49 剣士「定期船にて」
~港町~
勇者「け、結構大きい船だな」
僧侶「二ヶ月に一度しか出ませんから、乗客も多いのでしょう」
魔法使い「海賊さんの船とどっちが大きいかな」
吟遊詩人「海賊船と客船だからね。この船は人を運ぶためにあるんだし、そりゃあ、こっちのほうが大きいわよ」
勇者「俺には全部同じに見えるけど」
魔法使い「わかる。なんか広さとか大きさが一定以上になるともうどれも同じに感じるよね。バラバラに見ると尚更比較できない」
勇者「なんかもうわかんないよな」
魔法使い「わかんないよね……」
剣士「お前ら切符なくさないようにしろよ」
勇者「剣士お母さんみたいなこと言う」
魔法使い「お父さんも言いそうだよ」
勇者「皆のお父さん」
魔法使い「おとうさんといっしょ」
勇者「どっかの教育番組とかでありそうだな」
剣士「ガンナーのは俺が預かってるから――おいお前ら何こそこそ話してるんだ」
勇者「別にー」
魔法使い「なんでもないよお父さん」
剣士「は?」
ガンナー「もう前の方乗り始めてるぞ」
僧侶「では、参りましょうか」
魔法使い「定期船とか乗ったことない」
勇者「俺も。どんなだろうな」
船員「切符をお持ちですか」
勇者「あ、はい」
船員「良い旅を」
放送『出航時間が迫っております、定期船をご利用の方は――』
勇者「部屋割は剣士とガンナー、俺と僧侶で、魔法使いたちは三人部屋だ」
ガンナー「四人部屋はなかったのか」
僧侶「そのようですね」
勇者「ま、まあでも部屋は隣だしさ。とりあえず荷物置きに行こうぜ」
剣士「そうだな」
勇者「じゃあ、またあとで」
~通路~
勇者「結構広いもんなんだな。迷いそうだ」
僧侶「地図に船の構造が載っていますので大丈夫ですよ」
勇者「地図とかあったのか」
僧侶「入口近くで配布されていましたので」
勇者「さすが、抜け目無いな」
僧侶「恐縮です」
?「あッ! 貴方は!!」
勇者「あ」
?「お久しぶりです勇者様! お元気そうでなによりです!」
勇者「商人! 久しぶりだな。一年は会ってなかったんじゃないか」
僧侶「勇者さん、こちらの女性は……お知り合いですか?」
勇者「俺の友達の商人だ。商人、こいつは僧侶。一緒に魔王討伐へ向かっている仲間なんだ」
商人「はあ、勇者様のお仲間さんですか。どうもはじめまして」ジロジロ
僧侶「ご紹介に与りました、僧侶と申します」ペコリ
商人「ふうん」
勇者「ところで商人、武闘家とはちゃんと会ってるか? 少し前に家に行ったけど、お前いなかっただろ?」
商人「出来るだけ顔を出すようにはしてるんですけど……やっぱり忙しくてですね。ああでも、流石に誕生日とかは一緒にいますよ!」
僧侶「商人さんは武闘家さんの保護者――という解釈でよろしいのでしょうか」
勇者「まあ、そんなところだな。この船に乗ってるってことは、商人も今まで南大陸にいたのか」
商人「ええ、半月前に西大陸での予定ができたのでこうして定期船が出る日を待っていたんです。今の時期はあんまり行きたくなかったんですがねえ」
勇者「何かあるのか?」
商人「いえ、単なる噂なのですがね、盗賊の奴が今西大陸にいるらしいんです」
勇者「ああ、犬猿の仲だって言ってたな。でも、噂なんだろ?」
商人「火のないところに煙は立たないって言うでしょ。アッシは職業柄、出来ればあいつとは顔を合わせたかないんですよ。でも仕事しないと生きてけませんからね」
勇者「大変だなあ」
ガシ、
勇者「うッ?」
ガンナー「通路のど真ん中で何してんだお前ら、邪魔だぞ」グイッ
勇者「ぐえっ」ドタッ
商人「なっ、何奴!」
ガンナー「あ? 誰だこいつ」
僧侶「勇者さんのご友人の商人さんです」
ガンナー「ああ、なんか時々武闘家が女の商人の話してたな。お前のことだったのか」
商人「よ、寄るな狼藉者! おのれ、勇者様になんたる無礼!」
ガンナー「何こいつ。武士?」
勇者「商人、俺は平気だから。いつものことだし」
商人「それではアッシの気がすみません! そこな男、貴様に決闘を申し込む!」バッ
僧侶「脇差! なりません、こんな狭い通路で決闘など。それから彼は――」
ガンナー「……よし。いいだろう。受けて立つ」
僧侶「ガンナー!」
ガンナー「落ち着け僧侶。要は船に傷をつけず、騒ぎにならないよう静かに、ちゃちゃっと終わらせればいいんだろ」
僧侶「そういう問題では……」
ガンナー「それにしても威勢のいい女だな。悪く言えば犬みたいにキャンキャンうるせえ小娘だ。素手で十分」
勇者「商人、お前……相手が悪いよ」
商人「す、素手だと? 見くびりおって!」
ガンナー「勢いは良いんだなあ、てか初対面でいきなり喧嘩売ってくるとか勢い余りすぎだろ。どこのチンピラだよ」
商人「問答無用! いざ、尋常に勝負!」ダッ
ガンナー「いいだろう。商人って言ったか? 今からお前に――」
商人「隙ありッ!」
ガンナー「――格の違いってのを教えてやるよ」
商人「ま、こ、と、にッ、申し訳ありませんでした」土下座
剣士「何してるんだお前ら。何が起こったんだ今」
魔法使い「いやあ……ガンナーがあの女の子をぶん投げて締め上げたとこからしか見てないから」
商人「まさか貴殿が、あの名高き銃使いのガンナー様とはつゆ知らず、とんだご無礼を。数々の非礼、お詫び申し上げますッ」土下座
勇者「悪名高いの間違いじゃね」
ガンナー「あ?」
勇者「いや何も」
剣士「何だあいつ、武士か? そのうち腹斬って詫びるとか言い出しそうだな」
僧侶「勇者さんのご友人の商人さんです」
吟遊詩人「あの、今そこにいたら突然刀が飛んできたんだけど……」
ガンナー「当たらなかったのか」
吟遊詩人「もう少しで当たるところだったわ」
ガンナー「そうか……」
吟遊詩人「なんでちょっと残念そうなのよ」
ガンナー「投げずに殴ってもよかったんだが、相手女だからなあ。いやしかし、やってみるもんだな。武闘家が前にやってたのを真似したら思ったより吹っ飛んでちょっと面白かった。もう一回やりたい」
商人「お、お慈悲を……!」
勇者「規制かかるぞ」
ガンナー「十秒くらいで終わったから全然平気だ」
魔法使い「四分五十秒の余裕」
~・・・~
勇者「商人はやっぱりよく定期船を使うのか?」
商人「ええ。転送装置より安価に済みますゆえ。勇者様は普段は定期船をご利用されないので?」
勇者「実はそうなんだ。だからどうしていいかわからなくてさ」
商人「あー、まあ案内が入るわけでもないですからねえ。ただ人を荷物とともに運ぶだけにございますからね、この船。業者さん、そのあたり淡々としてるんですよね」
勇者「そうなのか」
商人「食事は朝昼夜の三回、食堂にて。豪勢な食事というほどでもありませぬが、なかなかよいものです。しかし飲食物を持ち込むことができて、個室に小さな炊事場もありますので、ご自身での調理も可能です」
勇者「(ガンナーは絶対剣士に作らせるな)」
商人「ここで再会したもなにかの縁。夕餉にご一緒しませんか」
勇者「え? あ、ああそうだな」
商人「やった。……あ、えっとそれでですね、狭いですが浴室は各個室に設置されてます。甲板や展望台は開放されているので好きに出入りできます。説明できることといえばこの程度になりますが、もしなにか気になることがあれば、アッシは部屋にいますので。不在であれば甲板に出ているでしょう」
勇者「うん、ありがとう」
商人「では、また夜に!」




