6 剣士「クリエントに到着した」
魔法使い「クリエント到着! やっと着いたよォー」
勇者「……あっ、おォい、吟遊詩人!」
吟遊詩人「皆、昨日ぶりね。ごめんなさい、急に単独行動なんて」
魔法使い「いいよいいよ。それより、結局調べものってなんだったの?」
吟遊詩人「先に宿へ行きましょう。そこでゆっくり話すわ」
~宿~
吟遊詩人「私が向かった先の集落っていうのは、サブマラの近くにある集落だったの」
ガンナー「それで魔法使いにサブマラのことを尋ねたってことは、『あの夜』の出来事について気になることがあった、ってことだろう」
吟遊詩人「ええ。確認したいことがあって」
剣士「確認したいこと?」
吟遊詩人「サブマラは一晩で焼け野原に変えられた。それは村を見ればわかるし、魔法使いもそう言ったわ。でも、どうしてそんなことが起こったのかしら?」
勇者「どうして、って……」
吟遊詩人「少なくとも魔法使いが夜、眠りについてしばらくは村は平和そのものだった。村に火がついたのが日付が変わる前だったとして、速報の記事が貼り出された時間からしても、だいたい五、六時間ほどで村が消滅したことになるわ」
剣士「さすがに村を全部消しちまうってのは……並大抵の魔術師じゃ到底できないだろうな」
吟遊詩人「今回のサブマラ襲撃を行った犯人は当然いるの。並じゃない強力な力を持ったその誰かがサブマラを滅ぼした」
勇者「それって、魔法使いが見たっていう」
魔法使い「あの――」
吟遊詩人「赤髪の男」
魔法使い「!」
勇者「魔法使いが会ったって言うその男は、一体何者なんだ」
吟遊詩人「赤い髪に青い目の男。赤髪の男とか赤毛の悪魔とか、いろいろと呼ばれ方があるみたいだけど、『フラマ』っていう名前をよく聞いたわ。名前らしい名前はそれしか出なかったから、きっと名前はそれで合ってるはずよ。それで、特に皆その『フラマ』のことを『刺客』と呼んでいたの」
剣士「刺客?」
ガンナー「『魔王の刺客』」
吟遊詩人「……やっぱり、貴方なら何か知ってると思ったわ」
勇者「ガンナー、知ってるのか?」
ガンナー「魔王の手下の、特に強い七人のことをそう呼ぶらしい。俺たちは魔王を倒す前にその七人を相手にする必要がある」
勇者「そう――なのか?」
ガンナー「ああ。ただこのことについては俺よりも僧侶のほうがよく知ってるだろうから、詳しくはあいつに聞け」
魔法使い「じゃあ、はやく二人を捜さないとね」
剣士「そうだな。俺たちは街の外を捜すようにする。魔法使いと吟遊詩人は街の住民から情報を聞き出してくれ。その『刺客』とか言うのについても何かわかるかもしれねえ」
吟遊詩人「わかったわ」
勇者「何か新しくわかったことがあったら連絡してくれ」
魔法使い「勇者こそ、何かあったらすぐに言ってよね。モンスターに囲まれちゃったとか、剣士たちとはぐれちゃったとか」
勇者「はぐれなきゃいいだろ。囲まれても俺一人じゃなければ……」
ガンナー「おい、お前に何かあっても俺は助けねえぞ」
勇者「ええっ」
ガンナー「ったりめえだ。騎士ならともかく、何が楽しくて野郎のお守りなんざするかよ」
勇者「だ、男女差別」
剣士「男なら自分の身は自分で守れよ」
勇者「わ、わかってるよ。でもせめて背後をとられそうになったときくらいは助けてくれよな……」
剣士「気付いたらな」
ガンナー「気が向いたらな」
勇者「俺この兄弟とうまくやっていける自信ないんだけど」
魔法使い「ファイト」
ガンナー「……」
――……。
ガンナー「!」バッ
勇者「? どうかしたか?」
ガンナー「……いや」
勇者「?」
ガンナー「(気のせいか?)」
~外~
剣士「勇者がまた厄介ごとに巻き込まれた」
町人「旅の人よ、どうかお助けください。魔物が私の娘を連れ去ってしまったのです!」
勇者「それは大変だ」
町人「このまま放っておけば、娘の命は……どうか、娘をお助けください!」
はい
いいえ
勇者「ど、どうしよう。助けた方がいいかな?」
剣士「いや……行くとしてもお前一人だぞ? 俺はガンナーと東の丘に行くし、吟遊詩人と魔法使いは街で聞き込みしてるし」
勇者「な、なんだってー!? お……俺一人は流石に無理だ! 無力でごめんなさい!」
はい
→いいえ
町人「娘の命が危ないのです!」
はい
いいえ
勇者「なん……だと……? どうしよう剣士、一緒に来て」
剣士「そうは言ってもなぁ……俺はガンナーを早く追わないといけないし」
勇者「見捨てるのか剣士! 薄情者!」
剣士「その娘とやらを見つけたらすぐに移動魔法で戻って来ればいいだろ、出来れば敵は倒しておいたほうがいいが、無理に戦うことはない。なんとかなる」
勇者「あ、そうか。その手があった」
→はい
いいえ
町人「ありがとうございます! 魔物は『西の遺跡』に向かったようです。どうか無事に帰られますよう……」
勇者「よりによって正反対とは……!」
剣士「いざという時は連絡してくれ。すぐに向かう……とはいえ、俺とガンナーは『アラバの丘』に行くから、駆けつけるにしても少し時間がかかるだろうけどな」
勇者「お、おう。ありがとう……魔法使いたちに連絡しておかないとな」
剣士「念のため傷薬全部持っていけよ……?」
勇者「なあ、俺ってそんなに弱いか?」
剣士「あっ脱出系のアイテムも持っていけ」
勇者「お前中立じゃなかったのかよ!!」
剣士「俺はいつだって中立だ。ただ勇者が心配なだけで……」
勇者「心配してくれるのはうれしいけど、最近のお前は本当に中立保ててないからな」
~アラバの丘~
ガンナー「勇者は?」
剣士「いた方がよかったか」
ガンナー「いや別に」
剣士「魔物にさらわれた街娘を助けに行くんだと」
ガンナー「何処に?」
剣士「西の遺跡だそうだ」
ガンナー「……へぇ」
剣士「一応危なくなったら連絡を寄越すよう言っておいた」
ガンナー「そうか」
剣士「魔法使いと吟遊詩人は変わらず街で聞き込みだ」
ガンナー「クリエントは広いから、僧侶たちを見つけるのも一苦労だな」
剣士「……なあ、ずっと気になってたんだが、お前ってなんで吟遊詩人に冷たいんだ?」
ガンナー「……いや、別に」
剣士「別にって……」
ガンナー「その言葉はもういい加減聞き飽きたぜ」
剣士「お前が素直に答えてくれればいいんだよ。そんな言い方されたら気になって仕方ない」
ガンナー「……」ジロ
剣士「そう睨むなよ……ところで、ここに何か用でもあるのか?」
ガンナー「この先は崖――か」
剣士「え? ああ、そうだな。崖の下は『アラバの森』だ。落ちたらひとたまりもねえ」
ガンナー「……あ、そういえば剣士、今まで黙ってたけどよ」
剣士「ん?」
ガンナー「俺、一つだけ魔法使える」
剣士「……」
剣士「は?」
ガンナー「一度きりしか使えないから最終手段みたいなものだけど。念のため、お前にだけは伝えといた方がいいと思って」
剣士「は――ちょ、待て。ちょっと待て。お前……何、魔法? 使えるのか?」
ガンナー「うん」
剣士「いや『うん』っじゃなくて、え……まじか。職業銃使いだろお前……」
ガンナー「マジだ」
剣士「へ、へえ」
ガンナー「な」
剣士「ん?」
ガンナー「刺客がいそうな場所ってどういう場所だろうな。高台からならなんとなくそれっぽい場所がわかるかと思ったんだけど、さっぱりだ」
剣士「ああ……そのためにここまできたのか」
ガンナー「この東大陸で一番高い場所って言ったらここかな、と。運がよけりゃ僧侶たちの姿も見えるかもしれないし」
剣士「まあ……確かに、ここからなら結構遠くまで見渡せるが。なあ、魔王の刺客について、お前はさっき言っていた以上のことは何も知らないのか?」
ガンナー「そうだな。あとは向こうも俺たちと同じように石を持っているってことだけだ」
剣士「そうなのか」
……。
剣士「しかし……ここは風が強いな」
ガンナー「ああ」
――……。
ガンナー「!」
突然、ガンナーが勢いよく後ろを振り返った。剣士もそれにつられるように振り返る。
そのとき、剣士の腹に勢いよく何かがぶつかった。
しかし物理的になにかがぶつかったわけではない。
――風だ。
ゴオォ
剣士「うわっ」
これまで経験したことのない強風――というより衝撃――に剣士の足が地面から離れた。
後ろにバランスが崩れ、慌てて片足を退く。
しかし、そこに地面はなかった。
ガンナー「剣士!」
咄嗟に剣士の腕を掴むが、ガンナーの脚力ではそこに踏みとどまれず、二人の体は宙に投げ出された。
ガンナーがギリギリのところで崖の淵を掴む。
剣士「ガ、ガンナー……」
周囲を見るが足場になりそうなものはない。全身をすくいあげるような緩やかな風に背筋が冷える。
剣士「ガンナー、手ぇ放せ」
ガンナー「は?」
剣士「このままだとお前も落ちるぞ。こんなところで二つも戦力を失うわけにはいかない」
ガンナー「数少ない前衛を失うわけにもいかないだろ」
剣士「じゃあどうするつもりだ。お前に俺を引き上げられるだけの力があるか? お前の風の能力なら身体を無理矢理上へ押し上げることもできるだろう。でもな、力の加減も自分の限界もわからない今のお前に、二人の人間を上へ飛ばすことができるか?」
ガンナー「……」
剣士「今は僧侶がいないから怪我を負ってもすぐには治せない。死んでしまったらそれまでだ。俺が助かる方法はないだろう。放せ」
ガンナー「お前が落ちたら……。助かる高さじゃないぞ」
剣士「だからこそ放せ。でないと二人とも死ぬぞ」
ガンナー「……」
剣士「……お前が放さないなら、俺は自分で手首を切る」
ガンナー「……」
ガンナー「わかった。放す」
~西側~
勇者「遺跡って具体的にどのあたりなんだろう。行けばわかるって言われたけど全然わかんないな。ううん……」
勇者「それにしても、一人って寂しいなあ」
勇者「……」
勇者「……なんだろう、嫌な予感がする」