺麗にラッピングされた袋を持ってドアの前に立っていました。用件を聞くと、どうやら私の妹のセイラに用があったようなのです。しかし、彼女は今生憎出掛けています。私は彼女にその説明をしました。
「聖夜さんに会いに行っているのでセイラは居ませんよ」
「そうですか・・・」
「それよりそれは?」
つい政宗さんの持っている袋が気になってしまい、聞いてしまいました。いきなりのこの質問は失礼だったことでしょう。彼女は何も言わないまま立ち尽くしていました。
雰囲気的に不味いと思った私は、とりあえず部屋にあがらせることにしました。
「とりあえず、セイラが帰ってくるまで家にあがっていてください。どうぞ」
「あ・・・どうも・・。」
政宗さんは遠慮気味に部屋へあがりました。時々何かに思い耽った表情を見せるので、私は彼女に問いかけました。
「もしかして、誰かの為に作ったものですか?」と。
彼女は少し間を空けてから答えました。
「・・・えぇ、まぁ。でも失敗してしまって」
返事が帰ってきたのを確認すると、私は問い掛けを続けました。一度聞いた以上、気になる事は全て聞いてしまおうと考えたのです。
「それはこの後どうするんですか?」
「多分、自分で食べるか――捨てます」
どうしてそんな事になってしまったんでしょう。余程の事があったのでしょうか?
「それは勿体無いですね。折角想いを込めて作ったというのに。・・・折角ですから、それを私にくれませんか?」
捨てるくらいならば、欲しいと感じた私は思い切って告げてみました。
ずっと気になっていたのです。彼女が作るスウィーツが。
彼女に了解してもらうまで、私はじっ、と政宗さんを見つめました。きっと、政宗さんのような優しい方なら、この願いを断ることは出来ないと考えたのです。
私の勘は、見事に当たりました。彼女は渋々了承してくれたのです。
政宗さんから袋を受け取った私はすぐにキッチンへ向かいました。折角なのでお気に入りのあの場所で彼女と共に御茶会をしようと思ったのです。
「予定変更です。庭に行って一緒に紅茶を飲みましょう」
彼女は私に従い、庭へ向かってくれました。
イングリッシュガーデン形式の私達の庭の一角。赤い薔薇が目を惹くエリア。そこが私の大好きな、そして大切な場所でした。
「薔薇・・・?」
彼女はアーチに絡み付いた刺と茎を見て、言いました。私はそうですという意味をこめてえぇ。と呟きます。
「時期とか、関係ないんですか?」
彼女は薔薇は春に咲き乱れるものだと思っていたようで、まだ時期的に早いのではないだろうか?と感じ、私に聞きます。
はっきり言ってしまえば、この薔薇園に時期は関係ありません。これは私の武器が産み出した『人工的な薔薇』なのですから。
「薔薇だけは、この庭に一年中咲き誇っています。」
「――!」
「さぁ、行きましょう」
アーチを潜り抜け見えてきたのは、白いテーブルと椅子のあるスペース。私が良く家族と御茶会をする空間です。周りは緑と薔薇に囲まれています。お伽の国のお茶会を感じさせる内装にしようというセイラの案を採用し、このようになっています。
「この薔薇は一人で手入れを?」
どうやら政宗さんは薔薇に興味があるようです。
私はテーブルにカップとポットと皿とフォークを置く作業を一時停止して丁寧に回答しました。
「はい。花の手入れは得意なんです」
そう答えてまた作業に戻ります。カップにティーを注ぎ、ふんわりと香る匂いを楽しむ。彼女のほうをふと見てみると、この香りに安心感を抱いたようでした。
「さぁどうぞ」
彼女に椅子を勧めてから、私も椅子に座りました。対面しながら紅茶をたしなみます。
彼女の作ったものが気になってしょうがない私は我慢出来なくなって今食べても良いか?と問いました。
「え、えぇ・・・」
急にこんな事を聞いたからでしょう。彼女は焦りながらえぇと答えました。
袋の中を見てみると、政宗さんが作ったのはマフィンだと分かりました。
私は袋からマフィンを取りだし、フォークで切りました。政宗さんはそれを見守っています。
私は躊躇なくそのままフォークを口へ運びました。
「待って!それは・・・!」
政宗さんは叫びましたがすでに遅し。私はダークマターを食していました。
「あ、あぁ・・・」
どうしよう、食べさせてしまったという表情を隠せずにいる政宗さんの顔には、何故か恐れの念が浮き出ていました。
「・・・何故そんな顔をするのですか?」
「えっ?」
政宗さんの表情が、気にしていないの?というようなキョトンとした表情に変わりました。
「ダークマター・・・」
どうやらこのマフィンの見た目と味を気にしていたらしい。私はその言葉を気にせず、もう一口を口へ運んで見せました。
「ま、不味いでしょう?不味いと言ってくれて構いません。だから、無理をしないでください・・・!」
急に大声をあげる彼女に私はは驚き、口をぽかんと開けたまま彼女の顔をみました。どうやら私の事を気遣ってくれているようなのです。
「確かに焦げた味はしますが、美味しいですよ?」
私はフォークを差し出すと、彼女にダークマターを食べさせました。政宗さんはビックリしてそれをそのまま飲み込んでしまったようです。
しかし、マフィンを食べた事で、私が伝えたいことは伝わったようでした。
「あれ・・・どうして」
「貴女の思いの力ですよ」
私はにっこりと微笑んでから大胆にも、告白をしてみました。
「また・・・作ってくれますか?今度は、私だけの為に」と。
もしかしたら、これは他の誰かにあげるものだったのかも知れません。だとしたら私は、私宛の政宗さんが作ったスウィーツを食べたいと思ったのです。
こんな気持ちになるのは初めてでした。
政宗さんの長い前髪が風に煽られさらりと流れました。彼女は私の方を見て、「勿論です。 貴方の為ならば」と言ってくれました。
今年は政宗さんのお陰で、幸せなバレンタインを過ごすことができました。しかし来年はもっと幸せなバレンタインになることでしょう。
私は断言したいと思います。
では皆様また明日。