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63 吟遊詩人「好きになれない街だわ」

~エルフの村~


騎士「……」


僧侶「……」


騎士「……私が」


僧侶「!」


騎士「私が力ずくででも二人を助け出していれば。いや、そもそも、私がエルフの罠に気付いてさえいれば」


僧侶「……そんなこと言うだなんて、あなたらしくないですね」


騎士「私たちを敵とみなしているエルフを全員納得させられるほどの証明なんて、簡単にはできない」


僧侶「なら尚更、彼に行かせてよかったじゃありませんか。簡単だろうが難しかろうが、彼が『やる』と言って失敗したことがありますか?」


騎士「そんなことはわかっている。心配はしていない。彼が事を仕損じるなんてことはあり得ない。でも」


騎士「……怪我を、させてしまった」


騎士「ガンナーが怪我をした」


騎士「僧侶の服が汚れた」


僧侶「あなたのせいではありません」


騎士「……」


僧侶「今日は疲れたでしょう。騎士、もう休みなさい」


~リエイド~


アリウム「売れなくなった奴隷や不要とされたエルフは皆、闘技場に連れていかれる。そして、そこで死ぬまで戦うの。観客の賭けを盛り上げて喜ばせるためだけにね」


ガンナー「それがさっきの男が言ってた『処理』ねえ。つくづく胸くそ悪い話だ」


魔法使い「……ねえ、どうするの? これから」


ガンナー「どうするも何も、出るって言ったからには出るだろ。あとはまあ、なるようになる」


剣士「お前はまたテキトーな……まあ、なんとかなるか」


勇者「っていうか、おかしいだろ。奴隷が戦うのを見世物にするのもそうだけど、俺たちが出場させられるって」


ライン「ごめんなさい……私たちのせいで」


勇者「えっ、あ、いや、そういうつもりじゃ……」


剣士「戦いが見れるなら奴隷でなくてもいいんだろ。聞いた話によると、反逆者や罪人たちもそこに連れて行かれて剣奴けんどにされるらしいし。何かと理由を着けて人間を戦わせたいだけだ」


ガンナー「その血に対する貪欲さのおかげで、勝てばエルフの解放が約束されただろ? エルフが解放されれば、俺たちはあいつらを救った英雄になる。これで納得しない村人はいない。僧侶と騎士の拘束も解かれる。な? みんなが幸せになるだろ? きっちり録音して契約書にサインもさせたからしらばっくれることもできない」


剣士「……ちゃっかりしてるな」


商人「ガンナー殿……恐ろしい人……」


勇者「負けたら女である魔法使いたちは奴隷として掴まって、男の俺たちは一生剣奴として幽閉されるか、臓器という臓器を根こそぎ取られて殺されるんだぞ!? それに、この条件に応じたってことは、向こうはそれほど自信があるってことだろ。それに出場できるのは一人だ。大量の戦士を一人で相手にするなんてことになったら……」


ガンナー「ごちゃごちゃうるせえな、要するに負けなきゃいいってことだろ? 明日の……っていうか、もう今日だけど、その乱闘大会には俺が出る」


魔法使い「大丈夫なの?」


ガンナー「さあな。相手の手の内が見えない今の段階じゃ何とも言えねえけど、それでもこの中で戦って一番強いのは誰だよ?」


魔法使い「ガンナーだね」


勇者「即答か……まあ、そうだけどさあ」


ガンナー「だったら、俺が行くのが最善策だろ」


剣士「……俺が代わってもいいんだぞ? いや、むしろこの場合はお前じゃなく、俺が行くべきだと思うんだが」


ガンナー「先のこと心配したって仕方ねえだろ。なんかこう、うまいことやってみるさ。うまくいかなかったら、それまでだけどな」


勇者「そ、それまでって、頼むよ、俺たちのこれからの人生はお前にかかってるんだぞ? 勝ってくれなきゃ困る」


ガンナー「心配すんな。やばいと思ったら本気出す」


吟遊詩人「ガンナーの本気……?」


魔法使い「なんかその言葉ちょっと怖いね」


勇者「ガンナーが強いのはわかってるけど、万が一ってこともあるかもしれないし、本当に気を付けろよ?」


ガンナー「わかってる。任せろ」


~数時間後、リエイド最奥部のコロシアム~


司会『さあさあ、本日繰り広げられるのは、正義に仇為した大罪人の公開処刑! 奴隷エルフを匿おうとした滑稽な男は、なんとエルフの解放をご所望だそうで!』


観客「ハハハハハ!!」


司会『共犯七人とエルフの運命は一人の男に託された! これから続々と登場する処刑人になぶり殺されるか、はたまた全てに勝ち抜くか……さあさあ、金があるなら賭けた賭けた!』


ガヤガヤ、


ガンナー「昨日の男、ここの司会者だったのかよ」


勇者「おい、ガンナー、本当に大丈夫か? 思ってたより軽装……っていうか、普通の服とズボンだけで、何ひとつ防具がないじゃないか。武器もその剣一本だし……」


魔法使い「な、なんかドキドキしてきた……」


ガンナー「どんだけ心配性なんだよお前らは。いいから黙ってその牢屋から見てな」


剣士「ガンナー」


ガンナー「あん?」


剣士「やっぱり俺が……。……いや、なんでもない。しくじるなよ」


ガンナー「当然。俺の辞書に『敗北』の二文字は載ってないんでね」


ガンナー「……あいつらのためにも」


剣士「ああ」


商人「ご武運を」


ライン「あ、が、頑張ってください」


アリウム「ねえ」


ガンナー「なんだ」


アリウム「……あんたたちを巻き込んだことは、悪いと思ってる」


ガンナー「俺たちが勝手に巻き込まれていったんだぜ。お前が悪いと思う必要はねえ。あと、俺はガンナーだ。人の名前は一度で覚えろ」


アリウム「……」


兵「時間だ。来い」


ガンナー「わかったから触んないで」


兵「闘技中の注意事項だ。こちらから支給された剣と会場にある物以外の武器の使用、及び魔法の行使などは原則として禁止。これを破れば失格となり、参加権を失う。つまり」


ガンナー「死んだら負け、失格になっても負け」


兵「そうだ」


ガンナー「ルールはそれだけ? なんだ、案外自由度高いじゃん」


兵「余裕こいていられるのも今のうちだ」


司会『それでは、本日の犠牲者の入場です!』


ガンナー「は? 退場させてやろうかあのクソ野郎」


~アリーナ~


ガンナー「(フィールドは円形。観客席の下の扉から敵が出てくるのか。何処から来るかわからないし、中央にいたほうがよさそうだ)」


ガンナー「(銃はない。能力も禁止。つまり、ガチの実力勝負ってことか。まあ、どう戦うかは相手を見てから考えても遅くはない。さっきからガキだガキだと舐め腐ってる金持ち連中に一泡吹かせて、さっさと終わらせるか)」


ガンナー「(問題は……)」



剣士「あいつ……少し焦ってるな」


魔法使い「え、あれ焦ってたの? いつもと変わらなかったよ」


勇者「頼むから、プレッシャーで凡ミスとかしないでくれよ……」


魔法使い「が、ガンナーに限ってそれはないよ。……多分」


剣士「焦りもそうだが、一番の問題は別にあるんだよな」


商人「問題……と申しますと?」


吟遊詩人「……あ」


剣士「職業規制だ」


勇者「!」


魔法使い「た、たしか、海賊さんの船に乗ったときにかかったやつだよね? 職業の枠を超えて五分……だっけ。あれっ? これやばくない?」


剣士「そうだ。その五分の間はいいかもしれないが、問題はそのあと。職業規制で行動が制限されるとこちらが圧倒的に不利になる。あいつが職業枠を超えて戦う時間が長ければ長いほど、規制は重くなって制限も増えるんだ」


魔法使い「私はなったことがないからよくわからないけど、その『行動が制限』って、具体的にどうなるの? 前のときも、ガンナーはしばらく戦えないって言ってただけで、特に変わったことはなかったけど」


剣士「見た目に出なかっただけだ。まず職業規制っていうのは、例えばガンナーの場合、銃使いは銃や弓矢以外の武器を持てない。その職業の枠を超えて五分以上、ジョブに合わない武器で戦うと、武器を手放した瞬間から、戦っていた時間の分のペナルティを科されることだ。規制期間は行動を制限され、どの武器も持つことができなくなり、つまり銃使いが規制にかかると、まず元の武器である銃を持つことすらできなくなる」


魔法使い「そ、それで、行動の制限っていうのは?」


剣士「まず第一に体が重くなる。わかってると思うが体重が変わるって意味じゃないぞ。大量の枷を着けられたみたいに動きが遅くなる。それから、体に一定以上の力が入らなくなる。それから五感も鈍る。規制にかかってる間は世界が異様に速く感じられて、身体が異常に鈍くなり、動くのも億劫になってくるんだ」


勇者「や、やばいじゃん」


魔法使い「でも、だったら、ずっと剣を離さなければいいんじゃないの? 自分の職に合わない武器で戦って五分以上経った後の、はじめに武器を手放した瞬間から規制にかかるんでしょ? だったら、何が何でも武器を持ち続けていれば……」


剣士「そういうわけにもいかない。最初に言ったように、職の枠を超えた時間の分だけペナルティは重くなる。あいつが剣を持つ時間が長ければ長いほど、その反動は凄まじいものになっていく。今言ったのは一例でしかないんだ」


商人「それに、三十分以上でしたか……一定以上武器を持ち続けますと、武器を手放さなくとも強制的に規制がかかります。なので、魔法使い殿の方法でずっと剣を持ち続けていたとしても、三十分が限界。時間が来ると絶対に武器を放してしまう」


剣士「いくらガンナーでも、それに抗うのは無理だ」


勇者「じゃあ、三十分経ったら、あいつはもう戦えないってことか?」


吟遊詩人「デッドラインのギリギリまで職業の枠を超えるとなると、もしこの試合に勝てたとしても、規制期間は勿論、前回の比じゃないほどの日数になるでしょうし、何よりも、ガンナーの体がどうなるかわからないわ」


勇者「な、なんで剣士に代わらなかったんだよ! 剣士も、わかってたならなんで……」


剣士「あいつのあんな焦った顔は初めて見た。多分、自分でケリをつけたかったんだろう。だから自分から出るって言い出したんだ」


勇者「でも、こんなの無茶だ! 三十分で規制にかかる、規制にかかったら戦えない。だったらこんなの、どうしようもないだろ!」


剣士「落ち着けよ勇者。忘れたのか?」


勇者「忘れた……って、何を」


剣士「あいつの性格を、だ」


勇者「性格……?」


剣士「そう。あいつ――ガンナーは、勝てない相手に喧嘩は売らない」

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