許嫁という束縛【セイラ】
バレンタインデー当日。昨日作ったフルーツケーキを手に家を飛び出す。
「いってきます、御父様」
「何処に誰とだ?」
「聖夜さんと、デートに。何処に行くかは聖夜さんにお任せしますわ」
「・・・そうか。行ってこい。」
殆ど外出を許してくれない御父様も、聖夜となら簡単に許してくれる。
だって私達は許嫁だから。
家を飛び出してから数分。聖夜と待ち合わせの公園に到着。でも早く来すぎたみたい。時計は約束の時間の20分前を指している。公園のベンチでバッグや公園で遊ぶ子供達を見て過ごしていると、約束の時間ぴったりに彼が来た。
「あ、セイラ・・・ごめん、待った?」
にっこりと微笑みながら、いつもの台詞。私は決まったように、私も来たばかりよと言った。
「じゃあ行こうか」
「何処へ?何処かへ連れていってくれるの?」
「あぁ。さぁおいで」
私の手をさっ、と握って彼は歩き出す。私の手を握る手はとても温かくて大きい。
彼はいつものように、私の一歩前を歩いてリードしてくれていた。
「何処に行きたい?」
「うーん・・・花畑がいいな」
率直であり、難しいお願いなのは分かってる。でも彼はすぐに該当する場所を探してくれた。
私達が向かった先は、花鳥園と呼ばれる場所。私は初めて来る場所だ。動物園のようなゲートを通って中に入ると、私が見たがっていた花達が見事に咲き誇っていて、その中を鳥達が飛び回っていた。
「うわぁあ・・・色んな花が咲いているわね」
聖夜はそんな中に用意された椅子に座りゆったりと過ごしている。それはまるで親子のよう。でもこうやって聖夜と過ごすこの時間が、何よりも好き。
「聖夜、この花綺麗ね」
名前も知らない白い花。何だか彼に似ていると思い惹かれた。彼はこの花を見てどう思ったのかを聞くためにいったのだけれど、彼には聞こえてないみたい。
「聖夜?もう、聖夜ってば!」
何度か話しかけても反応がないので、私はとうとう大きな声で返答を促した。彼のハッ、という態度を見てみると、昔の思い出を振り返っていたようだ。
「ごめんごめん。その花、なんていうの?」
「carolっていうんですって」
やっと話に食いついてくれた!私はそれが嬉しくて、話を続ける。この花の説明文に名前が入っていたので、告げてみる。
聖夜と聖歌(carol)なんて名前も似ていると思うと、この花が何だかいとおしく思えた。
「賛美歌・・・へぇ。」
彼はcarolを賛美歌と受け取ったらしい。だとすると、聖夜と似てるわね。と言っても通じないだろう。
「こんな時期に咲くんだね、この花」
「春に向けて賛美歌を歌うって意味じゃないかしら?」
私なりに考えた由来を彼に言ってみる。彼は納得したように頷いた。
「なるほど。・・・それよりセイラ――おいで」
彼は腕を左右に広げて、ここにおいでと言わんばかりの行動をとった。私は彼の示すまま、膝の上に座わる。
聖夜ってば足まで温かい・・・。
落ち着いた私達はその内他愛もない会話を始めた。そういえば今日はバレンタインね。なんていう話になった時、私はフルーツケーキを思い出した。
「――あ、そうだ。私聖夜の為にフルーツケーキ作ったの」
あの時以来ずっと作っていなかったフルーツケーキ。あれを聖夜と食べたくなって、作ったの。
「そういえば久々だね」
「そうでしょう?懐かしいと思わない?」
「うん、懐かしいよ」
私はいつものようにフォークでケーキを切り取り、彼の口元へと運んだ。
彼はフルーツケーキを食べ、美味しいと呟く。
私達の関係を許嫁だから束縛されてるのだと言ってしまえばそれまで。でも実際は違う。だって私達の想いは『親』によって結ばれている訳ではないもの。
「セイラ、大好きだよ」
毎日のように伝えてる想い。私は心の底から彼が好き。だから
「私もよ、聖夜」