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44 魔法使い「ごめんね」

ガンナー「……」


魔法使い「……」


ガンナー「……チッ」


ガンナー「――イライラする」


魔法使い「え……?」


ガンナー「ウゼーって言った」


魔法使い「ガンナー? 何か……怒ってる……?」


ガンナー「怒ってねえ。イラついてんだ」


魔法使い「ど、どう違うの」


ガンナー「お前何なんだよ。さっきッからうじうじうじうじ。あー、うざってェ」


魔法使い「……」


ガンナー「……サブマラが滅んだのはお前のせいだとかフラマに言われたらしいな」


魔法使い「!」


ガンナー「……まさか本気でそう思ってんのか? 馬ッ鹿じゃねえの」


魔法使い「で、でも私があのまま村に残って水の魔法を使っていれば――」


ガンナー「そしたらお前も村の奴らと一緒に死んでただろうな。翌朝には焼け跡の一部だ。いや、跡形もなくなってたんだったか」


魔法使い「そんな言い方――!」


ガンナー「事実だろ」


魔法使い「ッ……」


ガンナー「お前は魔王の刺客が村を襲いに来ることなんて知らなかった。だから事前に村人を非難させることもできなかったし、お前が気付いたときには村は燃え盛ってたんだろ? だったらその時点でお前に出来ることは何もなかったろ」


魔法使い「そう、だけど、でも……まだ生きてる人がいた」


ガンナー「お前の力ではフラマの炎を止めることはできなかった」


魔法使い「もっと限界まで魔力を注げば消せたかもしれない」


ガンナー「消せなかっただろ」


魔法使い「火が水を浴びても消えないなんておかしい。本来なら消えていたはず」


ガンナー「消えなかったんだろ」


魔法使い「お母さんが私を逃がしたから試すことができなかった。あのまま村で魔法を使っていればなんとかなったかもしれない。お母さんもお父さんも、他の人たちだって助かったかもしれない」


ガンナー「俺はお前が残っていれば村が助かったとは思わないね。お前一人が炎の海で消火活動に勤しんでも結果は変わんねえんだよ。そもそもそんなこと、今更気にしたところで意味はない。過ぎたことだ。くだらねえことでいちいち悩んでんじゃねえ」


魔法使い「く、くだらなくなんかない……」


ガンナー「くだらねえよ。誰かが食っちまったプリンを返せって泣き喚いてるガキみてえだ。それに前にも言ったろ、俺はお前らの故郷のことなんてどうだっていい」


魔法使い「……どうでもいいんだったら、ほっといてよ」


ガンナー「馬鹿女が。お前の耳は飾りか? それとも脳みそが腐ってんのか」


魔法使い「な、なんでそんなこと言われなきゃ――」


ガンナー「どうでもいいのは滅んだ村のことであって、お前のことがどうでもいいわけじゃない」


魔法使い「え――」


ガンナー「結局、お前はどうしたいんだよ? 『慰めてほしい』『死んでしまいたい』『放っておいてほしい』――さあ、お前の中で最も強い気持ちはこの中のどれだ」


魔法使い「……」


魔法使い「……村の皆と一緒に、死んだほうがましだった」ボソ


ガンナー「――無様だな」


魔法使い「だって、わかってるよ。今更後悔したってどうにもならないって。で、でも……でも、頭の中でいろんな、悲しいのとか悔しいのとか、気持ちがぐちゃぐちゃになって、こんなことになるんだったら、こんなに苦しいなら――い、いっそ消えたほうが、きっと、楽だよ」



ガンナー「そんなに死にたいんだったら、殺してやるよ」



ガンナーは大股で魔法使いに歩み寄り、乱暴にその細い腕を掴んだ。


そしてそのまま自分の方へぐい、と引き寄せ、鼻の先が触れそうになるほど顔を近付けて彼女の目をじっと睨み、


ガンナー「――うじうじ塞ぎ込んでるお前なんて大ッ嫌いだね」


魔法使い「!」


吐き捨てるようにそう言った。


そして何処からか短剣を取り出すと魔法使いを突き飛ばし、床に手をついて倒れ込んだ彼女が何かをする隙も与えずに今度はその髪を、やはり乱暴に掴んだ。


それからその手に持った短剣でオレンジの長い髪を無理矢理ざくりとデタラメな長さに切り裂いた。


魔法使い「あ――!」


切り取った髪を更に短く、千切るように切っていく。十数年の時間をかけてゆっくり、丁寧に伸ばしてきた髪が――ほんの数秒であっさりと、目の前のこの小柄な少年の手によってなかったことにされた。


――これまでの自分の全てが無に返された気分になった。


ガンナーは細かくなった髪を、開いたゴミ袋の中にばさばさとばら撒くように捨てる。


ガンナー「――これは、ついさっきまでのお前だ」


力任せに刻まれた髪の入った袋を魔法使いの方へ投げる。


魔法使い「ガ、ガンナー……」


ガンナー「悪いがな、俺は優しい奴じゃないんだ。でもそんなことはもう知ってるだろ? まだサブマラのことで思い悩む様なら、俺はもうお前のことなんて知らねえ。……そのままじゃみっともねえからあとは自分で切って髪整えろ」


魔法使い「……」


魔法使いはただ呆然と、袋の中の、今死んだ「ついさっきまでの自分」を見つめていた。


~・・・~


魔法使い「えっと……どう、かな」


勇者「ど、どうって――似合う、けど。どうしたんだよ、その髪……」


魔法使い「ガンナーにね、言われたの。過ぎたことでいちいち悩むなって」


勇者「ガンナーが?」


魔法使い「ねえ、勇者……私、本当に、気にしなくていいのかな?」


勇者「……いいよ。魔法使いは悪くないんだ。何も気にしないでいい」


魔法使い「……多分、すぐには無理だけど」


勇者「ゆっくりでいい。俺はちゃんと待ってるから」


魔法使い「……」


勇者「ありきたりな言葉だけどさ、もし、その事で大勢の人が魔法使いを責めたとしても、少なくとも俺は、ずっと魔法使いの味方だよ。俺なんかじゃ頼りないと思うけど、でも、俺は何があっても絶対に、お前を見捨てたりしないから」


勇者「俺が、魔法使いを守るから」


魔法使い「……グスッ」


勇者「」ぎょっ、


魔法使い「う……」ポロポロ


勇者「わ、うわ、な、泣くなよ。え、えーと、あの、その……なあ、魔法使い――」


勇者「ま――また、クッキー作ってよ」


魔法使い「え……?」


勇者「あの、前に作ってくれた奴、本当に美味しかったからさ。また作ってよ。もう食べられない、ってくらいたくさん」


魔法使い「でも……私料理下手だよ。失敗しちゃうかも……」


勇者「いいよ。それでも」


魔法使い「……いいの?」


勇者「うん。失敗してもいいよ。失敗したって成功したって、ガンナーや剣士や、僧侶たちには一枚だってやるもんか。俺――一人で全部食べるから」


魔法使い「……」


勇者「絶対だ。約束するよ」


魔法使い「……うん。約束」


魔法使い「ありがとう」


~翌朝~


剣士「……」


剣士「ん……あれ、俺――」


僧侶「おや、お目覚めですか」


剣士「僧侶?」


僧侶「まだ安静にしててください。寝起きである事を差し引いても、まだ頭がぼうっとするでしょう」


剣士「……何があったんだ」


僧侶「昨日、刺客に奇襲をかけられました。剣士さんは毒ガスの充満した部屋に閉じ込められていたのです」


剣士「な、なに? おい、他の奴らは」


僧侶「……皆さん、大した怪我はしておられませんよ」


剣士「そうか」


僧侶「それからですね、実を言うと――今日の十三時に、風の刺客との決闘があります」


剣士「そ――そうなのか?」


僧侶「パーティメンバーはまだ決まっていません。昨日は、その――色々ありましたので」


剣士「これからその話し合いか」


僧侶「いえ、時間がありませんので、おそらく話し合いは道中になるかと。まことに残念ではございますが、剣士さんにはこのまま宿で休んで――」


剣士「いや、俺も行く。戦力になれるかどうかは……わからないが」


僧侶「……わかりました。ただし、少しでも気分が悪くなったら無理をせず、すぐに私に声をかけることを約束してください」


剣士「わかった」


ガチャ、


魔法使い「あ、剣士起きたの?」


剣士「えっ、うお、短ッ! 誰かと思った。お前髪なくなってんじゃねえか」


魔法使い「なんかその言い方ヤダ! なくなったんじゃなくて切っただけだよ」


剣士「いや……最後見たときからあまりにも違いすぎて……」


魔法使い「ううん……まあ、いいか。皆ぁ、剣士起きたよー!」


僧侶「……やはり、驚きますよね」


剣士「まあなあ」


僧侶「――訊かれないのですね。彼女が何故ああなったのか」


剣士「……『色々あった』んだろ?」


僧侶「……はい」



挿絵(By みてみん)

髪は女の命です。

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