僕と夢
これは、実話を元に書いた突発的なものです。
かなり、急いで書いたので駄文となってしまっていますが、どうぞ。
僕には夢があった。
小学5年生。
この頃、僕は勉強がとても大好きだった。
簡単だし、何よりも競う異性の友達が居て、とても充実していたと思う。
その異性は恋愛対象にはなりえなかったものの、今でも顔は鮮明に思い出せる。
そして、勉強することが面白くて、探求することが大好きで、とにかく一生懸命だった。それ以外に熱中するものが無かったんだ。
そんな年の夏休み。
僕は衝撃的なTVの映像を見た。
それは、おばあちゃんと一緒に畳が敷かれた部屋で足を崩してすわり、その部屋に置かれた小さなTVでバラエティー番組を見ていたときだ。
どんなバラエティー番組かは覚えていないが、特集をしていたことは微かに思い出せる。
そして、そのときに鮮明に記憶に残っている映像は、医師や看護師の働く姿だった。
場所は諸外国で、派遣として送り出された数名の医師や看護師が、やせ細った子供たちや危機に瀕している人々を治療している。
そんな映像だった。
そのとき、何か心に響く何かがあったのかもしれない。
何しろ、小さい頃の話なため、あまり覚えていないものだからいけない。しかし、これだけははっきりと言える。
僕の将来の夢が決まったのは、この瞬間からだったと。
「おばあちゃん!僕、医者になりたい!」
□ ■ □ ■ □ ■
「それでは、来週の月曜日に回収しますので、それまでにきちんと自分で決めたことを書いてきてください。」
窓側から二列目、前から四番目の席。比較的、可も不可もなくのこの席に僕は座っていた。
朝の日差しをギリギリのところで受け止めれないために、少し薄暗いのが難だが、それは僕よりも廊下側の席の人のほうが暗いに決まっているため、良いほうなのかもしれない。
「進路……か……」
まだ、高校に入学して一ヶ月と少し。
初めてのテストが終わった後の開放感に浸って、今日から羽目を外すぞーと思っていたときだ。
SHRである紙を配られた。
それは僕の気持ちを憂鬱にさせるには十分な内容だった。
『進路希望調査』
B4サイズの薄っぺらい紙に明朝体で書かれた大きな文字の下には、3つほどの大きな枠があった。
それぞれ、『将来の夢』『動機』『進学したい大学』の項目に分かれている。
そんな可愛げも無いただの紙切れ、しかし、僕にとっては大きな悩みの種でもあった。
この学校は、公立高校の本当にど真ん中の偏差値に位置する学校で、もちろんのこと進学校である。進学校なのだから就職という選択は無いに等しい。大抵の生徒は大学、もしくは専門学校に進学する。
だから、まず一年生のうちで考えていることをとりあえず調査しようという目的での『進路希望調査』だろう。
なんなら、『なりたい職業とその工程』と記してもなんら問題はなかったわけだ。
そんなことはさておき。
「どうしようかな……これ……」
それは、僕自身の心の内だった。
「なあ」
SHRが終わり、ほとんどの生徒が部活や帰り支度をしている最中、頭を抱えていた僕の背中をトントンと叩く奴がいた。
訝しく思いながらも、肩越しからそいつの顔を見る。
「何?」
「お前さー、これ書くこと決まってる?」
そういってヒラヒラさせたのは、紛れも無く先程配られたもので、僕を悩ませるものでもあった。
その質問に『まだー』と答えようとして、しかしそいつに遮られる。
「あ、そうだった。お前医者になりたいんだったっけ?じゃあ、決まってんのかー。いいなー」
その言葉を聞いて、なぜか知らないが何か心の中に引っかかったものを感じた。
僕の後ろの席を牛耳るこの男は、僕と同じ中学で結構仲の良かった友達だった。大親友ではないが、軽く話すほどには結構親しんでいた気はする。だから、軽口でいつも中学でも小学校でも僕はこの男に将来の夢を語っていたのだ。『医者』という夢を。
「あー……うん……そうだよ……」
自分でも少しトーンが下がった気がする。
そう、今までは医者になって大きなお金を稼ぎ、安定した収入で可愛い子と結婚して、子供を産んで―と考えていた。僕は医者になりたいんだと強く思って。
しかし、いつだったか、勉強以外に熱中するものが現れた。
それは、『アニメ』だった。
最初は王道系の、誰でも見てそうなアニメだった。しかし、周りに居た友達がオタクばかりだったためにアニメの情報を聞いては、話についていこうと動画で探したり、録画したりしてアニメを見ていくうちに、のめりこんでしまったのだ。
今では、あまり王道系は見なくなり、マニアックな深夜アニメを多く見るようになった。
それだけではない。アニメと関連付けて、マンガやラノベにも嵌まり、挙句の果てには自作の小説を書くようにもなっていた。授業中に妄想やお絵かきは茶飯事、休憩時間はオタク友達とそういう話題で盛り上がる。
そういう生活を繰り返して、気付いたら成績が愕然と下がっていっていた。これじゃあ、だめだと思うも勉強よりもやはりアニメ等の誘惑により、勉強が疎かになり、成績はどんどん下がっていっていた。
何もかも面倒くさくなったのは、中2の後半。
生徒会会計という任を降りて、気が抜けると同時に勉強もリーダーという立場も何もかもやりたくなくなった。
勉強していなくても、授業さえ聞いていればそこそこテストの点数も取れる。それを確信していたがために更に僕は落ちていったんだ。
医者になるならもっと努力しなければいけないんじゃないかと思い始めたのは、中3の前半。受験でみんなの頭がいっぱいのときに、周りが分厚い本を持って勉強している姿に、焦燥感が生まれた。
勉強をしなければ、受験には合格できないのではないかと……。
でも、やる気が起きなかったのは、きっとすぐ隣にいたオタク友達が勉強を一切やっていなかったためであろう。
そのオタク友達の夢は『漫画家』だった。
絵が上手で、ぴったりだと自分でも思う。そして、その子が行く学校は漫画の描き方を専門的に習う学校であり、偏差値は物凄く低い学校だったのだ。成績は勉強していないくせに僕よりも良かったために、勉強しなくても受かること確実だった。
そんな子が隣に居れば、誰だって何かしらの余裕が出来てしまうし、勉強だってしなきゃと思う気持ちが半端になってきてしまうだろう。
僕もそうだった。
勉強しようという気持ちが、どこかへ行き、遊び呆けていたのだ。
そして、こうも思うようになっていた。
『医者に本当になりたいのか』と。
そして、そのまま勉強もせずに晴れて第一志望を合格し、高校に来てしまったというわけだ。
高校に入ってからも、中学のやり方が抜けず、ほとんど勉強せずにテストを受けるも、手ごたえが全く無かった。
しかし、医者を目指すものとして、それはだめだろうと何度も自分に叫んだものだ。
でも、やはり、やる気は沸いてこない。
漫画やアニメなんかを見ていると、小さい頃の夢は高校生になっても変わらず、それに向かって猛勉強するというシチュエーションが多い。
夢があるからやる気が起きるんだと、そういっていた気がする。
ならば、僕は例外なんだろうか。
医者になりたいと思っていた。夢だった。しかし、勉強しようというやる気が沸いてこない。
僕は、アニメや漫画のような主人公にはなれないのだろうか。
次元が違うのだろうか。
所詮はやはり、アニメや漫画なのだろうか。
家に帰って即座にパソコンに向かう。
やはり、これをやっているときが一番落ち着くと改めて認識する。
そのときにはもう進路希望調査なんて頭の片隅にも無かった。
□ ■ □ ■ □ ■
日曜日。
父さんも母さんも、休日は不定期のため日曜日も出勤することが多々あった。今日もそのようで、両親は早くに家を出る。
自分は昼近くにおきて、食事を取ってから、すぐにパソコンに向かう。我ながら日課となっていた。
しかし、ずっと続けていれば目も疲れるもので、慣れない眼鏡を付けているせいか、少し頭も痛い。
休憩しようとベッドに横になる。
しかし、眠たくも無ければ、読みたい本も無い。やることが無いためベッドの上で、くしゃくしゃになる布団を無視してごろごろと転がった。
何分間か続けていると、ある紙袋が目に留まった。どうやら、中身も入っているらしくきっちりと立っている。
別に見覚えが無いわけではない。中学の頃に友達に貸した本が、紙袋で返ってきてそのまま放置したものであることは、自分でもよく知っている。
中身も確か、15巻で完結した短い漫画だったなーと思い出し、急に読みたくなってきた。
膳は急げ。
僕は衝動のままにその紙袋をベッドまで持ってきて、中からそれを取り出す。
それは『スパイラル~推理の絆~』だった。
動画を探していて偶然、このアニメを見て心奪われ、漫画も全巻揃えてしまった代物。
ただ、買ったのがだいぶ前で、内容はからっきし覚えていなかった。ただ、良い話だったことと、主人公がとても好きだったことは覚えている。
そういうのをみると、途端に読みたくなってしまうのが人間の性というもので、僕は一巻から全てを読み返した。
主人公の絶望の中でも懸命に希望を探そうとする姿、未来を思う暖かい心。
そんな姿に僕はもう、これでもかっていうほどに号泣した。
そして、思うんだ。
この主人公は悔いの残らないように、悲しみを堪えながらも必死に歩んでいた。
では自分はどうなのか。
これに比べればちっぽけだけれども、本当に医者になって悔いが残らないのか。
やりたいことは、本当にそれなのかと。
―――きっと、違うのだろう。
自分の好きなこと。
好きなこと。
やりたいこと。
やりたいもの。
自分の好奇心を煽ること。
煽るもの。
□ ■ □ ■ □ ■
「進路希望調査を集めます。後ろから回してきてー」
「やべっ!書いてねえ!」
僕の後ろの席の男が先生の声に反応して叫ぶ。
必死にうんうんと唸っては、ペンを走らせて、それを消していく。
そんな姿を横目に、自分の進路希望調査の紙を見下ろした。
自然と顔がにやける。
やっと、心のもやもやが晴れた気がした。
◇将来の夢
『作家・編集者』
まだまだ、夢は始まったばかりだ。
少しでも共感してくれるとありがたいです。
何かしら、人それぞれ抱えていると思います。
この少年は小さい頃からの夢に対してでしたが、夢が見つからない人も居ると思います。反対に夢を持ち、一生懸命頑張っている人もいると思います。
しかし、夢は周りに流されて決めるような物ではありません。自分で、これだと思ったものが夢なんです。
だから、周りがどれだけ夢を持って努力していようと、焦ってはいけません。
まずは、自分とは何なのか理解する必要があると思います。
将来の夢で悩んでいる方々。
一度、自分の好きなものを、好きなことを確認してみてはいかがですか?