33 勇者「だから筋肉痛はないって」
~イエルタ、宿~
ガンナー「で、アルボルとの戦いはどうだったよ?」
剣士「大変だった。正直勝てた時は『まじかよ』って思った」
僧侶「火傷するかと思いました」
勇者「ごめん」
吟遊詩人「少しでも気をそらせたらと思って投げたナイフがまさか刺さるだなんて予想外だったわ」
勇者「もう自分が何をしたらいいのか分からなかった。魔法使いを連れて行かなかったことを後悔した」
魔法使い「な、なんか皆ぼろぼろだね……大丈夫?」
勇者「まあ、動き回ったからな」
ガンナー「剣士、服の裾焦げてるぞ」
剣士「あー……」
勇者「ごめん」
剣士「いや、まあ、これはしょうがないとして……」
魔法使い「え、えっと……じゃあ、これからのことはどうする? 明日か明後日にはここを出るの?」
勇者「ん、うーん……」
剣士「風から場所の指定がないから、まだなんともいえないな」
勇者「う、う、うんん……」タラタラ
魔法使い「勇者?」
勇者「え、な、な、何?」
魔法使い「いや、なんか様子が変だったから。どうかした?」
勇者「あー……、そのォー……」
剣士「剣が折れた!?」
勇者「そう、あの……元々そんな上等な物じゃなかったし、その辺の小さい村で俺の小遣いで買える程度の、ゲームで言う一番初めに装備してる奴みたいなのだったから、いつ折れてもおかしくなかったんだけど……今回能力で炎を使ったのが決め手になったのか……はたまた単純に耐久力の限界か……」
魔法使い「でもそれならここの武器屋で……」
ガンナー「イエルタには武器屋も防具屋もないぞ」
勇者「まじか」
僧侶「万事休すですね」
吟遊詩人「剣士のを一つ借りればいいんじゃない? ほら、たしか剣士は二刀流だったでしょ? 二つ使って戦ってるところなんて見た事ないけど」
魔法使い「何それ初耳」
剣士「まじか」
魔法使い「二つ持ってるのは知ってたけど予備だと思ってた」
勇者「考えたけど重くて振れそうにありません」
騎士「使い慣れない物を無理に使うと危険」
剣士「……まあとりあえず、剣を見せてみろよ。どの程度の破損なのかで修理か買い替えか見てみねえと。修理するにも買い替えるにも金がかかるからな」
勇者「うん……」スッ
剣(上)「分裂」
ガンナー「……」
ガンナー「おい、半分しかないけど下の部分どうしたよ」
勇者「下の部分って何、先端の事? 今さっき折れたって言ったよな!?」
ガンナー「じゃあその先端の部分どうしたよ」
勇者「や、一応鞘の中に入ってるけど……」
剣士「……それ、出せるのか?」
ガンナー「さかさまにすれば?」ブンブン
ゴトンッ
剣士「あぶねっ」
勇者「うわあぶねっ」
僧侶「これは、なんと申しますか、非情に……ぽっきり綺麗にいきましたね」
勇者「それで……どうすればいいかな」
ガンナー「丸腰でいけば?」
勇者「危険すぎるわ」
魔法使い「こん棒でいけば?」
勇者「弱すぎるわ」
ガンナー「お前自身が?」
勇者「それもあるけど武器自体がだな」
ガンナー「自分が弱い事を武器のせいにしている間は一人前になんてなれないぞ」
勇者「うっ、そ、それは……そうだけどさあ……」
剣士「おい、ガンナーが正論言ってるぜ」
ガンナー「本当に強い奴は武器がこん棒でも武器自体がなくてもそれなりにやってけるんだよ」
勇者「素手で行ったらほぼ確実に職業規制かかるけどな」
ガンナー「『勇者』だし大丈夫なんじゃねえの?」
勇者「えーお前『勇者』をなんだと思ってんの……」
剣士「……それで、結局どうするんだ? 武器の調達は次の街に着くまでできないんだろ?」
僧侶「ここから最も近い、武器屋のある町といえば……『アロネモ』ですかね。その町にお店があることは確かですが……」
吟遊詩人「アロネモ……少し遠いわね。そういえばイエルタのすぐ近くに小さな村があったはずだけど……ああ、でもそこに武器屋があったかどうかまでは覚えていないわ」
僧侶「その村へ向かってみて武器屋があれば良いのですが、なかった場合は遠回りになります。最も、行ってみないことにはわかりませんが。また一度港町へ戻ってみるのも良いかと思われます」
騎士「三択」
勇者「どうすればいいかな僧ペディア」
僧侶「久しぶりですねそれ。ええと、ですね……。……ああ、そういえば」
勇者「お、何か思いついた?」
僧侶「ガンナー、鍛冶屋さんは確かこのあたりにお住まいでしたね?」
ガンナー「ああ『カイ』か。その名前久しぶりに聞いたな」
勇者「かい……?」
魔法使い「ガンナーの知り合いナンバーツー?」
剣士「ナンバーワンは誰なんだ」
吟遊詩人「海賊さんじゃない?」
ガンナー「知り合いの鍛冶屋。そういや先月おやっさん病気で死んだってさ」
勇者「後半の情報いらねえ……」
魔法使い「鍛冶屋さん? なんで『カイ』なの?」
ガンナー「海の近くに住んでる、しょっちゅう海辺にいる、海大好き人間だからあだ名が『カイ』。まあ誰もこのあだ名使ってねえけど」
僧侶「名づけたガンナーでさえ使ってませんからね」
勇者「ああ、だから『海』ね……」
ガンナー「アイツ泳げないけどな」
勇者「鍛冶屋のくせにカナヅチっていう?」
ガンナー「どうリアクションしていいかわからん」
剣士「うまいのかそうでもないのかちょっと俺にはよくわからない」
勇者「ごめん」
魔法使い「その『カイ』って人はこのあたりに住んでるの?」
ガンナー「ああ。結構仕事で家空けることもあるけど、今は実家にいるはずだからな。ここから海岸沿いにちょっと歩けばすぐ着くぞ」
剣士「じゃあ今から行ってみるか?」
勇者「ううん……皆疲れてるだろうし、明日にしておこうか」
ガンナー「俺と魔法使いは特に疲れてないけどな」
~・・・~
勇者「……あ、そういえばガンナー、規制は?」
ガンナー「今さっき解けたみたいだ」
剣士「長かったな」
勇者「そうだなあ」
ガンナー「まあこれでパーティの戦力が戻ったという事で」
勇者「もう無茶すんなよ?」
ガンナー「海賊が挑発してくるのが悪い」
剣士「その挑発に乗ったお前も悪い」
ガンナー「ぐぬぬ」
勇者「海賊さんと付き合い長いんだろ? なんでいがみ合ってるんだよ」
ガンナー「いやいがみ合ってるつもりはない」
僧侶「むしろ友好的ですよ」
勇者「うおっ僧侶いつのまに」
魔法使い「可愛い女の子だと思った? 残念、魔法使いでした!」
ガンナー「お前は普通にかわいいだろ」
魔法使い「唐突の褒め言葉に不覚にもドキッとした」
勇者「人の幼馴染を口説くなよ」
ガンナー「口説いてねーよ率直な意見を言ったまでだ」
魔法使い「危うくガンナーに心を射抜かれるところだった」
ガンナー「銃使いだけに?」
剣士「なんだこの会話」
アルボル編終了。