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43 勇者「オレンジ色の」

勇者「僧侶、剣士の容態は……」


僧侶「体内の毒素の浄化は完了しました。顔色もだいぶ良くなっています。まだしばらくは目を覚まさないでしょうけれど、明日の朝か、遅くともお昼頃にはすっかり回復しているはずです」


勇者「そうか……よかった」ホッ


ガンナー「――とも言ってらんねえぜ。今の状況」


勇者「え?」


僧侶「どういうことです?」


ガンナー「ベッドの上に手紙が置いてあった。ビエントからだ」ピラッ、



手紙「明日十三時、一週間前の場所」



勇者「あ、明日――?」


僧侶「えらく急ですね。前日に奇襲をしかけて戦力を削ろうという魂胆でしょうか」


勇者「……」オド


ガンナー「明日のことは明日に考えろ。今は――勇者、さっき俺たちが宿にいる間そっちでフラマに何をされた」


勇者「え――?」


ガンナー「魔法使いに何があったって聞いてんだよ」チラ



魔法使い「……」


吟遊詩人「魔法使い、大丈夫? 具合でも悪いの?」


魔法使い「あ――だ、大丈夫。ちょっと疲れてるだけ。ほら、なんか、色々あったから……その」


吟遊詩人「そう……? 無理しちゃ駄目よ? ゆっくり休んでていいから」


魔法使い「……うん」



ガンナー「ずっとあの調子だぜ? 何かあったって思うのが普通だろ」


勇者「それは……」


僧侶「私もお聞きしたいです」


勇者「……」


騎士「フラマ」


僧侶「え?」


騎士「フラマが魔法使いにひどいことを言った。……それだけ」


ガンナー「地雷?」


勇者「――サブマラが滅んだのは、魔法使いのせいだって言い出したんだ」


ガンナー「はあ?」


僧侶「それは――どういう意味ですか? サブマラの村を滅ぼしたのは魔王側の勝手です。魔法使いさんはその被害にあった村の住人というだけのこと。何も責任はないでしょう」


勇者「あの日、魔法使いがサブマラに帰っていたことは知ってるよな? フラマが村を襲ったのはその日の夜。村の皆が寝静まった後のことだ。サブマラはフラマが持つ炎の能力で全てを灰に変えられた。魔法使いはセシリカの国王が知るほど優秀な魔術師だ。いろいろな属性の魔術を扱える。それで、そのなかには水属性の魔法もあった。魔法使いは国王から青い石をもらう前から水の魔法が使えたんだ」


僧侶「魔法使いさんが水の魔法を行使すれば村は助かったかもしれないのに、彼女が逃げたからサブマラは滅んだ――ということですか?」


勇者「もちろん、魔法使い自身も必死で炎を止めようとした。でも、フラマの魔力が強すぎるのか、どれだけ水をかけても火は消えない。そのときにフラマが魔法使いに気付いて、でも、あいつはなんとか炎に囲まれたサブマラから生きて逃げ出せたんだ」


僧侶「そこをフラマさんに指摘された――と」


ガンナー「つまり魔法使いはサブマラの焼け跡を見たときからずっと、自分があのとき逃げなければ、って風に責任感じてんのか? 他の奴に打ち明けたくても、もう終わってしまったことだし、責められるのが怖くて何も言えなかった。なのにフラマからその事を仲間の前――しかも勇者の前でそれをバラされて、塞ぎ込んでるってことか」


勇者「……ああ」


ガンナー「へえ」


僧侶「魔法使いさんは何も悪くないじゃないですか」


ガンナー「勇者、お前はどう思ってるんだ」


勇者「どうも何も、僧侶の言う通り魔法使いは何も悪くない。そんなのは屁理屈だし、悪いのは全部フラマだ」


ガンナー「まあなあ……」チラ


魔法使い「!」ビクッ


ガンナー「……」


勇者「と、とりあえずさ、あの――も、もうすぐ日が暮れるし、剣士もまだ目を覚まさないだろうから、今日の夕飯は俺たちでなんとかしよう。ばたばたしてて皆おなかすいただろ? 俺……買い出し行ってくる」


僧侶「ご一緒します」


ガンナー「今日夕飯パス」


勇者「ひでえな……行こう、僧侶」


僧侶「はい」


ガンナー「……」


ガンナー「……ヘタレめ」ボソ


~しばらく後~


吟遊詩人「じゃあ今日の夕飯は私が作るわね」


勇者「あ――俺何か手伝うよ」


吟遊詩人「ありがとう。……でもいいの?」


勇者「え?」


吟遊詩人「魔法使いの傍にいなくて。心配なんでしょ?」


勇者「それは、そう、だけど……なんて声かけていいのか、わからないから」


吟遊詩人「……言葉なんていらないんじゃないかしら」


勇者「え?」


吟遊詩人「うまく言えないなら何も言えなくてもいいのよ。無理にかっこつけたことなんて言わなくていい。勇者は勇者の言葉で、あなたなりにあの子を慰めてあげればいいじゃない。何があったのか、私は詳しいことは何も聞いていないけど、言葉が出ないならいっそ何も言わずに、そっと寄り添ってあげるのもいいと思うけど?」


騎士「……人は言葉がないと感情が伝わらない。しかし沈黙もまた、一種の気遣い」


僧侶「吟遊詩人さん、魔法使いさんはまだ部屋に?」


吟遊詩人「ええ、さっきガンナーも部屋から出てきたし。一応剣士がいるけど……実質、魔法使いは今一人きりみたいなものね」


僧侶「――だそうですよ。勇者さん」


勇者「……う、うん」


~部屋の前~


勇者「……」


コンコン、


勇者「あ……魔法使い?」


「……勇者?」


勇者「うん。あのさ……入っていい?」


「え、あ――ち、ちょっと待って!」


勇者「え……どうかしたのか?」


「あ、いや、その……うん、もういいよ」


勇者「……」


ガチャ、


キィ……


蝶番が軋む音が嫌に大きく響いた。ゆっくりと扉が開き、薄い木の板一枚で隔てられた向こう側が見えてくる。その瞬間、視界に飛び込んできた光景に思わず目を見張った。


勇者「魔法使い――?」


部屋の奥に彼女はいた。まだあどけなさの残る大きな青い瞳。手入れの行き届いた橙色の髪はいつも彼女の笑顔をより明るいものに見せている。すっかり見慣れたはずの容姿。


しかし、勇者が最後に見た魔法使いの姿と、今の彼女の姿には決定的に違っている部分があった。


後頭部のあたりで一つにくくられているはずの彼女の長い髪が、首元のあたりまでばっさりと切り落とされていたのだ。




挿絵(By みてみん)

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