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42 ガンナー「とんでもねえサプライズだ」

吟遊詩人「あら魔法使い、勇者たちは一緒じゃないの?」


魔法使い「うん、勇者はガンナーたちと一緒に外の様子を見に行ったよ。すぐ戻ってくるってさ」


吟遊詩人「なにかあったの?」


魔法使い「風が外を歩いてるのが見えたんだってさ」


吟遊詩人「そう?」


騎士「……」スッ、


吟遊詩人「騎士?」


騎士「あれ」


魔法使い「え? あ……!」


~外~


ガンナー「いねえじゃん」


勇者「帰ったのか? なんだ、結局風に詳しい事聞けなかったな」


ガンナー「さっきの一週間後の話か」


勇者「そう。何があるのかわかんないと安心できないだろ」


僧侶「もう少しこのあたりを探索して行きますか?」


勇者「そうだなあ。まだ近くにいるかもしれないし、そうしよう。あ、でもすぐ戻ってくるって言って出てきたし、一度魔法使いに連絡――」


ガンナー「……」


僧侶「勇者さん? どうかなさいましたか」


勇者「なんか……嫌な予感がする」


僧侶「え――?」


ヴー、ヴー、


勇者「あ、無線……」ピッ


魔法使い『勇者!!』


勇者「ま、魔法使い? どうしたんだそんな大きい声出し――」


魔法使い『勇者! 早く戻ってきて! 大変なの――きゃあっ!!』


勇者「魔法使い!? お、おい、どうしたんだよ!」


男の声『大変なのぉ、早く戻ってきてぇー、急がないとぉ、お仲間が大変よー?』


勇者「だ、誰だ! 魔法使いをどうした!!」


男の声『さぁて、問題。俺は誰でしょうか? ヒントは背が高くて赤い髪のとっても強い色男でえす』


ガンナー「その声――フラマか。おい勇者、モタモタすんな。もどるぞ」


勇者「あ、おう……おいフラマ! 魔法使いに――俺の仲間に何かしたら許さないぞ!!」


ガンナー「宿まで転移する。捕まってろ」




ドサッ


魔法使い「うぐっ……」


吟遊詩人「魔法使い!」


魔法使い「だ、大丈夫……」


騎士「……」


フラマ「『俺の仲間に何かしたら許さないぞ!』だってよ。……はッ、ヘタレに何ができるんだか」


魔法使い「ゆ――勇者を馬鹿にしないで! 力で何かを壊すことしかできないアンタなんかより、勇者はずっと強いんだから!」


フラマ「……ほォ? そいつァおもしれえ。だったら見せてもらおうじゃねえか、その勇者様の強さってモンを」


勇者「皆、大丈夫か!」


魔法使い「勇者っ!」


フラマ「救世主のお出ましか。よかったな、王子様が助けに来てくれて」


勇者「魔法使い、怪我は……」


魔法使い「平気。掠り傷だから」


ガンナー「フラマ、何故お前がここにいるんだ」


フラマ「いくらガキでも『奇襲』って言葉の意味くらいは分かるだろ。キ・シュ・ウ」


ガンナー「……」


フラマ「しッかし、つくづく思うがアグアといいアルボルといい、なんでこんなガキどもに――なあ?」


フラマがチラリと勇者を見る。勇者は魔法使いを自分の後ろに隠した。


勇者「なんでそんな事言うんだ。アグアもアルボルも、お前の仲間じゃなかったのか」


フラマ「は? 俺そんなこと一ッ言も言った覚えねえんだけど。あいつらが仲間ァ? どんなジョークだよ?」


勇者「な――」


フラマ「……ところでよ、勇者。お前スゲー弱いって聞いてたけど、仮にもアグアとアルボルを倒したんだろ? トドメをさしたはいつもお前だったって聞いてるぜ。それってつまりは身内ネタで弱いって言われてるだけでさあ――」


フラマ「やっぱり、そこそこ強いってことだよな?」


――殺気。


勇者の表情がやや強ばる。


剣を交わす前から圧倒的な力の差を悟ったか。あるいは単純に、目の前の青年の態度に緊張したのか。


それは勇者本人にも分からないようだった。


ガンナー「……騎士、剣士はどうした」


騎士「……。あ――」


僧侶「たしか剣士さんは、二階の個室で一人残って――」


騎士「この騒ぎに気が付かないなんてことはない」


勇者「――まさか」


ガンナー「僧侶ッ!」


僧侶「はい!」


二人は同時に駆け出し、宿に駆け込んでいった。


宿の一階ロビーでは白髪交じりで小太りの男――宿の主人――がカウンターの陰に隠れるようにしながら不安そうに外を覗いていた。


剣士がいるはずの客室は廊下の突き当たりにあり、どたばたと慌ただしく部屋の前に辿り着いたガンナーと僧侶は僅かに狼狽えた。


僧侶「ドアノブが外されて――おそらく、剣士さんは中に閉じ込められています」


僧侶「剣士さん、剣士さんご無事ですか! 返事をしてください!」ドンドン


部屋からの返事はない。


ガンナー「退けッ」


じれったくなったのかガンナーが僧侶を押しのけ扉の前に立つ。そしてそっと片足をあげたかと思うと、次の瞬間に派手な破壊音が響いた。


蹴破った扉の向こうには紫色の気体の充満した部屋があった。僅か一メートル先も見えないような濃い靄。廊下に洩れてくるそれが鼻腔を掠め、思わず服の袖で鼻と口を抑えた。


不吉な色をまとったもやもやとした気体。何処かで嗅いだことのあるような独特の嫌な臭い。


――毒ガスだ。


ガンナー「……毒だ」


僧侶「では、ここは私が」


僧侶は紫の毒の靄が充満した部屋の前に立つと、聖杖でトンと床を突いた。すると、僧侶の白の石が光り、次の瞬間、聖杖から光の輪が広がり、一瞬で視界がクリアになった。大気中の毒が浄化されたのだ。


石を持つことによって覚醒した、僧職者たる彼の潜在能力だった。


部屋に備え付けられていた机と横倒しになった椅子。その傍にぐったりと、力なく倒れ伏す剣士。


すぐさま駆けつけ、うつ伏せになっていた体を仰向けに変える。顔は血の気がなく真っ青だった。


窓の近くに瓶が転がっており、その周辺が濡れていた。液が大気中の酸素だかに反応してガスが発生するタイプの毒らしく、今も尚、床のシミから紫の気体が発生していた。


僧侶「……ガスを多く吸っていますが、すぐに解毒剤を飲めば命に別状はありません。遅くとも明日の昼頃には――」


ふわりと風が吹き、何かきらきらした物が二人の間を過ぎった。


口の中に入り込んだソレは僅かに、炭酸水を飲んだ時のような刺激と、苦いのとすっぱいのとが混ざったような味を舌先に伝えた。


顔を見合わせ、直後ハッとして剣士を連れて部屋を出ようとしたが、遅かった。


手足が痺れ、無理に立ち上がろうとした僧侶が床に倒れる。ガンナーもその場に片膝をついた。痺れがじわじわと強くなり、痺れはどんどん体を蝕んでいく。手足は石になったかのように固まり、動かすことができなかった。


きい、と音を立てながら窓が開いた。


そこにいたのはビエントだった。右手の手袋越しに持つ、痺れ薬の入っていたであろう小瓶を部屋の床に放り投げ、剣に持ち替えてこちらを見る。おそらく誰かが部屋に来るのを窓の外でずっと待っていたのだ。


――まんまと罠にかかったということか。


ビエントは窓から室内に入り、おそらく風の能力で空気の流れを操り、粉末状の薬を自分に近付けないよう操作しているのだろう、平然とした様子でこちらに歩み寄ってきた。


武器を取ろうにも体に力が入らない。手が動かない。


その時、一人分の慌ただしい足音が部屋に辿りついた。


吟遊詩人「ガンナー! 僧侶!」


吟遊詩人が手に持った木の枝をビエントに向かって投げる。


少し力を込めて握れば折れてしまいそうな細い枝が、頑丈そうな木の幹に代わりながらめきめきと音をたてて伸び、ビエントの腕に柔軟に巻き付く。その木の一部が別方向に伸びていき、窓枠に張り付いた。


そして吟遊詩人はもう片方の手に握っていた青色の錠剤の薬を二つ、ガンナーに向かって投げた。


ガンナーはそのうちの一つを口で受け止め噛み砕き、すぐ後にもう一つを動かなかったはずの手でキャッチし、僧侶の口に押し込んだ。


それはあらゆる状態異常を治癒する、即効性の万能薬だった。


いや、大抵の薬は服用した傍から効いてくるのだが、それでもこの薬は特に回復が早いのだ。


僧侶が再び聖杖で床を突き、空間をクリアな状態に還す。


ビエントは小さく舌打ちをすると自身の腕に絡みついていた木を左手に召喚させた剣で切断し、窓から外へ飛び出していった。




挿絵(By みてみん)

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