51 騎士「海上」
~夜、食堂~
ガヤガヤ
勇者「賑やかだなあ」
商人「大型の船であれば仕様のなきこと。……勇者様、それでその、あ、あの方は……?」
勇者「あの方? ああ、ガンナーのことか?」
商人「はい……ご、ご一緒にあらせられぬのですか」
勇者「ガンナーは多分来ないよ。今部屋にいると思うけど……呼ぼうか?」
商人「い、いえッ! いえいえいえそそそんな勇者様のお手を煩わせるようなことはッ!」
勇者「あー……ああ、なんか鍛冶屋さんと気が合いそうだなあ」
商人「な、なんです?」
勇者「いや、なんでもないよ。……まあなんだ、昼間あんな事があったんだしかなり印象悪いだろうけど、アイツはお前が思ってる程怖い奴じゃないぞ」
商人「べ、別に怖がってなど……」
勇者「そうか?」
商人「……如何な御仁であられるのですか、あの殿方は」
勇者「やけに興味津々だな。やっぱり連れてこようか?」
商人「やめてくださいお願いします死んでしまいます」
勇者「ビビってんじゃん……」
商人「い、いいえ決してそのような、ですからその……と、友として! 勇者様の友として、勇者様のご友人方の子細を把握したく」
勇者「なるほど。予備知識があったほうが仲良くなりやすいだろうしな」
商人「う、む……交友を深めるつもりは。いえ、今後の接触に差し支えなきよう、是非とも、特にかのガンナーと申す危険人物――じゃない、ご友人様についてお聞きしたく」
勇者「どういうやつかって言われても、うーん、一言で言うと天才……万能――いや、超人……かな」
商人「超人ですか」
勇者「見ればわかるだろうけど顔が良くて、勉強には興味がないけど知力はある。大層な家柄のお坊ちゃんなんだけど、でもそれを鼻にかけてなくて、パーティ内で一番強くて、やろうと思えばなんでもできて、口は悪いし無愛想だけど正直者で、一応優しいところもあって悪い奴じゃない。むしろ結構、良い奴――だったり……」
商人「才色兼備、眉目秀麗、完璧超人――とな。いわゆるハイスペック男児なる御仁ですか」
勇者「商人の口からカタカナ言葉が……。……超人ってのはまあそうだけど、完璧って感じはしないかな。寝坊助だったり面倒くさがりだったり駄目なところもあるし。完璧さで言えばどちらかというと剣士の方が言えてるよ」
商人「あの背の高い青髪の?」
勇者「そう。ガンナーの兄貴なんだ。勉強も運動もできるし、ガンナーの次に強い。そのへんの料理人よりも料理がうまくて家庭的。しっかりしてて優しいけど時には厳しい。家族で例えると一家の大黒柱みたいな奴だな」
商人「全然似てませんね。見た目も中身も」
勇者「そう思っていた時期が俺にもあったよ……」
商人「同じ環境で生まれ育ち、血を分けたご兄弟とあらば、是非を問わず似通うのも詮無き事でしょうな」
勇者「だよな……あと、剣士と同い年の吟遊詩人。しっかり者で歌がうまくて、あんまり誰かについての話とか噂話には首を突っ込んでこない。あっさりしてるっていうか、控えめっていうか。あと料理うまいよ」
商人「女子力高いということですね」
勇者「お、おう……」
商人「なんです?」
勇者「いや、よく武士を思わせるような言葉を話してた商人がこの一年で急に現代に追いついたから……」
商人「勇者様は一年前に比べて失言が多くなられましたな」
勇者「ごめん」
商人「町の若い娘たちの話し言葉を小耳に挟み申した。女子力が高い女性とはすなわち『よい女』ということ。町での知識はこの商人、随時取り入れる所存ですとも」フフン
勇者「あ、う、うん。いいんじゃない、背伸びする女の子。ちなみに無理せずに言うと?」
商人「大和撫子」
勇者「うん、そっちのほうがお前らしいよ。なんかちょっと違う気がするけど」
商人「そうですか? どちらのほうがよいですか?」
勇者「商人が楽だと思うほうでいいんじゃないか? どっちの話し方でも商人は商人だから……」
商人「左様にござるか」
勇者「うん」
商人「それと、あれから気にかかっていたのですが、あの僧侶という男は何者です? 妙にガンナー様に強気でしたが」
勇者「強気っていうか……ガンナーの幼馴染なんだよ。騎士と僧侶は物心ついた頃からアイツと一緒にいたから、別にアイツのこと怖くないんだよ」
商人「その二人はご兄妹で?」
勇者「双子だよ。僧侶は大人しいけど結構喋る。騎士は反対に全然喋らなくて、俺もあいつのことはよくわからない。でも二人共気が利くっていうか、洞察力が凄いっていうか。察しがいいんだ」
商人「鋭いということですか」
勇者「僧侶は凄い大人びた奴だから、時々年下だってこと忘れちゃうんだよなあ」
商人「同年代ではなかったのですか」
勇者「商人の一つ上だよ」
商人「勇者様は今十七歳ですよね」
勇者「そうだよ」
商人「あ、では当方は二つ下であるはずなので十五歳ですね。しからば、お三方は十六歳。なるほど」
勇者「いやちょっと今商人が自分の年齢をうろ覚えだったことにビックリしてる」
商人「年齢なんて滅多に確認しませんから」
勇者「……今度誕生日祝ってあげるよ」
商人「否、それには及ばず。誕生日などとうに忘れました」
勇者「どっかの海賊船の船員といい勝負してる」
商人「はあ、そうですか。……それにしても」
勇者「何?」
商人「勇者様の周りにいらっしゃるお仲間は、なんだかとても……ゆ、愉快な方々ですな」
勇者「だろ? お前もなかなか愉快だよ」
~・・・~
商人「では、アッシはこれにて失礼致します」
勇者「ああ、おやすみ。また明日」
商人「はい!」
剣士「お」
商人「うっ」ピタッ
剣士「『うっ』って……えっと確か、商人――だったな」
商人「こ、こ、これはこれは、ガンナー様の兄上殿ではございませんか。こんな夜更けにいったいど、どうなされましたか」
剣士「剣士だ。あと夜更けってほど遅い時間でもないぞ」
商人「そ、そのォ……先刻は弟君や兄上殿、お仲間の皆様方に多大なるご迷惑をお掛け致しました。相済まぬ。この商人、心よりお詫び申し上げまする」
剣士「(武士だ……)」
剣士「……いや、こっちこそガンナーが悪かったな。体の方は大丈夫なのか? あいつ女にも容赦ないから、何処かにアザとか出来てたらすまない」
商人「いえとんでもない! あれは我が不徳の致すところ。未熟さが生んだ自業自得というもの。すべては己の愚かさゆえ。かくなるうえは……」
剣士「お、おう。切腹は止せよ。それからその『兄上殿』っていうのはどうにかならないか。堅苦しいったらない」
商人「兄上様」
剣士「うわ変わってねえ」
商人「ではお兄様」
剣士「お、お前にお兄様と呼ばれる筋合いはない……」
商人「ならば剣士様」
剣士「『様』はよしてくれ」
商人「剣士殿」
剣士「(武士だ……)」
剣士「……別に呼び捨てでも良いんだぞ? 勇者や魔法使いも俺のこと呼び捨てで呼んでるし」
商人「いえそんな、恐れ多い……」
剣士「まあ……なんでもいいけどよ。『様』よりマシになったし。それから商人」
商人「はい」
剣士「語尾に『ござる』とかつけて喋ったりしないのか?」
商人「はい?」




