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前日【月華】

間に合わねーッ!

どうしよ、どうしよ!


月華の位しか書くの間に合わん気がしてきたー!!

 2月13日。バレンタインデー前日。世の中の女子男子はそわそわし始めた。町を歩けば至るところでバレンタインの広告を見ることが出来る。


 私は昨日に材料の準備を終えていたので、昨日打ち合わせた通りの時間にセイラさんの家に向かっていた。


 思えばここに来るのは初めてではない。何度か来ている。その甲斐あって私は自分1人でセイラさんの家に向かえていた。(私は軽く方向音痴だ)


 庭園を潜り、薔薇園を眺め、大きな建物へ。チャイムを鳴らし、ドアの前で立つ。


 少し経ってガチャリと音がすると、ドアの奥からセイラさんがひょっこりと顔を出した。


「どうぞ、おあがりになって」




 エプロンを着て、髪を結んでいるという珍しい姿。煌びやかな金髪がセイラさんが歩くと共に揺れる。私は、ポニーテール似合うなぁ、と心の中で思った。


 ルンルン気分のセイラさんに案内され着いたのは、キッチンだった。廊下から大分歩いたのは言うまでもない。1人でいたら絶対迷う。確実に。


「ちょっと待っていてくださいまし。もう少ししたら皆様が集まりますので」


「はい、分かりました」


 皆準備に手間取っているのか、予定時刻に集まる者は居なかったようだ。


 以前と同じくソファーへ案内され、ゆったりと寛ぐ。あの写真立も今となっては意味が分かりすっきりである。


 暫くしてチャイムが連続で鳴り響き、皆がやってきた。それぞれの手には思い思いのスウィーツの材料が握られていた。


 皆が集まった事で、料理教室ならぬ一斉料理会がスタート。料理教室用に用意されたキッチンに皆が並び、それぞれのスウィーツを作ることになった。

 簡単にこの場所を説明するとすると、丁度学校にある調理室のような内装だ。テーブルや机がいくつかある中に、電気熱を利用する最先端のコンロ、並んだ棚には食器が沢山積んである。


私は一番遠くにあった料理台を使う事にした。


 それぞれの個人作業ということもあり、使う道具も様々だ。チョコを溶かす為のボウルなどは必需品だが、それ以外のものは各自使っているものが違う。


 例えば、腕に自信がありそうなケーキ組・・・料理長のセイラさんや亜里亞さん、そして璢胡ちゃん達はケーキ用の型。

 腕に自信がある訳ではないけれども、そこまで料理は下手じゃないというクッキーを作る予定の人は、クッキーの型。

 料理はあまり得意じゃない、又は本命がいないのかあまり本気になっていない友チョコ組・・・幟杏ちゃんや璢娘さんは、ロリポップチョコに使う型や、(スティック)を準備していた。


 そんな中私は、自分のレベルに合っていないフォンダンショコラを作る為、セイラさんに色々聞かねばならなかった。準備と言えど、道具はどれを使うのか今一分からない。道具の名前はキットの箱に書いてあるが、名称だけではどれだか分からない。


「セイラさ~ん・・・・。」


 遠くにいる彼女を呼びに、キッチン台横をゆっくりと通る。誰かの邪魔になってはいけないからだ。


「どうかしましたか?」


 自身のケーキの材料を混ぜながらセイラさんは私に問い掛けた。

 私は即座に邪魔ではないだろうかと考える。彼女の使うテーブルには自分で揃えたであろう粉類や砂糖類、ドライフルーツなどが並べられている。どうやらキットなどを使わない、手作りのケーキのようだ。


 彼女はそれを計り終え、ボウルで混ぜている最中だったらしい。実に手際が良い。それに比べて私は・・・。


「あのぅ、フォンダンショコラに使う道具が・・・。」


 同じ女子として、情けなかった。


「それなら、あそこにありますわ。」


 セイラさんが指差す先には、なんと作るスウィーツ毎に必要な道具が一式揃っていた。


「皆様がすぐにスウィーツをお作りになれるよう、前もって準備させて頂きましたの。・・・まぁ、お作りになられるスウィーツというのは(わたくし)の予想したものなのですけれど。」


どうやら彼女にも知られていたらしい。


 私は、彼女の力に感心しながら道具を一式自分のテーブルへ持っていった。


「ねぇ、貴女はどんなスウィーツを作るの?」


 道具を持っていく最中に話しかけられ、危うくボウルを落としそうになりながら、私は一度振り返った。声を掛けてきたのは、霧雨さんだ。


「私はフォンダンショコラですけど・・・」


「そう。ちなみに本命?」


「え・・あ、はい」


「誰よ?」


 彼女の聞きたい事はよーく分かったので、私は彼女が理想とする答えを導きだした。


「私は璢夷さん目当てじゃありませんよ。霧雨さん、頑張ってくださいね?」


 どうやら勘は的中したらしく、彼女は笑顔でこう答える。


「そうなの?誰目当てだか知らないけど、まぁ、貴女も頑張って頂戴。」


 霧雨さんにしては優しい回答だったと思う。彼女は彼女なりに頑張ってるんだ・・・。


 霧雨さんとの話を終え、自分が使うテーブルへと戻って来た私。道具は揃ったいざ参らん!そう意気込み箱を開く。


 中に入っていたのは、小分けにされた袋が幾つかと、紙製の型、そしてラッピング用の袋だった。


(ラッピング、買わなくて良かったんだ・・・)


 小分けにされた袋には、チョコレートとココアと粉の3種類があった。さらに卵3つとバター70gが材料だ。


 まず、下準備から始める。箱に書かれたレシピを見てみると、どのスウィーツでも共通のチョコレートは細かく刻む作業が一番最初のようだ。

 周りにいる彼女達も作業を始めたせいか、室内が一気にチョコレートの匂いに包まれる。


 私はまな板の上に、袋に入っていたチョコレートを袋から出して乗せた。おはじきのような形をしたチョコレートを、包丁で細かく刻んでいく。


 この道具は、セイラさんが準備したせいか1つ1つが可愛らしい。まな板には持つ部分にリボンが結ばれており、包丁の柄の部分は花柄である。私がいつも使っている、柄が黒い包丁とは大違いだ。


 刻んだチョコレートを、バターと一緒にボウルに入れながら、私は薬罐(やかん)に水を入れ沸騰させる準備をする。


「セイラさ~んっ」


 これから湯せんをしなければいけない為、注意するべき場所を聞こうとセイラさんを呼び出した。


「どうかしましたか?」


「湯せんするときに、気を付ける事ってありますか?」


 セイラさんは、私のテーブルを見てから答えた。


「気を付けるのは、テンパリングと呼ばれる作業ですわ。あとはボウルの中にお湯が混ざらないようにすることかしら」


「テンパリング?」


「チョコレートの湯せんに使うお湯の温度は大体決まっているのです。」


「えっ?」


 確かに箱を確認すると、約50~55℃のお湯で湯せんにかけると書いてある。


「でも何でですか?」


「この決まりを守らないと、チョコレートの品質が落ちてしまうし、見た目も悪くなってしまうわ。」


 新たな知識として、脳内に詰め込む。私はセイラさんに礼を言い、作業に戻った。


 薬罐の水が沸騰するまでの間に、次の下準備を行う。予め用意された粉類をふるう作業だ。袋分けにされている、粉とココアを混ぜ、ふるっていく。ふわふわと粉が舞う様を眺めながら、私は未来の想像をし始めた。


「・・・月華ちゃん、余所見してると危ないわよ?それに、粉・・もう無くなってるわ」


 ノエルさんの声で我に返り、(ふるい)の中を確認すると、中身はすっかりと消え、ボウルの中に落ちていた。


「全く・・・月華ちゃんったらまたモテ男の事考えてちゃって。表情が緩んでるわよ」


 言われてみれば、表情が柔らかくなってる感じがする。慌てて普通の顔に戻そうとする。・・・が、失敗した。


「薬罐沸騰してるわよ」


 私は即座に薬罐をおろした。沸騰直後という事もあり、温度は90度を上回っている。テンパリングの為に、少し冷まさねばならない。その間に、テーブルに用意した型にの下にオーブンシートを敷いた。そして、オーブンに向かい、オーブンは180℃の予熱を開始させた。


 それからまた薬罐へ戻り、温度を計った。丁度良い温度になっていたので、チョコレートとバターの湯せんを開始した。

熱をもったチョコレートやバターはどんどん溶けていき、滑らかになっていく。私はボウルの中にお湯が入らないように細心の注意を払いながら、その作業をした。


 下準備が全て終わり、次はフォンダンショコラを作る工程に入る。


 まずはボウルに卵と卵黄と上白糖を入れ、湯せんにかけながら泡立て器でかき混ぜ、温度を40℃くらいになるまで温め、ハンドミキサーでしっかりと泡立てるという工程だ。


 上白糖は、袋に小分けされていなかったので、自宅から持ってきた。それに卵を入れて混ぜ始める。湯せん用のお湯はまださっき沸かしたものがあったため、それを使った。泡立て器で混ぜつつ、温度計で温度を確認した。徐々に温度は上がっている。


 40度になった所でハンドミキサーを持ってきて使った。ハンドミキサーなんて中々使う機会がない為、慣れない作業だったが、なんとかこなした。


 次はさっき溶かしたチョコレートとバターのボウルに、ふるった粉類を加え、泡立て器で粉っぽさがなくなるまでしっかりと混ぜ合わせる。工程だ。これは難なくクリア。


 次はそれに卵等を混ぜたやつを入れる工程だ。ゴムべらでムラがないように混ぜる。こうしてみると、何だか簡単な作業ばかりだ。


 しっかりと混ぜ合わせた所で、準備されていた型に流した。

「あら、月華ちゃんはもう大丈夫そうね」


 自身の作業が終わり、見回りを始めたセイラさんが、私に言った。何だか認めてもらったような気分だ。


「あとはどんな工程があるの?」

「オーブンで15~18分焼く作業と、あら熱をとる作業、冷蔵庫で冷やす作業です」


「なら私が居なくても大丈夫ね」


 彼女はそう言ってまた見回りを始めた。


 私は型に生地を入れ、それを180度のオーブンに入れた。そして熱する時間を15分に設定し、スタートボタンを押した。


 この待ち時間が暇だと感じた私は、後片付けに入った。さっち使った道具を洗ったりし始める。そんな中、皆の作業を眺めるのは楽しかった。皆がそれぞれのスウィーツに思いを込めているのがよく分かる。


「あっ!やっちゃった!・・・まぁ、いいよねっ☆」


 中には例外もいるようだけれど。


「氷椏!そこの道具取って!」


「はい・・・」


 そういえば、幟杏ちゃんって何を作って誰にあげるんだろう・・・?


「幟杏ちゃん」


 私は以前の彼女の行動が気になっていたので、自分の作業を一時停止し、詳細を聞かずにはいられなかった。もし、私が考えていた最悪の事態になったら―――!


「なぁに?月華」


 彼女は私に目もくれずに作業に集中している。


「何作ってるの?」


 私はなるべく彼女に不快感を与えないようにしながら、そっと聞いた。すると彼女は作業を中断し、こちらを見上げた。


「フォンダンショコラ・・・って言ったらどぉする?」


「こら幟杏っ!」


「氷椏は余計な事言わないの!」


「・・・・。」


 フォンダン、ショコラ・・・彼女は冗談で?それとも?


「月華ってば真剣に考えちゃって――冗談だよっ!ほら、私が作ってるのは、アイシングクッキー。」


 彼女は笑いながら自身の作っているものを自信ありげに見せた。色とりどりのアイシングで飾られたクッキー。よくみれば、このクッキーは誰かに―――。


「これは月華の分だよ。ほら、そっくりでしょぉ?」


 ―――!!


「もしかして、これ―!」


「そうっ!あ・の・人にそぉっくりのクッキー!ね、嬉しいでしょ?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべ、私に見せてきたクッキー。それはアイシングで飾られた、緋威翔さんクッキーだった。思わず何かが込み上げる。


「月華には、もう1つあるから楽しみにしててね!」


 特徴を完璧にとらえている所から、観察力に感心させられるが、更に器用さに感心させられた。アイシングを使うデコレーションは細かい作業になるはずだ。そんな中彼女はこれを・・・。


 そう思っている内に、オーブンが終了の合図を鳴らした。私はすぐに駆けつけ様子を見る。だが、真ん中がまだ生焼け状態のようだ。ならば、もう少し熱するべきだろうと延長した瞬間、氷椏さんに止められた。


「そっ、それくらいが丁度いいですよ・・・」


 彼女に話し掛けられた事はあまりなく、ビックリしたが彼女に従うことにした。私より作ってそうだし。


あら熱をとるため、型のまま取りだし熱を冷ます。冷めたと思った所で冷蔵庫に入れ、30分以上冷やせと最後に書いてあった為、それを実行した。


「つ~きかちゃんっ!」


「はい?」


 またまた暇な時間が出来た所で、誰かに声を掛けられた。だが、今のは?


「こっちこっち!」


 見るとキッチンと他の部屋を繋ぐ所から、腕が手をふっている。体や頭は壁に隠しているようだ。


・・・やっぱり。


 私は手が見える場所に近付き、壁に隠れたその人を見ようと顔を覗かせた。


「全く!女子のクッキングを盗み見するなんて―――」


 それを言った瞬間、後悔した。私はてっきり声の主ケインさんだけが覗き見していると思っていたのだ。きっと、霧雨さんのチョコレートが気になるのだと。

 しかし、その壁に隠れていたのは彼1人ではなかった。


「な、なんでっ・・・!?」


「・・・気になってしまったのです。不謹慎かとは思いましたが、いい匂いがするもので――。」


「まぁ確かに元々ここに住んでるし、しょうがないよな!な!カイン!」


「え、えぇ・・・」


「ふんっ、別に俺は気になった訳じゃないからな」


「そう言って本当は気になって来たくせに」


「うるせぇっ」


「こんな所で喧嘩はよせ。バレるぞ」


「真里亜・・・」


 意外と多くの人が、影に隠れていた。普通なら来なさそうな人まで。しかし、私の意中の人は来ていないようなので、少し安心だ。


「何で皆さんここに?」


「気になってしょうがなかったんだよ~。政ちゃんがそそくさと家を出たから・・・」


 いつもと違う行動が気になって、成る程。


「俺は付き添いだ」


 彼は壁に寄り掛かり腕組みをしながら言った。


「皆が遊びに来たっていう名目でさ、誤魔化そうと思って。」


 そこまでするのか。


 私は彼女達の事が気になり集まった人達が逆に気になったが、ずっとここにいる訳にはいかない。


「後で報告しにいきますから違う部屋で待機していてください」


「おっ、話が分かるじゃん!」


「まぁ、鏡はそういう奴だ」


「月華ちゃん呼んで良かったね!」


 そんな話をしながらそろそろとこの場を後にする男子達。私は彼らに報告する事も含め、作業をする事にした。


 冷やしていたフォンダンショコラも完成し、ラッピングをした。


 女子に話を聞きながら、皆に配る生チョコを作った。こちらは話を聞きながらでも作れる為、なるべく色んな人から情報をと思い、色んな人に話しかけた。


 皆ラッピングも終わり、女子会を始めるようだったが、私はその場をそっ、と抜けようと試みる。


「あれ?月華どこいくの?」


 勘の鋭そうな幟杏ちゃんに指摘され、ビクっと体を震わせる。一斉に向く視線に頑張って耐えながら、私は言葉を紡ぐ。


「ちょっと彼に話を聞きに」


 この場合、私は彼らを指すのだが今の状況だと彼女達には「彼」を指す言葉に変換されているだろう。


「そっか!渡す場所とか伝えないとねっ。頑張って!」


 皆には申し訳ないが、まぁ、男子に今から始めるであろう話を盗み聞きされる訳にもいかないし、我慢してほしい。


嘘も方便、だ。


 私は後片付け、渡すもののラッピングを含め、作業が終わったのを確認し、男子の元へ向かった。

さて、覗き見してた彼らは誰でしょう?(笑)会話だけで分かるかな?


因みに、「気になってしまったたから」と告げたのはカイン君、「つ~きかちゃん」はケイン君です。


後、「政ちゃんが」って言ったのはすぐに分かりますね。


「べ、別に…」の件も分かるかな?それに突っ込んだのも。


「バレるぞ」&「付き添いだ」の人は口調的に分かりますねw


「真里亜…」さてこれ言ったの誰でしょう。あの人かな?それとも?


あとは喋ってない人もいますので全員は当てられないかな(笑)


では次回をお楽しみに!

男子トークをはっじめっるぞ~☆

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