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7 吟遊詩人「騎士と僧侶を捜しましょう」

おばさん「このあたりで変わったこと? さァ、特にないわねェ。クリエントの街はしばらく平和そのものよ」


吟遊詩人「そうですか。それじゃあ、もう一つだけ。この写真の二人を見ませんでした?」


おばさん「いいえ? あたしは見なかったけど……」


おねえさん「あら、私見たわよ」


魔法使い「本当ですか?」


おねえさん「ええ。雑貨屋に寄った時に見たような気がするわ。かわいい兄妹だったからつい目が行っちゃって――その二人がどうかしたの?」


魔法使い「友達なんです。ちょっと用事があって」


おばさん「あらそうなの?」


魔法使い「それで、二人が何処に行ったとかは……」


おねえさん「一度見かけただけだから、そこまではちょっと。ごめんね」


魔法使い「そうですか……」


おばさん「それより、本ッ当怖いわよねェ。サブマラの事件! 一晩で村がなくなっちゃったんでしょ?」


おねえさん「ああ、噂によると村の人は皆死んじゃったみたいよ」


おばさん「ヤだわねェ、物騒で。ここもいつ襲われるかわかったもんじゃない! あたしゃまだ死にたくないよゥ」


吟遊詩人「そ、そうですよね。それじゃあ、私たちはこれで」


おばさん「お友達と早く会えるといいわね」


吟遊詩人「はい、ありがとうございます」



吟遊詩人「やっぱりそんなにすぐ見つかるものでもないわね」


魔法使い「うん。クリエントは広いもんね」


吟遊詩人「一旦宿に戻りましょうか」


魔法使い「そうだね。剣士たちが戻ってるかもしれないし」


~宿~


吟遊詩人「まだ誰も戻ってないみたいね」


魔法使い「本当だ。……ん? 机に何かある」


置手紙「魔法使いと吟遊詩人へ。

無線を忘れて行ったみたいなので手紙を残します。

娘を魔物にさらわれたという人の頼みで、西の遺跡に行ってきます。

これを読んだら一度連絡ください。勇者より」


魔法使い「あれっ、吟遊詩人無線は?」


吟遊詩人「え? ああ、魔法使いが持ってるならって思ってここに置いて――あら、魔法使いも?」


魔法使い「どっちが持っていくか話しておけばよかったね」


吟遊詩人「二人して同じことを考えてたのね。ふふ、うっかりしてたわ。……それで、勇者は?」


魔法使い「人助けだってさ」


吟遊詩人「一人で?」


魔法使い「どうだろ。剣士はガンナーと出掛けるらしいから一人なんじゃない?」


吟遊詩人「一人なの……」


魔法使い「心許ないね。生存確認として連絡いれよっか」


吟遊詩人「そうね」


魔法使い「勇者?」


勇者『お、魔法使いか。ってことは手紙読んだんだな』


魔法使い「うん、読んだよ。今どのあたり? 遺跡についたの?」


勇者『いや、まだその道中だ』


魔法使い「そっか、私たちもそっち行こうか?」


勇者『ううん、平気。その人の娘さん見つけたらすぐ戻るから』


魔法使い「……危ないと思ったらすぐ連絡してね?」


勇者『同じようなことを剣士にも言われた』


魔法使い「ははっ、まあ頑張ってね。私達はまた騎士達の行方を調べるから」


勇者『ってことは、やっぱまだ見つかってないんだな』


魔法使い「うん、まあね。じゃあそろそろ切るよ」


勇者『わかった。またあとで』


魔法使い「――じゃ、ちょっと休憩してからまた聞き込みに行こうか」


吟遊詩人「ええ……そうしましょう」


~西側~


勇者「ようやくそれっぽいところについたな。でもここ遺跡っていうよりも洞窟じゃね?」


勇者「まあいいか。間違ってたら引き返せばいいし」


勇者「……って、そんな悠長に構えてる場合じゃないな。この先に娘さんとその子を攫った魔物がいるんだし」


勇者「ん? これは……」


勇者「髪飾り? 女の子の物だよな。全然汚れてないってことはつい最近落としたのか……まさか例の娘さんが落とし物?」


勇者「……ここまできたら行くしかないな」


~宿~


吟遊詩人「……」


魔法使い「よし、そろそろ行――あれ、どうかした? 吟遊詩人」


吟遊詩人「魔法使い、ガンナーと剣士に連絡がつかないのよ」


魔法使い「え?」


吟遊詩人「ガンナーの分はここにあるけど、剣士はちゃんと無線を持っていってるわ」


魔法使い「気付いてないんじゃない?」


吟遊詩人「もう何度もかけてるのよ? それでも気付かないなんて」


魔法使い「……剣士だったら流石に気付くよね。これ、かかってきたらそれなりに音出るし」


吟遊詩人「何かあったのかしら」


魔法使い「で、でもあの二人だよ? 何かあったとしても大丈夫だよ」


吟遊詩人「そう――かしら」


魔法使い「……でも、何かあったのかな」


吟遊詩人「連絡できない状況である可能性は高いと思うわ。それと――」


魔法使い「?」


吟遊詩人「勇者と話した時からずっと考えてて、さっき確信したんだけど」


魔法使い「何?」


吟遊詩人「……勇者は西の遺跡に行ったのよね?」


魔法使い「うん。手紙にも書いてるし、本人がそう言ったんだからそれは絶対だよ」


吟遊詩人「そう、よね」


魔法使い「? 西の遺跡がどうかしたの」


吟遊詩人「西に――遺跡なんてないのよ」


魔法使い「え……?」


吟遊詩人「私は普段から色々なところを旅してまわってるわ」


魔法使い「それは……うん、知ってるよ」


吟遊詩人「だから、少なくともこの大陸については熟知してるつもりよ。でも、私の記憶が正しければ、ここから西に行ったところに遺跡なんてないわ」


魔法使い「で、でも――じゃあ勇者は?」


吟遊詩人「これは私の推測にすぎないけど……おそらく、その『娘がさらわれた』というのは私達に仕掛けられた罠よ」


魔法使い「罠?」


吟遊詩人「だって、おかしいと思わない? 娘がさらわれたら誰かに頼む前に自分たちで助けに行こうとするはずよ。少なくとも私ならそうするわ。それにたった一人とはいえ住民が魔物に連れ去られたともなれば、『街はしばらく平和そのもの』だなんて言えないはずよ。私達はこれまで騎士達の情報を集めるためにクリエントの人たちにいろいろと聞いて回ったわ。その人たちにはまずはじめに『何か変わった事はなかったか』と尋ねていたじゃない? でも、声をかけた人の中で誰一人としてその娘さんの話を出さなかった」


吟遊詩人「私は地図よりも自分を信用するわ。地図に載っているからってそこに本当にそれがあるとは限らないと考えているもの。だからこの大陸も、私は全て自分で足を運んで自分の目で何があるのか確かめてきた。もちろん、その遺跡があるはずの場所にも行ったことがあるわ。でも、過去に一度だってここから西に行ったところに遺跡を見た事なんてないの。あそこにあるのは『レンテ』と呼ばれる洞窟だけよ」


魔法使い「で、でも一体誰がなんのためにそんな事……」


吟遊詩人「私たちの今の敵は『魔王の刺客』よね?」


魔法使い「じゃあ――じゃあ、勇者が一人で、たった一人で『遺跡』に行ったってことは……」


吟遊詩人「私の推測が当たっているなら、まずいことになるわ。何故か勇者の無線に繋がらないし――だから剣士たちと連絡をとりたいのよ。でも剣士が一向に出てくれないから」


魔法使い「と、とりあえず、もう一度勇者にかけてみようよ」


魔法使い「……、繋がらない」


吟遊詩人「……」


魔法使い「ふ、二手に分かれて行動しよう。私が勇者を捜しにいくから、吟遊詩人は剣士たちを捜して、合流できたらお互いに連絡とりあって――ちょっと危険かもしれないけど、そっちのほうがいいよ」


吟遊詩人「わかったわ。ガンナーたちはアラバの丘に向かったのよね」


魔法使い「うん。でもガンナーは……吟遊詩人の言うこと聞いてくれるかな」


吟遊詩人「そこまでひどい人じゃないわ、急がないと勇者が危ないもの。それに……多分だけど、ガンナーも気付いてるんじゃないかしら」


魔法使い「西に遺跡がないって事?」


吟遊詩人「ええ。知識が豊富な子だし、このあたりに土地勘もあるわ。きっとこの大陸の地図くらいは暗記してるんじゃないかしら」


吟遊詩人「とにかくレンテについたら一度連絡して。私も二人を見つけたらすぐ知らせるわ」


魔法使い「わかった、気をつけてね」


吟遊詩人「魔法使いも……油断しないでね。勇者と合流できたときに近くに敵がいたとしても、戦うことよりもまず逃げることを考えて」


魔法使い「う、うん」



挿絵(By みてみん)

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