2 ガンナー「夜更けの惨劇」
~翌朝~
勇者「今日は魔法使いが帰ってくるから、はやいうちに旅のこと伝えておかないとな。……それにしても、なんだか妙に広場のほうが騒がしいような気がする。いつも朝は静かなのに。何かあったのかな? なんかちょっと嫌な予感するけど」
勇者「あ、おォーい。剣士、ガンナー!」
剣士「勇者!」
ガンナー「……」
勇者「ガンナーがこんな早い時間に起きてるってめずらしいなあ――って、うわっ、なんだこの人だかり……何か事件でもあったのか?」
剣士「い、いや、それが……」
勇者「……あれ? 掲示板の記事、いつものと紙が違うな。赤の枠があるのはたしか……速報、だったか?」
ガンナー「おい勇者、サブマラはお前と魔法使いの故郷の村だったよな」
勇者「ああ、そうだけど。なんで急に?」
ガンナー「落ち着いて聞け。……昨日の夜、強大な力を持つ『何者か』がサブマラの村を襲撃した」
勇者「……え?」
ガンナー「一晩のうちに村は壊滅。生存者はゼロである可能性が限りなく高い――と報じられている」
勇者「は――はあ? いきなり何言ってるんだよガンナー。サブマラが滅んだ? へ、変な冗談止せよ。笑えないぞ。なあ、剣士。……剣士?」
剣士「勇者。……ガンナーが言ったことは、全部本当のことだ」
勇者「――は?」
勇者「い、いや、だって……何言ってるんだよ? 生存者がゼロ? 俺の家族は? 村の人たちは?」
ガンナー「……」
勇者「みんな……み、みんな死んだってことか? じゃあ……じゃあ、魔法使いは? 昨日村に帰ってた魔法使いはどうなったんだよ!? なあ!」
剣士「落ち着け勇者!」
勇者「これが落ち着いてられるかよッ!!」
ガンナー「よく聞けよ。生存者はゼロだって言うのは『そう報じられている』ってだけだし、ゼロかもしれないってだけの話だ。速報記事に何人逃げ延びたとか、そんな詳しいことまで載ってるはずがないだろ。村の様子があまりにも壮絶だったのと、生きた人間が見つからなかったのとでそう書いてあるだけであって、本当に生き残りがいないわけじゃない。現に」
ガンナー「――魔法使いは無事だ」
勇者「!」
ガンナー「どうやら、あいつの母親が移動系の魔法で村の外まで逃がしたらしい」
勇者「え――で、でも、ちょっと待てよ。魔法使いの魔力は、あれはあいつのお爺さんからの遺伝で……だから、おじさんもおばさんも魔法なんて……」
ガンナー「だが腐っても魔術師の家系だ。大げさな魔術は扱えなくても、小娘一人を村から少し離れたところに飛ばすことくらいなら可能だった」
勇者「なんで、お前にそんなことがわかるんだ?」
ガンナー「魔法使い本人がそう言っていたからだ」
勇者「そ、そうだ! 魔法使いは今何処にいるんだよ?」
ガンナー「ひとまずは俺の家に寝かせてある」
勇者「ガンナーの家に……?」
剣士「さっき吟遊詩人が運んできたんだ。セシリカに来る途中で、傷を負って倒れている魔法使いを見つけたらしい。運ばれてきたときは気を失っているみたいだったが、多分もうそろそろ目を覚ますころだと思うぞ」
勇者「!」ダッ
剣士「あッ、おい、勇者!」
~ガンナーの家~
ガンナー「魔法使いはちゃんと無事だ。ショックで少し弱ってはいるがたいした怪我もしていない。だからそんなに慌てんな。門閉まってんだから俺より先に来ても入れるわけないだろ」
勇者「ご、ごめん。つい」
剣士「そもそも正門が開いてたとしても魔法使いがどの部屋にいるのかわからないだろ」
勇者「う……」
ガンナー「……勇者、あんまり騒がしくしてやんなよ?」
ガチャ。
吟遊詩人「あ、ガンナー、剣士、おかえりなさい」
剣士「留守番おしつけて悪かったな、吟遊詩人」
吟遊詩人「いいのよ。……魔法使い、大丈夫?」
魔法使い「う、うん……」
ガンナー「馬鹿め、妙な質問すんな。こんなことになって大丈夫なはずねえだろ。あ、一応勇者つれてきたけど、いる?」
勇者「『いらない』って言われたらどうするんだよ……」
ガンナー「なんかごめん、ってなる」
勇者「つらい」
剣士「……まあその、魔法使い。今はゆっくり休んでろ。ただ、あとで気持ちの整理がついたら、せめて勇者にだけはなにがあったのか詳しいこと話してやれ」
魔法使い「うん……わかってる。ごめんね、心配かけて」
勇者「……魔法使い。怪我は?」
魔法使い「大丈夫だよ。かすり傷ばかりだから」
吟遊詩人「傷――って言うよりもね、あちこちに小さな火傷みたいなのがあるのよ。さすがに無傷ってわけにはいかなかったみたい。これくらいならすぐ治るだろうけど……」
勇者「火傷?」
ガンナー「詳しい話はあとでいいだろ。おい勇者、こいつらにあのこと言わなくていいのか」
勇者「あっ、そうだった」
魔法使い「あのこと?」
勇者「いやそれがさ、こんなときに何だけど……とりあえずこれを読んでほしい」スッ
吟遊詩人「手紙?」
魔法使い「……これって」
吟遊詩人「魔王討伐……? 大掛かりな話ね」
魔法使い「勇者、これに行くつもりなの?」
勇者「行くつもりっていうか、俺が『勇者』の血をひいて生まれてきたからにはしょうがないだろ? それで、その……」
吟遊詩人「言わなくてもなんとなくわかるわ。私たちに旅の仲間として同行してほしいって言うんでしょ?」
勇者「見抜かれてる」
吟遊詩人「私が行っても何もできないわよ。戦うにしてもそれほど力があるわけでもないし」
ガンナー「んなこと言われなくても分かってら」
勇者「おいガンナーそんな言い方ないだろ……吟遊詩人は普段からいろいろな土地に行ったりするし、俺はこのあたり以外の地域に土地勘ないから、来てくれると助かるよ。俺、地図とか読めないしさ」
剣士「たしかにこのメンバーのなかでだと、地理に関することは吟遊詩人が一番詳しいだろうな。俺も僧侶たちも仕事でしか遠くの街に行くことはないし、ガンナーは少し前まではいろいろなところに足を運んでいたが、今は引きこもりだから論外だな」
魔法使い「私も土地勘とかは、勇者と大差ないよ」
吟遊詩人「私が他の地域に詳しいっていうのは……それは、そうかもしれないけど、そもそも、こういうのってその場の判断で決めていいものじゃないわよ」
勇者「そ、そうだけど……やっぱり、駄目かな」
吟遊詩人「……でも、六人必要なんでしょう? 地図や土地勘以外ではあまり役に立てないけど、それでもいいっていうなら――それでいいなら、私も行くわ」
勇者「あ、ありがとう! ……えっと、現時点で、ガンナーと剣士は一緒に来てくれることになってるんだ。騎士と僧侶にも声かけてみるつもりだ。どうなるかはわからないけど。その……でも、魔法使いは今そんな状態だし、無理にとは言わない。一応声をかけてみただけで、少しでも嫌だったら全然断ってくれても構わないから……」
魔法使い「……ううん、私も行くよ」
剣士「いいのか? ただでさえ大変なことになってるってのに」
魔法使い「いいの。勇者を放っておくのも心配だし。そ、それに皆行っちゃうのに私だけ仲間はずれなんて、そんなの寂しいじゃん! そっちのほうがかえって気が滅入っちゃうよ」
ガンナー「本人がそう言うなら止める義理はねえ。……後悔すんなよ?」
魔法使い「わかってるよ」
剣士「とにかく、これで五人か。僧侶たちはまだしばらく帰ってこないだろうし、待つのも時間がかかるな。先にこのメンバーで王宮に行くか?」
勇者「まだ七人そろってないけど、せっかく待っても断られるかもしれないし、ひとまずはそうしよう」
ガンナー「あの双子は帰ってくるのを待ってるよりも、むしろ会いに行ったほうが早いだろうな」
魔法使い「でも居場所は分かってるの?」
ガンナー「北のほうにある、なんちゃらって集落に行くとか言ってたぜ。距離もそう遠くはない」
魔法使い「方角以外わかってないじゃん」
吟遊詩人「ここから北といえば、ちょうど『クリエント』の近くね。はっきり何処の集落かまでは特定できないけど」
剣士「あのあたりの集落には宿泊施設がないし、二人がクリエントの宿屋に泊まっている可能性は高いな。街に行けば会えるだろう」
勇者「わかった。じゃあ、第一の目的地はクリエントだ。準備もあるし、出発は明日にしようか」
吟遊詩人「そうと決まれば、そろそろ一時解散としましょう。魔法使いもゆっくりしたいだろうし」
魔法使い「う、うん」
剣士「俺はこれから国王に明日勇者たちが来ることを伝えてくる。また後で会おう」
ガンナー「勇者。こいつ家まで送ってやれよ」
勇者「わかった。魔法使い、立てる?」
魔法使い「大丈夫。吟遊詩人、ガンナーもありがとう。お部屋かしてくれて」
ガンナー「部屋なんていくらでも余ってらァ」
~魔法使いの家~
勇者「……本当によかったのか? 魔法使い」
魔法使い「どうして、そんなこと聞くの?」
勇者「さっきガンナーからの話でサブマラのことを知った俺ですら取り乱したんだ。昨日の夜、その場にいたお前が、そんなにすぐに元気になれるはずがない」
魔法使い「言ったでしょ。皆が旅に出ちゃって私一人になっちゃうと、そっちのほうが気分が暗くなりそうじゃん。皆と一緒にいて、笑ってたいの」
勇者「もっとひどい怪我をするかもしれない」
魔法使い「お互い様でしょ?」
勇者「……死ぬかもしれないんだぞ」
魔法使い「だったらなおさら、私をおいていかないで」
勇者「……わかった」