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62 魔法使い「宣戦布告」

勇者「ガンナーは?」


剣士「泥みたいに寝てる」


ライン「……」


魔法使い「ご飯食べないのかなあ。話を聞いた限り、昨日飛行船から落ちてから何も食べてないはずなのに」


剣士「まあ、あいつが食わないとラインと商人の分の飯が増えるだけだがな」


商人「えっ」


ライン「えっ」


吟遊詩人「疲れてるところを起こすのもどうかと思うし、そっとしといていいんじゃないかしら」


勇者「はあぁー、僧侶と騎士大丈夫かなあ……」


剣士「またはじまった」


ライン「あの、私、私も何かお手伝いを……」


剣士「お前は座ってろ」


ライン「ですが私は……」


剣士「ええい、しつこいな。子どもはなにも考えず、椅子に座って、飯が出て来るのを腹すかせながら待ってりゃいいんだよ! 手は足りてる。いいから座ってろ」


ライン「は、はい……」


剣士「さっきあいつも言ってたがな、お前は奴隷じゃないんだ。そんな小さいうちから働くことなんか考えなくていいんだよ。家事の手伝いは家で母さんにでもしてやれ。ったく、商人といいお前といい、揃ってげっそりしやがって」


商人「げ、げっそりなどしておりませんぞ」


ライン「も、申し訳ございません、剣士様」


剣士「様付けすんな! ほら、飯出来たから謝るくらいなら食え。顔色もよくねえし、どうせろくに食わせてもらえてなかったんだろ」


魔法使い「わーいお腹ぺこぺこ!」


吟遊詩人「この二皿だけ異様に量多いからこれ商人とラインちゃんの分ね」


勇者「ガンナーは起きる気配ナシ、と」


ライン「……」ゴクリ、


ライン「わ……私は、皆様の後でいただきますので、あの」


剣士「料理した奴への一番の礼儀は冷めないうちに食うことだろが。いいから食えよわからず屋」


魔法使い「剣士がなんかこわいよ。めちゃくちゃイライラしてる……」


吟遊詩人「この街の空気と、こんな小さい子ですら奴隷として売られてる闇市場の存在に怒ってるのよ。多分」


魔法使い「でもたしかに、エルフの女の子を拉致して奴隷にするなんて、許せないよね」


勇者「村のエルフたちが乱暴な手段に出るのも無理ないよな。なんでそんなことができるんだろう」


商人「こんな卑劣な街です故、ガンナー殿もアッシも好きになれぬのです」


剣士「……話してばかりいないで、さっさと食っちまえよ」


勇者「あ、うん。そうだな。いただきます」


魔法使い「おいしい!」


剣士「まだ少し残ってるから、食いたきゃ食っていいぞ」


勇者「二人の分をあれだけ盛って、それでも余ったのか……」


剣士「いや……つい、いつも通り作っちまってな」


吟遊詩人「……騎士と僧侶、今頃ちゃんとご飯食べてるといいけど……」


勇者「やっぱり、心配だな……」


剣士「……まあ、あいつらはあいつらで何とかしてるだろ。今はそう信じるしかねえよ」


吟遊詩人「それもそう、よね」


ライン「……」そわ、


商人「……いただきましょうか、ライン殿。今は空腹を我慢する必要などありませぬ」


ライン「あ……はい。い、いただきます……」


ライン「……」ぱく、


魔法使い「どう?」


ライン「……!」ぱくぱく、もぐもぐ、


剣士「おいおい、そんな慌てるなよ」


ライン「んんっ、ゴホゴホッ」


吟遊詩人「あらあら、はいお水」


ライン「す、すみませ……申し訳……」ぽろ、


商人「あっ」


ライン「も、もうわけ……ございま……う、ううう……」ぽろぽろ、


魔法使い「あ、わ、あ、け、剣士が泣かした!」


剣士「俺かよ」


ライン「ちがっ、違う、くて……ご飯……ご飯が、おいしくて、温かくてっ、私、私……」


吟遊詩人「……いいのよ。あなたはもう怯えなくていい。もうあなたに酷いことをする人はいないんだから。もう我慢しなくていいのよ」


魔法使い「そうだよ。もう怖い人はいないよ。ラインはもうすぐおうちに帰れるんだよ」ぎゅっ、


ライン「ううっ……う、うわあああああん!」


勇者「……」


勇者「(帰る場所、か……帰るべき場所があるなら、待ってくれてる人がいるなら、あの子はそこにいるべきだ)」


勇者「(それを無理矢理、奴隷として売り飛ばすなんて……)」


~・・・~


魔法使い「もう電気消すね」


吟遊詩人「ええ」


ライン「あの、私、こんなに皆さんによくしてもらって、いいんでしょうか……」


魔法使い「えー? こんなの普通だよ」


ライン「少し前までつらいことばかりだったのに、今はこんなに幸せで、その反動でこのあともっとつらいことが起きるんじゃないかって、不安で……」


吟遊詩人「ラインちゃん、そうじゃないわよ」


ライン「え?」


吟遊詩人「あなたは今、これまで不幸だった分の幸せを取り戻そうとしてるのよ。不安を感じることはないわ」


魔法使い「そうだよ。やっとつらいのから抜け出せたんだから、楽しまないと!」


ライン「……はい」


吟遊詩人「何か、悩んでるの?」


ライン「私……お姉ちゃんがいるんです。多分、今もあのお店にいて……それが心配で」


魔法使い「そうなんだ……」


ライン「……すみません。今日は、もう」


吟遊詩人「……そうね、そのことはまた明日に話しましょう。あなたも疲れたでしょう」


魔法使い「おやすみ!」


ライン「お、おやすみなさい」


吟遊詩人「ええ、おやすみ」



…………。


……。


ライン「……?」もぞ、


少女の声「ライン! ライン!」


ライン「誰……?」


少女の声「ライン、そこにいるのね? 私よ!」


ライン「その声……お姉ちゃん?」


姉エルフ「ええ。あなたが連れていかれたのを見て、逃げ出してきたの」


ライン「待ってて、今、鍵を開けるね」


ガチャ、


姉エルフ「ああ! ライン、よかった。何もされてない? 怪我は?」


ライン「大丈夫だよお姉ちゃん。あのね」


姉エルフ「とにかく、早く逃げましょう! 一緒に村へ帰ろう!」


ライン「えっ、でも」


姉エルフ「いいから! こんなところにいちゃ駄目よ。私たちが人間の奴隷になる必要なんてないんだから!」


ライン「違うのお姉ちゃん。あの人たちは私を助けてくれて、私のために、可愛いお洋服も、おいしいご飯も、温かいベッドも用意してくれたの」


姉エルフ「人間の言うことに惑わされちゃ駄目! 優しいフリをしてあなたを騙そうとしてるのよ! 今すぐ逃げましょう。村まで帰れば、きっとお父さんたちが守ってくれる!」


ライン「待って、待ってよお姉ちゃん、本当に大丈夫なんだよ! それに旦――ガンナー様は今、村のみんなのことで困ってて、このままでも私はすぐ帰れるんだよ! だからお姉ちゃんも」


姉エルフ「騙されないで! 人間が私たちにしてきたことを忘れたわけじゃないでしょ!?」


ライン「わかってる。でも、人間みんなが悪いわけじゃないよ!」


ガンナー「なんでもいいから静かにしろよ。うるせえな」


姉エルフ「!」


ライン「あ、す、すみません」


姉エルフ「あなたに……あなたに妹は渡さないわ! 私たちは人間なんかの言いなりになんてならない!」


ガンナー「誰お前」


姉エルフ「……アリウム。ラインの実の姉よ」


ガンナー「へえ。ああ、たしかあの店にいたな。逃げてきたのか」


アリウム「だったら何?」


ガンナー「……ふうん」


剣士「なんか騒がしいな」


勇者「あ、あれ? エルフが増えてる!」


魔法使い「え、え、なになに?」


ガンナー「ほら見ろ。えー、アリウムだっけ? お前が騒ぐから全員起きてきたじゃねえか」


アリウム「い、いくら人数が増えたところで関係ない。私はラインを連れて村に帰る!」


ライン「お姉ちゃん……」


吟遊詩人「! 皆、外を見て!」


剣士「……なんだ? こんな時間だってのに、やけに人が集まってる」


~宿の前~


ザワザワ、


男「夜分遅くに失礼します。夕方ごろ、とある商店のご主人からエルフが店から逃げ出したと言う通報を受けまして、近隣住民の目撃証言などからこのあたりに逃げたのではないかと調べているのですが――何かご存知ありませんかねえ?」


アリウム「!」


男「んん? ああ、そんなところに……すみませんねえ、そちらのエルフは売り物でして。皆様の寝室を汚してしまって申し訳ない。すぐにそれは連れて行きますので、ご容赦ください」


剣士「……おい、待てよ」


ガンナー「『売り物』って言い方、なんか気にくわねえな」


男「おおっと、これは失礼。しかしその奴隷エルフが売り物というのは事実でして……最も、こんな風に逃げ出すようでは売り物としても扱えない、欠陥品ですがねえ……」


男「すぐに処分しなくては……お客様に不良品を押し付けるわけにもいきませんし」


ライン「!」


勇者「処分……?」


男「おや、すみません。聞こえてしまいましたか。……処分は処分。不良品が店に並ぶことが許されませんから、民衆たちの役に立つ方法を使い、この街ならではの形で『処分』するのです」


魔法使い「……なんか、不穏だね」


アリウム「誰が……誰が『あんなところ』に行くもんですか! 私は村に帰るの!」


男「口を慎め、薄汚い奴隷が。家畜の分際で、誰に向かって物を言っている!」


アリウム「薄汚いのはどっちよ! エルフは人間の家畜なんかじゃない!」


商人「よくぞ申されました、アリウム殿。その通り、エルフは人間と対等の立場にあるべき種族。人間が一方的に支配し従えるなど、そのような横暴がまかり通るべきではあらぬ」


ガンナー「あいつ、ずっとあんなクソみてえな店にいたくせに、全然染まっちゃいねえのか。大したもんだ」


剣士「……まったくだ。どうする? このまま素直に引き渡すのか?」


ガンナー「そんなわけないだろ。むしろこれは……俺たちにとっちゃまたとない好機だ」


勇者「ガンナー? 何するつもりなんだ」


剣士「勇者。今回は――いや、今回も、か――ひとまずあいつに任せておけ」


ガンナー「……」すう、



ガンナー「俺たちはこのエルフを引き渡すつもりはない! 何故なら、エルフを奴隷にするというお前たちの汚れた商売が気に入らないからだ!」



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