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影に張る氷は鏡のように【沙灑】


※一番内容が謎の人です。

一人称確定してません。


多重人格とでも思って読んでください。



 自分で自分を理解出来ていない僕・・・俺に、自分を見せてくれたのはあの子だった。人と関わる事が苦手になってから、早いことにもう何年もが過ぎている。


 どうしてこんな事に?昔はもう少し明るかった筈なのに。そんな事を考えたって何も始まらない。


 今日がバレンタインだと知ったのは、いつもより少し遅めに起きたので9時頃だった。今日は自由登校だから、学校にいく必要はないと安心しながらカレンダーを見た時にそのイベントを思い出したんだ。


さてと、何をして1日を過ごそうか。


 璢夷は多分忙しいから、今日は一緒に居れない――という事は、外に行くならば自分1人で行かなければならない。


どうする?


 家でする事なんて、ゲームやパソコンくらいしか思いつかない。


ぼ・・・俺は、パソコンの前に座り、インターネットで検索を始めた。今皆が何をしているのかを探るために。


 とりあえず適当に知っている人の名前を検索してみる。何かワードが引っ掛かればいいんだけど。そんな事を思っていると“藤田”というワードを検索した際に、“紫綺くんFC”なるものが検索結果欄の一番上に現れた。FC(ファンクラブ)という名前からして安西さんが設立したんだろう。


b・・・俺は、そのFCに接続してみた。トップは簡単な藤田さんの紹介や、写真があって、その下には会長である安西さんの紹介があり、更にその下にはリンクがある。


 リンクには掲示板に繋がるものや、安西さんが書いているであろう“紫綺くん日記”や、意見板があった。俺はその掲示板内の1つを見ることにした。その名も、“紫綺くんを愛でる会”。スレ内容はタイトルそのまま。


 僕はそれを見ていてある事を思い出した。この前、璢夷についていった時に藤田さんが話していた事を。確か――バレンタインには特別なルールを作ってるとかいうやつ。


 ファンクラブのメンバーからしたら、有益な情報になるんじゃないのかな?


 そう思った僕は、善意からその内容を更新順で一番上にあった=1番多くの人が目にするスレに書き込んだ。“藤田さんはバレンタインの日、彼なりのルールを作っていると言っていました。そのルールの中の1つに、バレンタインにチョコをくれた人には笑顔で応対するというルールがあるそうです”と。


 たったそれだけの内容だったけど、FCメンバーの書き込みでその後スレッドが炎上した。書き込みは上限の1000スレまでいった。これは新規のスレッドを作らなきゃいけない。


 FCの力、恐るべし・・・。


 何だか急に管理者の安西さんに申し訳なくなって、僕はそのサイトから抜け出した。あのIDが誰なのか探そうとするかもしれないけど、僕のパソコンにはIDが存在しないように改造してあるから、何処の誰が持ったパソコンかは分からないはず。


 検索を止めた俺は、することがなくなってしまった。また誰かのサイトに接続してあんな事になっては堪らない。


 仕方なく璢夷を探しに学校までいく事にした。改造したスケボーを持って家を出る。そのスケボーに乗って、超特急で学校へ向かった。校門には人が集まっていると考えた僕は、裏口から入る。


 裏口から入り、スケボーを叢に隠した僕は、人に見つからないように皆が通る最短ルートとは別の道で階段を上がっていく。最終的にたどり着いたのは4階、音楽室と視聴覚室がある場所だった。


 普通なら皆近い音楽室に入るだろう。しかし僕は敢えて視聴覚室に入ろうとした。すると――。


見事なまでのビブラフォンの旋律が聞こえた。一体誰が?でもその旋律はすぐに音を消す。まるで幻のように。


 音は音楽室から聞こえたようなので、音楽室へ入る。しかし人の姿はおろか、ビブラフォンも見当たらない。・・・もしかして、準備室に?


 そう思って僕は準備室を覗いた。一応人がいる事も考えて、ノックしてから入った。




「――ッ!?」


 準備室には、マレットでビブラフォンの鍵盤を叩く氷椏さんが居た。


「――どうしましたか?こんな所に」


 普段なら話はしないのだけれど、この人なら普通に話が出来る。


「氷椏こそ、ここで何を?」


「・・・私の事、名前で呼んでくれるんですね。それに普通に会話も――何だか嬉しいです」


「・・・変、か?普通に話すなんて。まぁ、普段話さないからそうだな・・」


「えっと、話を反らしてしまいましたね。すみません。・・・私はただ単に暇潰ししていただけですよ」


「暇潰しにビブラフォンか・・・」


 凄い、綺麗だったな。ビブラフォンの音と旋律――。


「フォオオン・・・」


ビブラフォンの音が教室に響く。この音は――“ソ”?


「どうしてこの音を?」


「一番、分かりやすい音だって聞いたから――。誰かが私を見つけてくれるようにって、よく鳴らしてたの。その癖が出たみたい」


 誰かが“自分(わたし)”を見つけてくれるように?


それなら俺が、ここにいるのに。氷椏、君は一体何処を眺めているの?


 音楽室から見えるのは、グラウンドとテニスコート・・・彼女は準備室にあるたった1つの窓を眺めている。そこに人の姿はないのに、誰かの事を見ている気がするのは何故?



「氷椏。君は一体誰を待ってるんだ?」


「――未知。貴方はまだ知らないわ。」


「知らない?」


 思えば確かに――彼女を慕っている割には、彼女の事はあまり知らない。では何故こんなにも惹かれる?


「沙灑さん、貴方は私を見ていない。見ているのは――自分よ」


 自分・・・?

 その言葉に疑問を感じた直後、この教室に誰かが近付いてくる音がした。僕はそれが気になって、開けっ放しになっていた準備室の扉をゆっくりとしめる。


「どうしたんですか?」


「・・・人が来たみたいだ。巻き込んですまない。少しの間辛抱しててくれ」


「分かりました。」


 それから少し経つと、誰かが音楽室に入って来た音がした。誰だかは分からないけれど、僕達がいる事には気付いていないらしい。


 まぁ、音楽室に来て真っ先に目が行くのはピアノだ。それに今入ってきた人は、然程楽器が気になっていないらしいし、ここにいる事がバレる事はないだろう。


 音楽室に入ってきたその人はピアノの椅子に座ると間もなくピアノを演奏し始めた。


 演奏しているのは、何故か懐かしく思えてしまうようなフレーズ。楽譜も何もない状態で弾いているのだから、沢山練習した曲なんだろう。


 俺はその演奏者が気になって、その姿を見ようと準備室から抜け出し、開いたままのドアから廊下へ出た。廊下から音楽室を覗き見するようにして演奏者を確認すると、それは璢娘さんだという事が分かった。


「・・・。」


 気配に気付いたのか、演奏を中断しこちらを向いてきたがすぐに影に隠れた。璢娘さんは気のせいかというようにまた演奏し出す。


 僕はその光景を眺めていた。どうしてこんなに音楽に惹かれるんだろう――。


「演奏、そのまま続けて」


 あまりに気になり思わず声を掛けてしまった。そんな事をする程に、惹かれる何かがあるのだろう。


彼女は僕が言う通り演奏を続けた。


 それを確認すると、廊下から移動して視聴覚室に入る。視聴覚室に用意されたキーボードをセッティングし終えると、思い付くままに指を動かした。


 久々の感覚。急に現れた謎の感情を示唆するかのように響く“それ”は何故か懐かしい。


分からない――。

そういえばこの曲って・・・。


あぁ、そういう事か――。


 僕は、自分に気付いてくれるようにってこうやっていたんだ。普通に合奏をしている吹奏楽部に潜り込んで、勝手な所で音を入れて・・・。


「沙灑くーん?」


 いつしか演奏を止めていた僕は、代わりに“その音”を奏でていた。機能を使ってビブラフォンの音色に変えて。


 虚しく響くソの音。これは他の誰でもない僕が、自分に気付いてもらう為に奏でた音だったんだ・・・彼女のいる吹部が手伝いを欲している時に奏でた音――。


「沙灑くん、どうしてソの音なの?」

 いつの間にか横にいた璢娘さんに聞かれ、僕は答えた。


「・・・一番、分かりやすい音だから」


「ビブラホンなのは?」


「あの子がついさっき演奏してたから」


「あの子?」



 彼女はそれを思い出させる為に俺の目の前でわざとやったんだ。


「あの子って・・・沙灑くんの好きな人?」


「・・・。」


 考えれば考える程浮かんでくる1人の少女。その少女への感情をもし恋と仮定するならば、答えはイエス。僕もそう思っていた。でも実際は――。


「私、沙灑くんの事・・・応援する!」


 違う、違うんだ・・・。僕は自分自身を理解してくれる人を求めていただけで、でもそれは――


 俺は璢娘さんに対し、俯いたまま首を横に振るという動作をとった。今一感情が確定されない今、僕は何とも言えない。そんな俺の肩を璢娘さんは軽く叩いた。びっくりした僕はすぐに顔をあげる。


「!?」

「任せて頂戴。相談ならいつでも乗るわよ!璢夷の姉の私にどーんと任せなさぁい!」


「・・・有り難う。でもいい。」

「えっ?」


 感情の整理をしても見えてこないその答えは、恐らく“恋”。


けど、彼女の言動からすると彼女には――いいや、そんな事は関係ない。


“君は僕を映した鏡”だから惹かれるのだと、彼女はそう考えている。


半分正解で半分不正解。

居場所を求める僕には、彼女はもってこいの存在かもしれない。だけど、俺は違う理由で恋をしている気がするんだ。



 璢娘さんと別れ、それを伝えようとして準備室に入る。だけどそこには彼女の姿はなかった。代わりに残っていたのは、小袋に入ったクッキー。


彼女が置いていってくれたんだ。

 そういえばバレンタインなのにチョコレートを1つも受け取ってなかったから実感が無かった。そっか、今日はバレンタインだったんだ・・・。


 僕が求めていたのは、自分を理解してくれる女性でも、居場所でもない。ただ君が――。



“あの時は有難う”


 そう書かれたメモもクッキーと共に置かれていた。


僕も彼女にお礼を言うべきだ。そして・・・あの子と話をしたい。そう考えた。だから僕は学校を後にして、あの子を探しに出掛けたんだ。


 ただ、彼女が何処に行ったのか見当がつかない。寮か、或いは図書館か――それとも公園?兎に角短時間で多くの場所を回れるようにとスケボーを使い街を回る。


 途中璢夷に会った。何だか知らないけど急いでいるようなので、スケボーを貸してあげた。何をそんなに急いでいるのだろうか?気になる。


スケボーを貸し移動手段が無くなった僕は、周りを確認しながら影を伝って移動していく。その内に辺りは段々暗くなっていった。


 夜になり、そろそろ引き返そうかと悩み始めた頃公園に人影を見つけた。恐らく近所の住民が告白でもしてるんだろう。


上手くいくといいですね。


そんな事を思いながら、寮に戻った。


ホワイトデーには何とか頑張って話し掛けてみよう。そして話をするんだ。うん、絶対。

さて今回は沙灑?×氷椏?ですな。


普段喋らない沙灑が何を思い、何を感じているのか・・・はっきり言ってしまえば、謎です。


でも、案外頭良かったり改造するのが得意というのは分かったのではないでしょうか?


そんな沙灑は作者のお気に入りでもあったりします。初期の沙灑はこんなに引っ込み思案ではなかったのですが――、その初期の設定が、何処かで活かされるかもしれません。


兎に角、今後成長しそうな子ですね。

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