52 勇者「商売人」
魔法使い「西大陸にはどれくらいで着くの?」
勇者「え、どうだろう。どうなんだ僧侶」
僧侶「そうですね……遅くても明日の晩には到着しているかと」
魔法使い「そっかあ。騎士とガンナーは一緒じゃないの?」
僧侶「二人は今甲板に出ていますよ」
勇者「朝から散歩か。あいつら本当仲いいよな」
僧侶「朝から共に過ごすとは、勇者さんと魔法使いさんも大変仲がよろしいようで」
勇者「えっ!? そ、そう?」
僧侶「ブーメラン返しです」
魔法使い「ブーメランって投げたら帰ってくるとか嘘でしょアレ。一回も帰ってきたことないよ」
勇者「俺もちゃんと投げれたことない」
僧侶「左様ですか」
勇者「フリスビーだったらメッチャ綺麗に投げれる」
魔法使い「それは五歳児でもできるよ」
商人「あ! 勇者様おはようございます!」
勇者「商人、おはよう」
僧侶「おはようございます、商人さん」
魔法使い「おはよー」
商人「他の皆さんはご一緒ではないのですね」
勇者「誰かに用だった?」
商人「い、いえ……」
僧侶「ガンナーなら昼ごろまで起きてきませんよ」
勇者「ああ、船にいる間はすることもないから早起きしなくていいもんな。叩いても揺らしても起きないし、昼まではびびらなくていいよ」
商人「べ、べ別にそのようなことは、そのようなことは……」
魔法使い「顔青いよ」
剣士「何してるんだお前ら」
商人「ギャア!?」
勇者「『ギャア』って……」
魔法使い「剣士おはよう」
僧侶「おはようございます」
剣士「ああ」
商人「おうあ、おわ、おはようございます剣士殿……」
勇者「(殿……)」
魔法使い「(殿……)」
剣士「すごいどもり方だな」
勇者「剣士、ガンナーは?」
剣士「まだ寝てる。腹の上に棍棒落としても起きなかったからまだしばらくは起きてこないだろうな」
勇者「ほら商人、大丈夫だって」
商人「で、ですからアッシは別にその……」
魔法使い「それよりお腹すいたー」
僧侶「そういえば朝食はまだでしたね」
剣士「船の食堂で食べるか?」
魔法使い「剣士作らないの?」
剣士「作ってもいいが今からだと少し時間かかるかもな……それにほかの奴らはどうするんだ?」
勇者「俺と魔法使いで探してこようか? 吟遊詩人だったら多分甲板にいると思うし」
剣士「ああ、いや、ガンナーが一番の問題なんだが」
僧侶「ガンナーのモーニングコールは騎士に頼めばよろしいかと」
勇者「まあ幼馴染の女の子だったらガンナーも下手に攻撃できないだろうしな」
剣士「お前はうちの弟をなんだと思ってるんだ」
勇者「だ、だって無理に起こすと撃たれるとか言ってたし……」
商人「聞けば聞くほど恐ろしい……やはりかなりの危険人物……」ブツブツ
剣士「おい待て商人、勇者の言葉を真に受けるな」
商人「……と、ともかく鬼――ゴホン、他のご友人方がいらっしゃる前にアッシは退散いたすゆえ」
剣士「今はっきり『鬼』って言ったよな。まあガンナーのことだろうけどよ」
魔法使い「え、一緒にご飯食べないの?」
勇者「剣士の料理うまいぞ」
商人「しかしこれ以上皆様方にご迷惑をおかけするわけにもいきませぬ。アッシはこれにて……」
剣士「七人分作るんだ。今更一人増えたところで変わらねえよ」
勇者「ガンナーのことなら本当に心配しないでいいぞ。昨日も言ったようにお前が思ってるほど怖い奴じゃないって。それに俺たちはともかく、魔法使いや吟遊詩人となら話も合うんじゃないか?」
魔法使い「そうだよーガンナーこわくないよー」
勇者「(空砲とはいえ銃で撃たれたけど)」
魔法使い「(無理矢理髪切られたけど)」
商人「そ、そうでしょうか……?」
僧侶「……あの、商人さん。一つよろしいでしょうか」
商人「何か」
僧侶「あなたは毎日きちんと食事を摂られていますか?」
商人「えっ」
僧侶「あまり女性にこのような指摘するのは褒められたことではないと承知の上でお伺いしますが、見れば随分と細身でおられるようですし、昨日のガンナーとの『決闘』を見ていた時から気になってはいたのですが、もしや日頃から十分な栄養を摂取できていないのでは? でしたら聖職者の身として見て見ぬふりはできません」
商人「そ、それは……」
勇者「たしかに商人、最後会った時より痩せたような。……でも、昨日のガンナーとの喧嘩で何かおかしなところってあったか?」
僧侶「おかしいも何も、商人さんはガンナーとほとんど体格が同じでしょう。体の大きさが互角の相手を、いくら武闘家さんを真似たからといってあんなに軽々と投げられますか? たしかにガンナーは我がパーティ内では随一の戦闘力を誇る銃使いです。しかし、勇者さんは大事なことを見落としています。ガンナーは総合的な戦力こそトップクラスではありますが、基礎的な体力は勇者さんとほぼ同格、筋力にいたっては勇者さんより下なのですよ」
勇者「あ、そういえばそうか。え、じゃあ何、昨日のはガンナーの腕力が強すぎたわけじゃなくて商人が軽すぎたってこと?」
僧侶「何なら試して見てはいかがです。商人さん、構いませんか?」
商人「はい。……は、え? 試す? え?」
勇者「いやでもガンナーには風の力があるじゃん。それで腕力補正したとかさあ」
僧侶「まあそれもあるでしょうけれど」
商人「あの」
勇者「商人ちょっとごめん」
ひょい、
商人「ひゃあ!?」
勇者「えっうわ軽っ!! え、びっくりした今、ちょっ……軽! 細! え、怖!」
商人「おろしてくだされ勇者様!」
勇者「あ、ごめん」
商人「びっくりした……」
勇者「俺もびっくりした。こりゃあ……あんなに軽々投げられるわけだ……」
魔法使い「」さわさわ
商人「わ、な、魔法使い殿、何を……」
魔法使い「うわ、この子お腹ない」
商人「ありますよ!?」
魔法使い「痩せ方が怖い……何、何食べたらこうなるの? 何も食べなかったらこうなるの? あんなに軽々投げられるわけだ……」
商人「それほど軽々投げられておりましたか……?」
勇者「商人、一緒に飯食おう」
商人「しかし」
勇者「いいから!」
商人「は、はい」
剣士「俺は部屋に戻って準備しとくから、出来るまで適当に待ってろ」
僧侶「お手伝い致します」
勇者「じゃあ俺たちは吟遊詩人たちに声かけてくるよ」




