35 騎士「鍛冶屋と海賊」
鍛冶屋「お、終わりました……海賊さんからの任務、完遂です……」
海賊「お疲れさん。じゃあ俺は一旦船に戻るわ。金は前払いで払った分で足りるだろ」
鍛冶屋「あ、はい十分です。お気をつけて」
ガンナー「帰る途中で水溜りにはまればいいのに」
勇者「地味に嫌だなそれ」
鍛冶屋「あ、勇者様、新しい武器の事ですけど、やっぱり軽い方がいいですか? どれくらいの重さなら扱えます?」
勇者「ええと……アレ二つ分の重さくらいなら」
鍛冶屋「二つ分スか」
勇者「いや……えっと、ううん、いきなり聞かれても、あんまりよくわからないなあ」
鍛冶屋「はあ、とりあえずなるべく軽いほうがいいということで」
勇者「つまりそういう事ですね」
鍛冶屋「了解しました。これから作業はじめて……多分夜までには出来ると思いますよ。最低でも明日の朝には間に合わせます」
ガンナー「宿をどうするかだな」
鍛冶屋「お困りならウチに泊まっていけばいいッスよ。使ってない部屋がいくつかあるんで。奥で待ってる皆さんにも伝えておいてください」
勇者「えっいいんですか」
鍛冶屋「全然いいっすよ。どうせ初めからそのつもりだったんでしょうし」
ガンナー「じゃあ遠慮なく」
勇者「ちょ、おいガンナー」
鍛冶屋「……かわんないッスねえ。ガンナーの坊ちゃん」
勇者「え?」
鍛冶屋「あっ、いえ。すいません立ちっぱなしにさせちゃって……勇者様もどうぞあがってください。そこの扉から住居に続いてるんで」
~・・・~
魔法使い「ベッド! 二段ベッド!」
吟遊詩人「本当ね」
魔法使い「上! 私上がいい!」
吟遊詩人「いいわよ」
ギィギィ……
魔法使い「……怖い!」
吟遊詩人「下にする?」
魔法使い「上がいい!」
吟遊詩人「騎士はいい? 一人になっちゃうけど」
騎士「いい」
勇者「ベッド二段ベッドだ!」
ガンナー「そうだな」
勇者「やべえ俺二段ベッドとか初めて見た!」
ガンナー「そうだな」
勇者「うおお俺上がいい!」
ガンナー「勝手にしろ」
勇者「あっでも落ちたら怖い!」
ガンナー「下にするか?」
勇者「落ちてこられたら怖い」
ガンナー「落ちるのはお前だけだ。つうか二段ベッドそんなに珍しいか?」
勇者「セレブに庶民の気持ちはわかんねえよ」
ガンナー「いやそういうの関係ないし二段ベッドは珍しくないし」
勇者「まあお前は普段天蓋付きのベッドとか三段ベッドとか使ってるんだろうけどさ」
ガンナー「そんなに段あってどうするんだよ……それに、天蓋はあったらあったで目障りだから俺はあれ嫌いだ」
勇者「何この会話レベル高い……」
ガンナー「高いか?」
剣士「おいお前等昼飯食わないのか」
~・・・~
魔法使い「鍛冶屋さんって海賊さんと仲良いの? 悪いの?」
鍛冶屋「ええ……どうッスかね。仲が悪いってことはないと思いますけど。なんだかんだで仕事とかもまわしてもらってますし。贔屓にしてくれてるのは確かッスけど」
ガンナー「所詮金だけの関係か。ドライだな」
鍛冶屋「えっ!? そ、そういうわけじゃないッスよ! 俺あの人とサシで飲みに行くこともありますし、海賊さんたちのほうで何か祝い事があって飲み会するってなったらよくお呼ばれしますし!」
勇者「祝い事?」
鍛冶屋「主に年末年始とかです。それ以外でもありますけど」
剣士「急に平和になったな」
ガンナー「でもお前基本パシリじゃん」
鍛冶屋「そ、そんなこと――ないとは言い切れませんけど……だってそもそも、俺と海賊さんって坊ちゃんを介して知り合ったようなもんじゃないスか……」
ガンナー「そうだけど歳が近いどころか同い年だぜ? もうちょい友達っぽい雰囲気あってもいいんじゃねえの」
勇者「お前鏡見てから言えよ」
ガンナー「イケメンが映ってる」
勇者「あ、言い返せない」
鍛冶屋「性格が違いすぎるんですよう。何あの人すぐ暴力ふるう……超短気……」
吟遊詩人「酔ったら暴れだしそうね……」
鍛冶屋「あ、見たことありますけどあの人酔うとめちゃくちゃ笑いますよ。ちょっとしたことで大笑いします。この前笑いすぎて窒息しかけてました」
ガンナー「なんだそれ見てえ」
勇者「船乗せてもらったときゲスな笑顔しか見なかった」
鍛冶屋「坊……ガンナーさんならあの人が酔ったとこ見たことあるでしょ? あの人何かと理由つけてすぐ酒飲みますから」
ガンナー「あいつ度数キツイの二、三時間飲ませ続けないと酔わねえじゃん」
魔法使い「あ、なんか酔わないイメージある」
吟遊詩人「酔わないっていうか何しても倒れないイメージあるわ」
勇者「注射しようとしても注射器の針折れそう」
剣士「毒ガスが充満した部屋にぶち込んでも平気で生活しそうだよな」
騎士「磔にしても死なない」
僧侶「それどころか自力で抜け出してそのまま酒場へ入っていきそうですね」
ガンナー「熔岩に突き落としても生きてそう」
鍛冶屋「なんで皆考えがちょっとずつ猟奇的なんですか。もうそれ人間じゃないッスよ」
~夜~
鍛冶屋「なんとか日付が変わる前に完成しました……」
海賊「はえーのかそうでもないのか俺らは『鍛冶屋』じゃねえからわかんねえな」
ガンナー「まあ、なんだかんだで仕事はじめたのついさっきだし早いほうじゃねえの」
鍛冶屋「……あの、そういえばガンナーさん。勇者様たちに『あのこと』はもう?」
ガンナー「なんでお前らはそうやって急かすかな。機会があったら言うっつの」
鍛冶屋「ええっお、俺ただ質問しただけッスよ」
海賊「お前がいいなら別になんも言わねえけど」
ガンナー「別にいいも何も……なあ」
鍛冶屋「まあ、知ったところで旅に何か影響があるわけでもないですしね」
ガンナー「話が長引きそうだからめんどくせえんだよ」
鍛冶屋「めんどくさがりなガンナーさんらしいッス」
ガンナー「あ?」
鍛冶屋「なんでもないッス」
ガンナー「んー、でも……そうだな、近いうちに話すつもりではある」
海賊「そう言ってる間は絶対はなさねえんだよな。明日やるそのうちやるって言って結局いつまでたっても何もしないっていう」
鍛冶屋「ああ、俺も経験あります。明日やろうは馬鹿野郎ってやつですね」
ガンナー「つうかお前等未成年の前で酒飲むなよ。酒くせえ」
海賊「おう飲むか?」
ガンナー「のまねーし」
海賊「俺が初めて酒飲んだのは丁度お前くらいの歳だったぞ」
ガンナー「うわあ船員Eよりひでえ」
海賊「十六も二十も一緒だ」
ガンナー「いや全然違うだろ。四つも空いてんぞ」
海賊「四捨五入すりゃ十六も二十も一緒だ」
ガンナー「うわあ屁理屈」
海賊「そしてお前がさっきから飲んでるそのジュースには酒が入っていたりして」
ガンナー「死ねクズ」
海賊「嘘に決まってんだろォガキに飲ますかよ」
ガンナー「お前ついさっき『十六も二十も一緒』とか言ってなかったか」
鍛冶屋「俺はちゃんと初酒は二十歳すぎてからですよう」
海賊「『初酒』ってなんだよ」
ガンナー「お前、さも酒弱いですって顔しときながら結構飲んでるよな」
鍛冶屋「そうッスか?」
海賊「あー、そういやあ弱そうな感じすんのに酔っ払ってるところ見た事ねえな」
ガンナー「お前より強いんじゃねえの」
海賊「はあ? 潰れるまで飲ませたいな」
鍛冶屋「えっ」
ガンナー「今度時間ある時やってみるか」
海賊「お前が成人してからでもいいぜ」
鍛冶屋「ガンナーさん十六歳ですし、だいたい四年か五年後くらいッスね」
ガンナー「その頃お前ら三十路だろ……」
海賊「お前そういう事言うなよ」二十七歳
鍛冶屋「未来の話はやめてください」二十七歳