37 剣士「暇人かよ」
~アロネモ、宿~
僧侶「傷薬を頂きました」
勇者「どこで?」
僧侶「薬屋さんが是非使ってみてくれと……」
勇者「それ信用して大丈夫なやつ?」
僧侶「ご心配なさらず。遠征でこのあたりに来ていた教会の者ですので」
勇者「へえ……」
僧侶「飲み薬です」
勇者「に、苦いんじゃないか?」
僧侶「良薬は口に苦し。ですよ、勇者さん」
勇者「うう……」
僧侶「甘いそうです」
勇者「えっ」
勇者「か、変わってるな」
僧侶「傷の回復は勿論の事、疲労回復、魔力回復、状態異常の正常化などにも効果があるそうです」
勇者「なにそれすごい」
僧侶「ただこれは完成品ではなく試作品ですので、もしかすると副作用があるかもしれないと」
勇者「なにそれこわい」
僧侶「頭痛がするとかその程度だと思いますが」
勇者「でもアルボルとの戦いからちゃんと休まずにアロネモまで移動してきたから正直今すごい疲れてる」
僧侶「飲んでみます?」
勇者「実験体みたいだなあ。というかそんな凄いアイテムを手に入れてすぐ使ってしまう事に抵抗がある」
僧侶「長期間の保存は利かないそうです。あくまで試作品ですから」
勇者「じゃあ今使うしかないのか」
僧侶「七人で分けましょう」
勇者「そうだな。皆も疲れてるだろうし」
僧侶「ガンナーと魔法使いさんは戦ってませんけどね」
勇者「まあ中途半端に余っても保存できないんだろ。それに疲労回復と魔力回復の効果もあるなら無駄って事もないよ」
剣士「甘っ」
勇者「うわ甘っ」
ガンナー「予想以上に甘っ」
勇者「たしかに甘いとは聞いてたけど……本当に甘いな」
ガンナー「頭痛くなってくる甘さだわ。流石の俺でもこれは無理だわ」
剣士「色々回復してる感じはするがしかし甘い」
魔法使い「一瓶全部一人で飲んだら胸焼け起こしそうだね」
僧侶「おっと頭痛と胸焼けが」
ガンナー「回復薬を飲んだはずなのにな」
騎士「……」
吟遊詩人「原液で飲んでよかったのか不安になるわね……」
勇者「水で薄めた方が良かった気がする」
僧侶「そのまま飲んで構わないと聞かされています」
ガンナー「木に塗ったらカブトムシとか寄ってきそうだな」
勇者「アリも寄ってきそうだな」
僧侶「副作用はこの胸焼けで十分ですね」
剣士「まあ、そういうのには……個人差とかがあるんじゃないか」
魔法使い「甘いだけであんまりおいしくない……」
吟遊詩人「ま、まあ薬だもの。それは仕方ないわよ」
騎士「後味が苦い」
魔法使い「わかる」
勇者「甘すぎてちょっと引いたわ」
~・・・~
勇者「見回り係を決めるジャンケンで負けた」
剣士「待て、俺は別に負けてないぞ」
ガンナー「俺と剣士と僧侶は自ら希望してなったから負けたのはお前だけだ」
僧侶「確か風さんの名前の件で外に出た時もこのメンバーでしたね」
ガンナー「まあ三対四でわかれて男三人の中に女一人っていうのも気まずいし、そうなると女二人と男一人で宿で待つ事になるからそっちもそっちで気まずい」
剣士「たしかに、すっぱり男女で分かれるのが一番バランスいいな」
僧侶「これからそのように別れましょうか」
剣士「そうだな。毎回全員でじゃんけんするのも面倒だ」
ガンナー「だいたい負けるのは勇者だしな」
勇者「なんかこれまでがそうだったせいか、こうやって歩いてたらまたそのへんで刺客と出くわしたり――」
風「あ」
フラマ「お」
勇者「――してしまった」
剣士「またか」
僧侶「外を歩けば簡単に魔王の刺客と出会えるこの気軽さ」
勇者「それってまあまあ危険だよな」
僧侶「お互い居場所を教えているようなものですからね。いつ何が起きてもおかしくないです」
剣士「そのときはまあ、なんとかなるだろ」
ガンナー「お前ら何? しょっちゅう見かけるけど暇なの?」
風「まあ……することないしな」
フラマ「否定はしないぜ。暇だ」
勇者「否定しようぜそこは」
フラマ「別に俺だって、ずっと街滅ぼしてまわってるわけじゃねえから。疲れるし」
勇者「あ、そう。……いや駄目だろ街壊しちゃ駄目だろ」
フラマ「しらねえよ。いいだろ別に、ウゼーな」
勇者「……」
風「うわあ……」引
勇者「えっ」
剣士「おい仲間に引かれてるぞ」
フラマ「お前なんで引いてんだよ」
風「まさかそこまで非情だとは思ってなかった」
ガンナー「そしてこの魔王の刺客とはとても思えないような発言」
僧侶「これまでも度々そういう発言がありましたよ」
ガンナー「それにしてもフラマと風ってまた新しい組み合わせだな」
フラマ「まあアルボル死んだし」
剣士「ちょっと待て死んではいない」
フラマ「えっ?」
勇者「『えっ?』ってお前……えっ?」
フラマ「えっ?」
風「殺生の罪は重いぞ」
勇者「お前が言うか!? 殺してないっつうの!」
フラマ「……あいつ死んでなかったのか?」
風「いや……知らない」
フラマ「でもドロシーはアルボル死んだって言ってたよな」
風「言ってた――ような気がする」
勇者「生きてるから」
フラマ「あー、もう別にどうでもいいわ。生きてようが死んでようがどうせもう会わねえだろうし」
剣士「お前ら仲悪すぎるだろ」
ガンナー「そして敵同士だというのにこの緊張感のない会話」
剣士「お前が言うか?」