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マテリアル∞ドロップス  作者: しらタきろケッ┠
プロローグ
2/2

昼と夜 【後編】

 目を開けると、広がるのは真っ白な空間だった。それと電光灯。

「……て、ここ。保健室…だよね」

 身体を起こすと、小さな頭痛がジワジワと広がる。一応寝ていたのかも知れない。昼間寝過ぎるとこういう感じだから。

「……はぁ」

 一つ溜め息。

 それにしてもなぜ僕は学校の保健室にいるのだろうか。

 確か学校から出て、太一とゲーセンに寄って……う~ん。

 なんか記憶が曖昧になって来たぞ。そこまでは覚えているのに。なにか見た気はするのだけど……。

「あ。起きましたか」

 のど元まで出かかっている時、声がした。

 というか西谷先生だった。

「……えっと、なんでここにいるんでしょうか。僕」

「それは悠君が倒れているのを私が保護したんですよ」

「え、先生が?」

「ええ。ちょうど大事な話がしたかったところなので、都合がよかったんです。って、少し不謹慎だったかな。自分の学校の生徒が倒れていたというのに」

 自嘲気味に笑ってみせる西谷先生。

 倒れてた……なんか引っ掛かるが、気にしても仕方ないだろう。

 僕はそう納得する。

「それで……大事な話というのは…」

「私が突拍子もないこと言いますが、それは一過性のものと思わないでください。そしてよく聞いてくださいね」

 そういって真剣な顔になる。

「わかりました」

 僕も背筋を正し、聞き耳を立てる。

 それに頷くと、西谷先生はその口を開いた。

「僕は地球ではない所から来たんですよ」



 僕は空を飛んでいた。

 月が雲に隠れチラチラと顔を見せる夜に僕は四枚の薄くて大きな羽を広げて飛んでいた。

 首には西谷先生から預かった“もの”が月の光で光沢を帯びて輝る。そこに移るのは人ではなくこの世のものとは思えない顔だった。

 目はボタンのように丸く、鼻はちょこんと豆粒のように乗っかり、口は猫のようなωこんな口が顔のパーツとして定められている。おまけにうしろには虫のような虹色に光る四枚の羽。

 僕は“魔法”をかけられ妖精になったのだ。

 そして、僕の目的地は一人のとある家の一室それのみ。

 僕はこの姿になった時のことを思い出しながら道標である記憶を頼りに夜の空を羽ばたくのだった。



「私はこの地球ではない、遠い世界から来たんですよ」

 いきなり突拍子のない話が来たなと思った。

 でも西谷先生の真摯な目を見ると、それが嘘に思えなかった。

「そこには俗に言う“魔法”という文化があるんです」

「……魔法」

「そう、魔法です。それもとても高度な。この地球が科学が発達しているように、私の世界では魔法が発達しているんです」

 まるでおとぎ話のようだった。

「……」

「驚くのも無理もないです。ですが、事実です。あまり深くは言えませんが、このちょこんの他にも人がいる、それも魔法という文化がある世界があるのです」

「……はい」

 僕はただただ頷く。

「地球にも遺産などがあるように、私がいた世界にも遺産なるものがあって、それが誰者かの手により無くなりました」

 それがこれです。そういってふところから10センチ程の小さな箱を取り出す。

 開けると宝石のような玉が入っていた。色が鈍ってグレーのような色合いだが、その光放つ光沢が本物だと主張してるかのようだった。

「これは本物を元に作り出したレプリカですが、本物と同等の力が込められています」

 色を失ったような輝きだが、僕にはその宝石がどれくらいの力を持っているのかわからなかった。

「これを君に託します」

 箱に入っていた宝石を手に持ち、そのまま僕の手を握らせる。

「悠君。君やってもらいたいことがあるのです」

「……本物探しですか?」

「やはり悠君、君には素質があるようだ。僕が見込んだ通り…いや、それ以上かも知れない。けど今の悠君の魔力ではその秘めた力は引き出せない。そこで、私の力を授けたいのです。よろしいですか?」

 柔らかな物腰なのだが、いつもより口調は鋭い。それも真剣だからこそなのだろう。

「はい。僕にできることならば」

「ありがとうございます。これから大変になるでしょうが……私にはその為の力が備わっていないのです。ですから、その為の力がある悠君に私の魔力を注ぎ込みます」

 手を握ってください。西谷先生が両手を差し出し、僕はその手を掴む。



「……あ、あそこか」

 二階建ての一軒家を見定める。作りは洋風で真新しいって程ではないけれど、どこか新しさと古めかしさがあった。

 僕は家の周りをぐるぐる回り、ある人の部屋を探す。

 適当に探っていると、二階の方にカーテンが少し開いている部屋を見付ける。

 そっと覗き込むと、一人の女の子が風呂上がりなのか、肩なかかる程の長さの髪を丁寧に拭いていた。

『決して正体がバレてはいけませんよ。バレてしまえば、魔法の効力を無くし、元の姿には戻れなくなります』

 そんな西谷先生の話を思い出す。

 手を握り先生の魔力を貰った時、僕の中に知識が流れ込むのを感じた。先生によれば、魔力のついでに魔石、僕が宝石だと思っていた石の捜索に必要な知識を僕に与えたんだそうだ。

 だからある程度のことはわかる。

 そして流れ込んだ魔力は僕に力を与えたのと同時に、この“妖精”の姿も与えた。これは夜の姿。これから会う人のパートナーとして魔石を探す為の姿なのだ。

「……凪川亜姫」

 僕は女の子の名前を確かめるように呟く。

「……はぁ。よし」

 僕は変身を遂げた体のその小さな拳を窓に叩きつけた。



――ごつん

 大きな音がして私はびっくりした。

 思わず立ち上がってしまったり。

「な、なになにっ?」

 私は物音がした方向に目を向ける。

 窓だ。窓の外から音がしたんだ。

 それがわかって安心して、だけど緊張気味に近づく。

「……な、なんだろう」

 カーテンを開け、窓を開ける。

「……やあ」

「……こんばんわ」

 目の前には奇妙な生命体が宙を浮いていた。いや、飛んでいた。

「中に入っていいかな?」

 その奇妙でかわいらしいマスコットのような物体は小さな子供のような声で訊く。

「……は、はい」

「おじゃまします」

「いらっしゃいませ……」

 私は呆然として窓の外を見やる。

「……」

 空には雲が月を隠したり出したりしている風景が見える。

 私は頬を少しだけ引っ張ってみる。

「……いひゃい」

 夢じゃない。それがわかった。

 私は窓をゆっくり閉めてカーテンも閉じる。

「急にお邪魔してわるかったね」

 少し元気なさげに謝るその小さな人形みたいなマスコットは、あまりにもかわいらしかった。

 私はそこで思わず抱き着いてしまう。

「かわいいよ~っ!」

「う、うわっ?!な、なんなのさっ?」

「ぎゅ~~っ」

「……く、くるし…っ」

 マスコットは最初は暴れていたけど、段々と力を無くしたようにおとなしくなって……

「あ、ごめんねっ」

 私はパッと離す。

「げほっ、げほっ……はぁ」

「……ごめんね」

「……あ、いや。大丈夫だから。少し驚いただけだよ」

「……うん」

 私ダメだな。いつも空回りばかりだ

「お、落ち込むなよ。僕なら気にしないからさ」

 マスコットは落ち込む私を励ましてくれた。

 それがなんだか嬉しかった。

「ありがとうだよっ」

「うわっ!?」

 もう一度抱き着く。かわいいのだから仕方ないよね。

「……もういい?」

 おそるおそるといった様子なマスコット。

「あ、うん。ごめんね」

「いやいいって。本当、驚いただけだから」

 こほんとマスコットは仕切り直しと言わんばかりに咳き込む。

「自己紹介するね。僕は妖精の……は、いや……ユウ…。そう、僕は妖精のユウ。凪川亜姫、君を魔法少女にする為に魔法の国から来たのさ」

「……妖精……魔法少女……魔法の国」

 私はそのロマンチックな単語を口にする。なんだか胸の内が暖かくなるようだった。

「えっと……亜姫?」

 マスコットの妖精さんは不安そうに私の顔を覗き込む。

「なんかそれってロマンチックだねっ」

「え、あ、そう?」

「うんっ」

 なんだか楽しくなって来た。珍妙だけど妖精さんはかわいいし、魔法なんて単語が現実で聞けるなんて、なんて素敵なことなんだろうっ!

 私は胸の内を熱くした。

「でも、なんで私の名前を知ってるの?」

「えっと、それは僕が妖精だからさ。個人情報は筒抜けだけど、そこは遵守するから安心して」

 すごい。さすが妖精さんだ。

 だけどそれは少し不安な気も……でも妖精さんだから大丈夫っ。……たぶん。

「うん。わかったよ」

「よし」

 妖精さんはちょっとだけ満足そうだ。

 きっと妖精さんの役目が果たせそうで喜んでるんだね。

「これから僕の言うことをよく聞いてね。わからないことがあったら、そこは追い追い話すから。だからまずは僕の話を聞いてほしい」

「わかったよ。真剣に聞くよ」

「うん。あのね、僕は――」

 地球とは違う世界があること。魔法のある別世界のこと。別世界の宝物がこの地球にあること。私の役目はその宝物を集めること。他にも妖精さんは語る。

「――っていうことなんだけど……わかったかい?」

「……う、うん。なんとなくは」

「そうか。別に焦らなくていい。少しずつ覚えて行けばいいんだ」

「ありがとう」

 頭の中がごちゃついてパンクしそうだ…。

 私、こんなんで大丈夫かな……少し心配。

「そこでこれを亜姫に」

 妖精さん……ユウくんはどこから出したのか、コンパクトなケースを床に置く。

「?…これは?」

「さっき言った“魔石”を入れるケースさ。全部で七つ入れる空白がある。そこに填めるんだ」

 ケースを開けると、フタのの裏が鏡になっていて、自分の顔が映る。

 魔石を入れる部分は縁取るように六角形になっており、真ん中にも一つの丸の空白がある。

「かわいいね。このケース」

「そう?」

 不思議そうに私を見つめるユウくん。

 私には妖精さんのユウくんの方がとても不思議なんだけどな。

「亜姫」

 ユウくんは真剣な眼差しになる。

 私はフタを閉じてまた床に置いてユウくんと向き合う。

「本番はこれからだ。とても危険なことが伴うけど……僕と一緒に戦ってくれるかい?」

「うん。大丈夫だよ。ユウくんとがんばってみるよ」

「実戦は明日の宵の明星。つまり、深夜の12時だ。心の準備だけはしていてほしい。僕は夜しかいられないから、また明日の夜に来るよ」

「わかったよ。またね、ユウくん」

「うん。またね亜姫」

 ユウくんはふわふわと宙に浮き、窓を開けて空の彼方へ飛んで行った。

「……まだ夢みたいな気持ちだよ」

 私は夢心地でベッドにダイブした。

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