26 剣士「正直することないな」
ガンナー「Zzz」
魔法使い「ガンナーって本当よく寝るよね」
勇者「たしかになぁ。よく食べてよく寝る……」
剣士「昼間はほとんど寝てる姿しか見てないな」
勇者「夜寝て朝起きて昼寝て夕方起きてまた夜に寝る。よくそんなに寝れるな」
魔法使い「ガンナーが『寝付けない』って言ってるところ見た事ないよ。前だって『寝れなかったら魔法使いに頼む』って言ってたのに結局普通に寝てたし」
吟遊詩人「でも寝る子は育つっていうし――」
勇者「育ってるか……?」
ガンナー「」低身長、軽体重、細身、色白
吟遊詩人「……ね、寝すぎるのは身体に悪いとも言うわね」
魔法使い「って、うわ、細っガンナー手首細っ」ツカミ
吟遊詩人「痩せ形だものね」
勇者「でも腹が気持ち悪いほどへこんでたり肋骨が怖いほど浮き出てるとかはないんだよなぁ」
魔法使い「骨のサイズがちゃんとガンナーの体に合ってるんだよ」
勇者「ほ、骨のサイズ……?」
魔法使い「でもガンナーが骨折したとかって話聞いたことないよねー。うわ髪さらさら」
吟遊詩人「シャンプーもリンスも今は皆同じ物を使ってるはずなのに……」
勇者「あー、ガンナーはリンスしてないぞ。洗い方適当だし風呂上がった後も髪乾かさないまま寝てるし」
魔法使い「なんで!?」
勇者「どっちの意味での?」
魔法使い「おかしい、それでこのっ――この……ええええ……」
剣士「どうした魔法使い大丈夫か」
ガンナー「……何お前等さっきから腕やら腹やらつついたり髪触ったり」
魔法使い「あー起きちゃった」
~???~
アルボル「手紙送ってきた」
風「そうか」
フラマ「アルボルあの手紙の隠し文どういう事だおい」
アルボル「うげ、バレてんじゃん」ダッ
フラマ「待てコラてめぇぇぇええ!!」
「待てっつってんだろクソガキがあああ!!」「ぎゃあっ!? ちょっと何してんのお前信じらんない!」
ドロシー「……何してるのよあの二人」
風「……さあな」
~翌日~
勇者「おーい」
ガンナー「……」
勇者「ベッドに横たわってるガンナーさーん」
ガンナー「……」
勇者「……起きてるんだろ? 無視すんなって」
ガンナー「何」ムク
勇者「なんか今日機嫌悪いな……」
ガンナー「別にそんな事ねえよ、考えごとだ」
勇者「何考えてたんだ?」
ガンナー「魔王の刺客のこと」
勇者「ああ……そういえばアルボルってやつ、全然敵意がなかったよな。アグアちゃんもそうだったけどさ」
ガンナー「そうじゃねえよ」
勇者「アルボルが刺客になる前の姿とか?」
ガンナー「違う」
勇者「じゃあアルボルの――」
ガンナー「デコ石から離れたらどうだ?」
勇者「だって今度戦うのはアルボルだろ?」
勇者「あっ! アグアちゃんの――」
ガンナー「なんで戻ってんだ、進めよ。アイツにはもう疑問は残ってないだろう」
勇者「そうか? じゃあ風の……」
勇者「……」
ガンナー「思いつかねぇのかよ」
勇者「や、だって、他の刺客より謎が多い感じはするけど……」
ガンナー「分かってないのは他の奴らと同じ程度か」
勇者「顔隠れてるからミステリアスに感じるだけかな」
ガンナー「……まあ、不可解な事は直接聞きに行けばいいか」
勇者「え、今から? もうすぐイエルタに出発するぞ」
ガンナー「いいからついてこい」
勇者「無理矢理だな!」
僧侶「何故私は突然外に引きずり出されたのでしょうか」
ガンナー「なんとなく風にたしかめたい事があったから」
剣士「その『なんとなく』に付き合わされているのか、俺たち」
勇者「ま、まあまあ――ガンナーなりに何か考えがあると信じようぜ」
剣士「つーか、風って何処にいるんだ?」
ガンナー「その辺歩いてたら会えるだろ」
勇者「おい考えなしか」
剣士「その辺ふらふら歩いててばったり会える程あいつ等も暇して――」
風「あ」バッタリ
剣士「――るんだな」
~・・・~
風「……それで、勇者側の男どもが揃って何の用だ」
剣士「お前に用があるのは俺達じゃなくてガンナーだ。何の用かは知らん」
勇者「僧侶なんてほとんどとばっちりだし」
僧侶「はい」
風「本題に入れ」
ガンナー「……あんた『風』だっけ?」
風「は?」
勇者「ガンナー、いきなり何言ってんだ?」
ガンナー「名前。魔王の刺客の名前で俺たちが耳にしたことがあるのは、この前戦ったアグアと、フラマ、ドロシー、アルボル、風とビエント、他にも何人分かの名前だ。そうだな?」
風「たしかに俺はいくらかお前にこちら側のやつらの名前を教えた」
ガンナー「あんたの名前は『風』なんだよな?」
風「……」
剣士「名前? ……ああ」
僧侶「……」
勇者「? 風は『風』だろ?」
ガンナー「――お前の本当の名前って、ビエントじゃないのか?」
風「……」
勇者「え……?」
風「……何故そう思ったのか興味があるな」
ガンナー「簡単な事だ、お前は一度も名乗っていない」
勇者「そ――そうだったか?」
ガンナー「俺たちはお前のことを『風』と呼んではいるが、それは周りのやつらがそう呼んでいたからそうしているだけで、お前自身がそう名乗ったわけじゃない。だから別に、お前の名前が『風』じゃなくて本当は『ビエント』だったとしても何も不思議なことはないだろ」
風「……」
ガンナー「それに、ビエントと風を別々の人物と捉えたとして、お前たち魔王側の連中の数がやけに多くなる。アルボルがビエントという名前を口にしたときお前はその場にいたから、俺たちがビエントという刺客がいると知ったことを、当然お前は知っていた。だが、その後俺が魔王側にどんなやつがいるのかと聞いたとき、お前は名前だけなら教えると言ったがビエントという名前を一度も出さなかった。それは他ならぬ自分のことだからだ」
風「寸分違わずその通りだ」
勇者「な、なんで言わなかったんだ?」
風「名前なんて対象の識別ができればなんでもいいだろう? なければ会話の時に困るからついているだけで、たいして重要なことじゃない。一でも二でもマルでもバツでも、それがそいつ個人を差した記号だと分かればそれで充分。会話に不具合は生じない」
剣士「わざわざ名前を偽る意味がわからない。俺たちを混乱させるためか?」
風「別にお前たちを困らせようとしていたわけではない。確かに俺の本当の名前はビエントだ――だが、それがなんだ? 周囲が俺を呼ぶ際に使う名前が本名のビエントでなく『風』であっても何も問題はないだろう。現に俺はその『風』という言葉が自分を指した言葉だとわかっているし、お前達もそれが俺のことを指した言葉だと思った」
ガンナー「一理あるな」
僧侶「たしかに、その人を呼ぶ名が本名しか認められないのであれば、あだ名などこの世には存在し得ません。ですが、だからといってあだ名をまるでそれが本当の名であるように扱うというのは解せませんね」
風「あだ名も本名も、価値は同じだ。結局はどちらを使っても相手には通じる。……少しだけ、不具合ではなく混乱が生じたようだが」
ガンナー「まったくだ」
勇者「俺達はお前のこと、これからなんて呼べばいいんだ?」
風「わざわざ呼び方を変える必要があるのか?」
勇者「それは……」
風「……好きにしろ。ビエントでも風でもどちらでもいい。それが俺を指した名であることは変わらないのだからな」
剣士「……お前がビエントであることはわかったが、それでも名前の数が合わない。そのあたりをもう少し詳しく話してくれる気はないのか?」
風「……」
風「面白そうだからそれについては黙っておく」
勇者「(風属性ってこんな人ばっかりなのかな……)」
~宿~
魔法使い「じゃあ風は実はビエントって名前だったの?」
勇者「そういう事になるな」
魔法使い「そっかー」
勇者「あんまり驚かないんだな」
魔法使い「いや、なんとなくそんなことだろうって気はしてたし」
勇者「えっ」
吟遊詩人「皆薄々勘付いてはいたんじゃないかしら」
勇者「え……別人だと信じて疑わなかったのって俺だけ?」
魔法使い「もうちょっと疑ってかかろうよ……相手が相手なんだしさ」
吟遊詩人「その、他人を疑わない優しいところが勇者のいいところではあるだけど……」
騎士「……馬鹿」
勇者「う……」
魔法使い「騎士に『馬鹿』って言われるとこう――凄いくるね、精神的に」
勇者「ガンナーに馬鹿って言われるより僧侶や騎士に馬鹿って言われる方が傷付く、とても」
魔法使い「でもガンナーに罵詈雑言を浴びせられたら」
勇者「泣きそうになる」
魔法使い「泣かないでよ、もう十七なのに」
勇者「な、泣いてないし。こ、心の汗だし」
魔法使い「『心の汗』ってなんか目に沁みそうだね」
勇者「確かに。じゃあ心の涙――ハッ」
魔法使い「泣いてるじゃん……」
~部屋の前~
剣士「入らないのか?」
ガンナー「会話は聞こえないけどなんか勇者がハーレムしてるっぽいから束の間の幸せをだな」
剣士「束の間、ね」
ガンナー「いや、だっていつまでもこうして部屋の前で待機してるってのも嫌だろ」
僧侶「こんな事でしか幸せを得られない勇者さんって……」
ガンナー「まあ勇者だし」
剣士「(哀れ勇者……)」




