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4 魔法使い「とある生存者の告白」

セシリカから少し東北に行ったところにあるサブマラは、小さいけれどとても賑やかな村だった。


子供A「あっ! 魔法使いのお姉ちゃんだ!」


子供B「お姉ちゃんおかえり!」


魔法使い「ただいま! ひさしぶりだね。皆この前会ったときより大きくなったんじゃない?」


子供C「へへんっ、勇者の兄ちゃんよりもずっとおっきくなるもんね! 姉ちゃんなんてすぐに追い越すぜ!」


魔法使い「すごい! じゃあたくさん遊んでたくさん寝ないとね!」


子供A「お姉ちゃんオママゴトして遊ぼうよ」


子供B「違うよぉ、おにごっこするんだよ!」


子供C「ヒーローごっこだろ?」


魔法使い「もう、喧嘩しないの。皆仲良く一緒に遊ばないと楽しくないよ?」


子供たち「はぁい」


魔法使い「あ、ごめんね。私先にお母さんたちと会ってくるから、ちょっとだけ待ってて」


子供B「お姉ちゃん早くね!」


魔法使い「うん、すぐ戻ってくるよ!」


~魔法使いの家~


魔法使い「お母さん、お父さん、ただいま!」


魔母「あら魔法使い! おかえりなさい」


魔父「おお、帰ってきたか」


魔母「待ってたのよ。疲れたでしょう、今ココアでも淹れるわ」


魔法使い「ううん。子供たちと一緒に遊ぶ約束してきちゃったから、後でいいよ」


魔母「相変わらず人気者なのねぇ。行ってらっしゃい。暗くなる前に帰ってくるのよ」


魔法使い「わかってるよ」



その後、私はしばらく村の子供たちの遊び相手になり、夕方になると家でお母さんと一緒に夕飯を作り、両親にセシリカでのことをたくさん話した。向こうでも友達はできたし、勇者もすぐ近くにいるのだからあまり心配しないで大丈夫だよ。私はその時、たしかそう言った。今度は勇者も一緒に帰っておいでと、お父さんが言った。


セシリカからの徒歩での帰郷と子供たちとの遊びで疲れていたため、その日は少し早めに眠った。


それからしばらく後、何時ごろだったか詳しい時刻までは確認できなかったけれど、夜中の何時かに寝苦しさを感じて目を覚ました。部屋が異常に暑かった。とにかく喉が渇いていたので水を飲もうと部屋を出たとき、外が妙に騒がしいことに気が付いて、何かあったのかと思い外に出た。


瞬間、頭が真っ白になった。


魔法使い「なに……これ……」


あたり一面が火の海と化していたのだ。


あの賑やかで明るい村が、平和だったはずの村が、燃えていた。


家が、木が、草が、花が、人が――燃えていた。


「あああ、あつい……あついよおおおおお!!」


「いやっ、いやああああ助けてええええ!!」


そこかしこで人間の形をした炎の塊が、悲痛な声をあげながらのたうちまわっている。


燃えている。


男も、女も、老人も、昼間に遊んだ子供たちも。


――恐い。


とにかく早く炎を消さなければ。そう思って魔術で水を出す。だがどれだけ水をかけても炎は一瞬その火力を弱めるだけで、一向に消火ができない。そうしている間に炎はさらに勢いを増し、今まで無事だった民家にも火の手がまわる。


魔法使い「誰かいる……」


燃え盛る炎のなかに一人、人々が苦しむ様子を見て高笑いをあげている、赤髪の男がいた。今この村のなかで燃えていないのは、その男と私だけだ。村をむしばむ炎は男を中心に渦巻いており、彼がこの事態を招いた元凶なのだとすぐに悟った。


炎を撒き散らしながら歩く男はこちらに気が付くと足を止め、その赤髪と対照的な青色の目を向けてきた。村の焼ける音だけがあたりに響いている。


赤髪の男「なんだ、生き残りか?」


男は手の上で火の玉をもてあそびながらゆっくりと歩み寄ってくる。逃げようにも足がすくんで動けなかった。男の手の火が徐々に大きくなっていく。


殺される、と思った。


「魔法使いッ!!」


ぐい、と強く手を引っ張られる。振り返ると真っ青な顔の母がいた。


魔法使い「お――お母さん!?」


魔母「ここにいてはいけません。逃げなさい、魔法使い!」


魔法使い「で、でも村が!」


魔母「逃げるの! せめて、あなただけは!」


魔法使い「まだ、まだ生きてる人がいるかもしれない! 火を消さないと!!」


魔母「あれはただの炎じゃない。私たちの力じゃどうにもできないのよ!」


赤髪の男「お、なんだ。追いかけっこか? いいぜ。お前らで最後みてえだしな、遊んでやるよ」


魔法使い「!」


魔母「魔法使い!」


突然、私の足元に魔法陣が現れた。顔をあげるとお母さんが一言逃げてと言った。


そして。


次の瞬間、僅かな浮遊感とともに景色が揺らぎ、気付くと私は暗い森のなかに立っていた。


~宿屋~


剣士「やっと来たか」


魔法使い「うん。ごめんね遅くなって」


勇者「……あれ? ガンナーと吟遊詩人は?」


剣士「ガンナーはそこで寝てる。吟遊詩人は宿についてすぐに出ていった」


勇者「で、出ていった?」


剣士「ここから少し東に行ったところにある集落に向かうって言ってたぞ。なんでも、調べたいことがあるとかでな」


魔法使い「調べたいことって?」


剣士「さあな、大したことじゃないって誤魔化されたから、それ以上詳しいことは聞いてない。別にそこまで時間のかかることじゃないが、今日中には戻ってこれないってよ。だからクリエントで合流することになってる。無線を渡しておいたから――ああ、お前らにも渡さないとな」


勇者「なんだこれ?」


剣士「今みたいに別行動したり、はぐれたりすることもある。そういうときに連絡が取れなかったら不便だろ? だから国王が一人ひとつずつ用意してくれたんだ。……無線くらい別に珍しいモンでもないはずだが」


勇者「わ、悪かったな田舎者で」


魔法使い「すごい! これでお話できるの? コードないよ?」


剣士「あんまり乱暴に扱うと壊れるから気を付けろよ。……まあ、俺も仕事柄よく使うから、もし故障しても多少は修理できるが」


魔法使い「どうやって使うの?」


剣士「そこのボタンを押したら通信可能な相手の名前がでるから、例えば勇者にかけたかったら勇者の名前を選べばいい。簡単だろ?」


勇者「これって誰にでもかけられるのか?」


剣士「いや、元々は王宮の兵士たちが連絡を取り合うために支給されてるものだから、同じ種類の端末を持ってる相手のナンバーを登録しないと通信できない」


勇者「へ、へえ。よくわからないけど、とりあえずこれがあればどこにいても他の六人と連絡が取れるんだな」


剣士「まあ、故障したりバッテリーが切れたり、魔術なんかで意図的に通信不能にしない限りは」


魔法使い「バッテリー?」


剣士「充電式とか電池式とか、性能がいいやつでは太陽の光に当てるだけで使えるらしいが――どの型でも魔力を注げば補充できるから、魔法使いと勇者は気にしないでいい」


勇者「でも俺、魔法を使えるっていってもほんの少しだぞ? 移動用とあと二つ三つ」


剣士「十分だ。とはいえ、魔力が切れればバッテリーの補充もできないから、そこには気を付けろよ」


魔法使い「ねえ、ガンナーはこんな時間に寝てて、あとで寝れなくなったりしないの?」


剣士「いや、あいつは基本的にいつでもどこでも寝られるやつだからな。元々睡眠時間を多く必要とする性質なんだろうな」


魔法使い「そっか」


剣士「ああ、でもそろそろ夕食でも摂るか?」


勇者「そうだな。昼間はずっと歩いてたから、おなかすいたよ」


魔法使い「私もお腹ペコペコー」


勇者「じゃあ料理できる人ォ」


剣士「……」


魔法使い「……」


剣士「魔法使い」


魔法使い「ゴメーン、私そういうのできないんだ」


勇者「魔法使いにやらせるのは絶対駄目。ちなみに俺も粗末なものしか作れません」


剣士「ダメダメじゃねえかよこのメンバー。吟遊詩人もどってこい」


勇者「ガンナーは?」


ガンナー「剣士が作りゃいいじゃん」ムクッ


魔法使い「うわっいつから起きてたの」


勇者「剣士料理とか一番できなさそうだぞ。普段からいろいろ雑だし」


剣士「俺じゃなくてもいいだろ」


ガンナー「いや、魔法使いが台所でこれまでどんな毒物を生成してきたか、俺は片時も忘れたことはないぞ」


魔法使い「毒物って、ちょっと焦げたりしただけじゃん。大げさだよ」


ガンナー「『ちょっと』? ちょっとじゃねえだろ。なんでクッキーの材料から炭が出来上がるんだよ。食べると眩暈がするクッキーなんて聞いたことないぞ」


剣士「すさまじいな」


魔法使い「あ、あれは偶々だよォ……」


勇者「魔法使い、声震えてる。――で、ガンナーは料理できないのか?」


ガンナー「俺はほら、あれだから……あの、あれだから」


勇者「言葉の引き出し空っぽか」


ガンナー「だから剣士が作れば万事解決なんだって。他に作れるやついないし得意分野だろ」


勇者「えっ」


剣士「おい」


ガンナー「俺がいる時点で隠せねえぜ。ファイトだ兄よ」


剣士「そういやそうだったな。恨むぞ弟よ」


~・・・~


魔法使い「なにこれ……めちゃくちゃ美味しい……剣士むかつく」


剣士「むかつかれても困る」


勇者「こんなにうまいのになんで隠してたんだよ」


剣士「なんか嫌だろ。男なのに料理得意とか、女々しくて」


ガンナー「また腕があがったようで俺は大変満足だがな」


剣士「お前だけはな」


勇者「ところでさ、クリエントに着いたら僧侶たちを捜すってことになってるけど、具体的にどうやって捜していくんだ? 地道に聞き込みとか?」


剣士「そうなるだろうなあ。なにかあいつらとの連絡手段があればいいんだが」


ガンナー「伝書鳩でも飛ばせよ」


剣士「居場所がわからないんだから飛ばしようがないだろ」


ガンナー「なら徒歩で探しにいけやオラ」ゲシ


勇者「いたっ、ちょ、机の下で脚蹴ってくるなよ、っていうか、なんで俺!?」


ガンナー「体力あるだろ」


勇者「そういう問題? 皆で行けばよくね。ちょっと剣士、剣士お前の弟が! お前の弟がいじめる!」


剣士「グッドラック」


魔法使い「でも体力で言うなら剣士が一番だよね」


剣士「」ギク


剣士「や、それは……勇者がこのメンバーの長だし。な?」


勇者「『な?』じゃねぇよ剣士、お前まで裏切る気か!」


剣士「いや裏切ってはねぇよ、俺はいつでも中立だ。だから全員の意見を尊重してだな……」


勇者「俺の意見は聞き入れてもらえないと見た」



挿絵(By みてみん)

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