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61 勇者「奴隷エルフ?」

~昨夜、エルフの村~


僧侶「まさか、こんな形であなたに背中を預けることになるとは」


ガンナー「同感だ。野郎とひとつ屋根の下、縄でぐるぐる巻きになる日が来るとは思わなかったぜ」


僧侶「彼らは我々を処刑すると言っていました。どうします?」


ガンナー「強行突破以外にあり得ねえだろ。身に覚えのない罪で処されるなんざまっぴらだ」


僧侶「でしょうね。ですが、わかっていますね?」


ガンナー「殺すな、だろ。言われなくてもわかってら」


ガチャ、


僧侶「おや」


エルフたち「……」ぞろぞろ。


ガンナー「……おい、僧侶。気付いてるか?」


僧侶「ええ」


ガンナー「おいエルフ。お前ら、なんで男ばっかりしかいねえんだ? いやまあそれは別に気にすることでもねえけど、ここに連れてこられる途中にも、村のなかに女がほとんどいなかったのは何故だ」


エルフ1「黙れ! すべてはお前たち人間のしてきたことだ!」


エルフ2「お前たちの思惑通りにはさせん! 我々がいつまでも黙っていると思ったら大間違いだ!」


僧侶「一体何があったのか、それだけでも説明していただけませんか」


エルフ3「うるさい! しらばっくれようったって無駄だ!」


ガンナー「……もしかして、お前らが憤っているのはリエイドの連中か?」


エルフたち「!」ざわ、


ガンナー「――みたいだな。女がいないエルフの村。金だけが正義な汚い街リエイド。推測するに……エルフの女たちは、やつらに連れて行かれたのか?」


エルフ1「そうだ。お前たち人間が、我々の妻子を見境なく拉致し、奴隷として売りさばく商売をはじめたんだ! リエイドの奴隷商人が嫌がる娘たちを無理矢理連れて行った!!」


「許せない!」

「娘を返せ!」

「エルフは人間の奴隷じゃない!」

「村に近付く人間は皆処刑だ!」


ガンナー「あのなあ」


エルフ?「ならば」


エルフ1「!」


後ろの方に立っていた、ローブ姿のエルフが、前に立っていた一人の男エルフの首筋に刃を当てた。ローブのエルフは片手で己のローブを脱ぎ捨てる。


騎士「旅人である我々には関係のないことだ。二人を解放しろ」


僧侶「騎士……」


エルフ2「何者だ!」


ガンナー「落ち着け騎士。剣を仕舞え」


騎士「でも」


ガンナー「いいから」


騎士「……」スッ、


ガンナー「そいつは別にお前たちに殺意を抱いていたわけではない。俺たちを助けようとしただけだ。お前たちが連れ去られたエルフのために人間を処刑しようとしているみたいにな。だからそれは大目に見てやってくれ」


エルフ1「だ、黙れ! そもそも我々がこうしているのもお前たち人間が」


ガンナー「だから俺たちはたまたまお前らの村の近くを通って罠に引っ掛かっただけで、関係ないんだっつの」


エルフ2「お前たちが俺たちに敵意がないという証拠がないだろ!」


「そうだ! 敵意がないことを証明しろ!」

「証明できないなら死刑だ!」

「殺せ!」


僧侶「……つまり、我々があなたがたの味方であると証明できれば、この拘束を解いていただけるのですね」


エルフ3「証明できたらの話だ。この場にいるすべてのエルフを納得させることができなければ、お前たちを処刑する」


騎士「そんなことはさせない」


「おい、そいつも捕まえろ!」

「いつ暴れるかわからないぞ!」

「そうだそうだ!」


僧侶「証明……そうですねえ、今この場ですぐに、というのは難しいです」


ガンナー「もう少し猶予をもらえればわからないけどな」


騎士「ならば、私とその人、人質を交換してほしい」


エルフ2「交換?」


騎士「私はリエイドに行ったことがないから、向こうの事情も何もわからない。この人なら、前に一度あの街を訪れている。それに、彼と私では出来ることの範囲も大きく変わってくる」


ガンナー「……」


エルフ3「だが、その男が約束を守らず、お前たちを見捨てる可能性もあるぞ」


騎士「それはない。絶対に」


エルフ1「……ふん、まあいい、逃げれば二人の処刑が決まるだけだ」


ガンナー「あらあらまあまあ、結構な大役押し付けてくれちゃって……」


騎士「ごめんなさい」


ガンナー「いいよ。すぐ戻ってきてやる」


僧侶「ガンナー……」


エルフ1「タイムリミットは三日後だ。もしそれまでに戻ってこなければ、この二人を殺す。仲間を助けたいなら逃げるじゃないぞ」


ガンナー「……んじゃ、ちょっと行ってくるわ。ったく、面倒なことに巻き込まれたな」



~リエイド、闇商店街~


勇者「ガンナー! 待てって。どういうつもりだよ、奴隷なんて!」


ガンナー「ああークソッ、これだからこの街は嫌いなんだよ! 不快不快、不愉快の極みだ、胸糞悪い!」


勇者「ガンナー……?」


エルフ「……あ、あの」


ガンナー「あん?」


エルフ「ご、ご購入、ありがとうございます。き、今日から、あなたの奴隷……に、なります。エルフ……です。なんなりと、お申し付けください……ご、ご主人様」


ガンナー「……そんな震えられてもな」バサ、


エルフ「!」


ガンナー「とりあえず、そんな下着同然みたいなボロ布でいられちゃ困る。上着かしてやるからしばらく着てろ」


エルフ「い……いけません。私は……私は奴隷の身。ご主人様の服を……お、お召し物を汚すような、真似は」


ガンナー「うるせえなあ。そのご主人様自身が上着かけたんだから拒否んじゃねえよ。てかご主人様って言うのやめろよ」


エルフ「ですが……」


ガンナー「好きな色は?」


エルフ「え……?」


ガンナー「色。カラー。お前の好きな色は?」


エルフ「え、あ、緑……です」


ガンナー「あっそう。じゃ、ちょっと待ってろ」


勇者「え、お、おいガンナー!」


ガンナー「ちょっとそいつ頼む。動くなよ。すぐ戻る」


勇者「はああ??? ちょっ……」


エルフ「……」


勇者「……」


勇者「(めっちゃ気まずい!!)」


勇者「……あの」


エルフ「は、はい」


勇者「君の名前は?」


エルフ「ラ……あ、いえ……名前など、ございません」


勇者「え」


エルフ「私は奴隷の身、ですので、名前など、そのような……そのような贅沢なものは、ありません」


勇者「いや、あの」


ガンナー「おらすぐ戻った!」


勇者「ッあああ! びびった!!」


ガンナー「よし。宿に行くぞ。お前が道に迷ったせいで他のやつら待たせてんだぞ」


勇者「ええっ、ちょ、ガンナー待てって! 急にいろんなことが起こりすぎて頭が追いつかない!」


ガンナー「頭が追いつくのは後でいいから今は体を追いつかせろ」


~宿~


剣士「お、やっと戻ってき――ああ!? おい、なんだその子ども」


勇者「いやそのこれは」


魔法使い「エルフの女の子? どうしてそんな格好で……」


ガンナー「一から説明するからその前にとりあえず、魔法使いと吟遊詩人、こいつ風呂に入れてやって。着替えこれな」


吟遊詩人「えっ、ええ……わかったわ」


エルフ「あの」


魔法使い「こっちだよ。おいで」


エルフ「あ、えっ、え」



剣士「……で、どういうことだ?」


勇者「えっと……俺が散歩してて、道に迷って、宿への戻り方を近くの店の人に聞こうと思って……」


ガンナー「こいつが道を尋ねに入っていった店が奴隷売りの店で、とりあえずエルフ一人買ってきた」


剣士「はああ!?」


ガンナー「一日でこんな大金使ったのはじめてだわ俺。いい気分しねえ」


商人「い、いかなる心理が働けばそうなるのでございますか。そも、騎士殿と僧侶殿は……」


勇者「あ、そうだよ。あの二人はどうしたんだ?」


ガンナー「いやそれがな、面倒なことになってんだよ。それで、エルフを連れてきたのも、その面倒なことの解消に使えると思ったからだ」


勇者「面倒なこと?」


~風呂場~


エルフ「あ、あの、あの、も、勿体ないです。私には、こんな」


魔法使い「えー? でもかわいいし似合うよその服!」


吟遊詩人「そうよ。それにあんな格好してたら風邪ひいちゃうわ」


ガラ、


魔法使い「ご対面ー!」


エルフ「だ、だ、旦那様。あの、これは……」


ガンナー「あのさ、呼び方『ご主人様』じゃなきゃいいってわけじゃないから……」


エルフ「ですが」


ガンナー「俺はガンナー。こっちから順に、勇者、剣士、商人、吟遊詩人、魔法使い。あと二人僧侶と騎士ってのがいるけど、まあ当分は会えねえよ」


魔法使い「え、あの二人どうしたの?」


剣士「なんか……捕まってるらしいぞ」


吟遊詩人「えっ」


魔法使い「ていうか、あの子を買ったって言ったけど……あの人いくら使ったの……」


勇者「……」


勇者「さ、さつたばが……親指くらいの厚さのさつたばが……」


魔法使い「ヒエッ……」


勇者「あんな大金さらっと出しちゃうガンナーこわい」


ガンナー「なに言ってんだ。あれで二人が助かるならはした金だろ」


勇者「かっけえ……」


ガンナー「で、お前の名前は?」


エルフ「……ありません。奴隷に、名前などという贅沢なものは……」


ガンナー「は? 意味わかんねえこと言ってねえでさっさと名前言え。ずっとエルフって呼び続けるぞ。いいのかよ、エルフ百人いるところでエルフって呼んだら百人全員が振り返るんだぞ、気持ち悪いわ。お前にだって親にもらった名前があるだろ。それを言えっつってんのがわかんねえか」


魔法使い「ガンナー怖い。っていうかその例えはどうなの」


エルフ「……」


ガンナー「俺はお前を奴隷として見てなんかねえ。一人のエルフとして話してる。お前は人に初めて会って、向こうが名乗ってきたらどうするんだ。常識ねえのか」


勇者「常識ある人は初対面の女の子にそんな話し方しないと思う」


ガンナー「ん?」


勇者「なんでもないです」


エルフ「……ラ」


エルフ「ライン、です」


ガンナー「そうか。ライン、手短に説明するとな、今お前が住んでた村に俺の幼馴染の二人が拘束されてる。さっき言った騎士と僧侶だ。お前の村の住人はエルフの女たちがリエイドの奴隷商人たちに拉致されて奴隷として売られていることに腹を立てて、たまたま村の近くを通った俺たちを目の敵にして、二日後までに自分たちに敵意がないことを証明しないと二人を殺すと脅してきた。俺がお前を買ったのも、その証明に役に立つと思ったからだ。だから俺は奴隷としてのお前は求めてない」


ライン「役に……? あの、私は何をすれば」


ガンナー「お前が村に帰って、俺たちがエルフの敵じゃないことを熱弁してくれれば納得してくれるんじゃねえの。こっちも命かかってんだ。店から解放された恩を返すと思って、こう……ちょっと話盛りつつ村のエルフたちに言ってくんね?」


ライン「は、はあ……」


ガンナー「よし、決定。もうちょい確実な何かが欲しいが……それは後でいいか」フラフラ、


剣士「ガンナー?」


ガンナー「寝る。俺昨日ほとんど寝てない」ばたっ、


剣士「ガンナー!」

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