41 騎士「あまいもの」
魔法使い「」コソ
キィ…
魔法使い「……」ジー
勇者「うおっびっくりした」ビクッ
剣士「どうした魔法使い」
ガンナー「何してんの。覗き?」
魔法使い「……甘い物好き?」
勇者「え、誰?」
魔法使い「みんな」
ガンナー「普通」
剣士「普通」
勇者「『普通』って何だよ……俺は好きだよ。僧侶は?」
僧侶「甘い物ですか、嫌いということはないです」
勇者「で、どうしたんだ急に」
魔法使い「吟遊詩人に教えてもらいながらクッキーを作りました」
魔法使い:料理がちょっとアレ。
剣士「……そうなのか」
ガンナー「……がんばったな」
僧侶「……じつにかていてきでよいとおもいます」
勇者「……おー」
魔法使い「お、およびじゃない……」
勇者「い、いや決してそんなことは……」
ガンナー「勇者、GO」
勇者「えっ」
ガンナー「時間稼いでこい。大丈夫審議するだけだ」
勇者「お、おう」
僧侶「魔法使いさんといえば……この前台所で魔物のようなものを錬金していませんでしたか」コソコソ
剣士「どうするちょっと回避できそうにないぞ」コソコソ
ガンナー「だが味見くらいはしただろ」コソコソ
剣士「そもそも、料理が下手と言っても魔物の錬金は極稀にしかできない代物だ」コソコソ
ガンナー「基本ちょっと味が冒険してるか色が食べ物の色じゃないだけだよな」コソコソ
僧侶「今回は吟遊詩人さんに教えてもらいながら作ったと言っていましたし……」コソコソ
ガンナー「多少味と見た目がおかしいかもしれないが劇物ではないと」コソコソ
剣士「おかしくても『普通の人がちょっと失敗した』程度だ。体に害はないだろう」コソコソ
勇者「」オロオロ
ガンナー「……勇者の時間稼ぎもそろそろ限界みたいだし、そろそろ行くか」
~・・・~
吟遊詩人「あら、皆ちゃんと来たのね。今丁度お茶が入ったところよ。あと心配しなくても味見はしたから大丈夫よ」
騎士「平気」
勇者「うん……」
魔法使い「ちょっと作りすぎちゃったから、いっぱい食べてね!」
勇者「(その真っ白な笑顔が後ろめたい……)」
僧侶「(純真無垢……)」
剣士「(腹括るしかないな)」
ガンナー「勇者、ゴー」
勇者「えっ」
ガンナー「幼馴染の手作りだぞ。まず毒見は勇者から。ほら」
剣士「そうだな、きっと魔法使いもそれを望んでいる。ほら」
勇者「お前ら初めに食いたくないだけだろ」
僧侶「勇者さん」
勇者「僧侶……」
僧侶「ファイトです」グッ
勇者「」
勇者「くそ……恨むぞ、お前ら」
パク
勇者「……」
勇者「……あれ、意外と」
剣士「本当か?」
勇者「うん。美味しいよ」
魔法使い「よかったぁ」
剣士「……ああ、確かに美味いな」
僧侶「形は少々不格好ですが美味しいです」
ガンナー「あ、微妙」
勇者「ガンナー手厳しい……」
吟遊詩人「もう……だから大丈夫って言ったでしょ」
~・・・~
勇者「今日は……夕飯いらないな、もう」
剣士「だな」
僧侶「結局ガンナーはあまり食べてませんでした」
ガンナー「ガキじゃねえんだから口に入れて良い物と悪い物の区別ぐらいつく」
勇者「ひっでえコイツ」
ガンナー「俺あいつが作ったプリン食ったことあるけど口に含んだ瞬間舌痺れて結局吐き出したわ」
剣士「消毒液かよ」
僧侶「魔法使いさんの料理は口に入れてはいけない物ですか……」
ガンナー「それを口に入れた勇者が酷い目にあったところを何度も見てきたからな」
僧侶「酷い目……とは」
ガンナー「嘔吐、下痢、頭痛、貧血、風邪、目眩、気絶、その他症状のレパートリーはたくさん」
僧侶「……」
剣士「……」
剣士「……勇者、お前本当に『勇者』だな……よくがんばった」
僧侶「勇者さん、そのような試練を何度も受けてきたとは……尊敬します」
ガンナー「本当なあ……お前結構すげえわ」
勇者「や、やめろよその哀れみに満ちた目……」
僧侶「案外丈夫な身体を持っている人だと思っていましたが、裏にそんな努力があったのですね」
勇者「僧侶なんか今日若干発言が黒くないか」
ガンナー「毒素摂取したからその分毒吐くようになってるんだろ」
勇者「なるほど」
剣士「まあでも確かに、勇者が体調不良起こしたとかはあんまり聞かないよな。免疫ついてたからなのか」
ガンナー「毒を以て毒を制する?」
勇者「魔法使い酷い言われ様!!」
魔法使い「呼んだ?」ひょこっ
勇者「なんでもない!」
ガンナー「アルボルことデコ石と戦ってからそろそろ一週間か」
勇者「あー、そういえば、もうそんなに経つのか。結局あいつらからは音沙汰なしだな」
魔法使い「どうしたの急に」
ガンナー「いや、なんか、風が一週間後になんかあんぜみたいな予告してたから」
勇者「ん?」
魔法使い「ん?」
ガンナー「勇者たちがデコ石と戦ってる間、俺散歩行っただろ」
魔法使い「あー行ったね」
勇者「俺らが必死で頑張ってる間にお前って奴は……」
ガンナー「そしたら偶々風と鉢合わせて、お互い暇だったからしばらく世間話してたんだけどよ、去り際に『一週間後を楽しみにしておけ』って」
勇者「謎だ」
ガンナー「何があんのかは知らねえけど、何かあるらしい」
魔法使い「うわあ、なんか怖い」
ガンナー「ほら勇者、今こそ言ってやれって。『何があっても俺が君を守るから』とかって超恥ずかしい陳腐な台詞言ってやれって」
勇者「はっ!?」
魔法使い「ガンナーが言うとこれ以上ない安心感があるけど、勇者が言ってもなんか……い、いや十分嬉しいけどね?」
勇者「何そのとってつけたようなフォロー……」
ガンナー「大丈夫だ魔法使い。お前には俺がついている。何があっても――俺がお前を守ってやる」キラキラ
魔法使い「か、かっこいい……」
勇者「何その若干演技した感じの表情! 何その意識されたイケボ! 何そのキラキラエフェクト! どこかの王子様かお前は!」
魔法使い「イケメンの有効活用だね。十点!」
勇者「無駄遣いだろ……でも確かに安心感が半端ないな。悔しいけど十点」
ガンナー「点数式かよ。なんだこれ」
剣士「何騒いでんだお前ら」
~宿のロビー~
勇者「……ん? なあ、ガンナー」
ガンナー「あ?」
勇者「あれって風とフラマじゃないか?」ユビサシ
ガンナー「……おー、そうだな」
魔法使い「何処行くんだろ」
ガンナー「デコ石みたく買い食いでもするんじゃね」
勇者「まさか何かよからぬことをしにきたんじゃ……」
僧侶「その可能性もないとは言い切れませんね」
勇者「吟遊詩人と騎士は?」
僧侶「二人で台所の方へ行きましたよ。おそらく騎士がお腹を空かせたのでしょう」
勇者「剣士は?」
魔法使い「部屋でうんうん唸りながら夕飯のメニュー考えてるよ」
勇者「じゃああいつはそっとしといて、俺たち三人で行ってみよう。魔法使いは待っててくれ。何か悪さをしに来たんだとしても流石の俺らのすぐ目の前では……」
ガンナー「しそうだけどな」
僧侶「なきにしもあらず」
勇者「ま、まあ……その時はその時ってことで……あの……」
魔法使い「あーうん、行ってらっしゃい」
勇者「すぐ戻ってくるよ」




