1 勇者「王様から無茶振りされた」
基本的に地の文がない会話のみの形式なので苦手な方はご注意ください。
某日、東大陸の南部に位置する王都セシリカ。齢十七の「勇者」は民家や商店の立ち並ぶ大通りから少しはずれた静かなところに住んでいた。
勇者「王様からの手紙が届いて不安と緊張で手の震えが止まらない。どうしよう剣士」
剣士「知らねえよ……読めば?」
勇者「よ、読むよ」
剣士「じゃあ、届けるもんは届けたし俺は帰るぞ」
勇者「えっ、か、帰っちゃうの?」
剣士「王宮の兵士も暇じゃないんだよ」
勇者「いつも広場で暇そうにボーっとしてるくせに!」
剣士「う、うるさいな。とにかく、ちゃんと届けたからな!」
勇者「さて……一人になると余計ドキドキするな……俺なんかやらかしたっけ? なにも悪いことしてねえよ……ああ怖いなあ。紙の質がもう、俺たちが使ってるやつと全然違う」
手紙「拝啓、勇者殿」
勇者「待ってこれ直筆?」
手紙「あまりかたくるしい手紙を書くつもりはありません。どうか肩の力を抜いてお読みください。
世界征服を目論む『魔王』が我々人類に向けて攻撃を仕掛けてきていることは君も既に知っていると思う。
人類は徐々に滅亡へと追い込まれようとしている。
しかし『魔王』の討伐にはそれに相応しい素質を持った者にしか成し遂げられないのだ。
ここまで読めば、もう私の言わんとしていることを理解してくれていることだろう。
魔王倒してきてね。
セシリカ王国 国王。
敬具。
PS.魔王討伐の旅に同行できるメンバーは君を含めて七名。君が選んだ者なら何も心配はないと私は思っている。メンバーが揃ったら王宮に来るよう、よろしく頼む。」
勇者「……えっ? え、なんか、すごいノリで世界の命運託されちゃった……?」
勇者「一緒に旅に出るパーティメンバーは俺以外に六人……六人……強い人を……」
勇者「け、剣士ー! 剣士戻ってきてぇ!!」ガタンッ
~外~
勇者「さて、とりあえず外に出てきたけれど、いきなり仲間を六人集めろなんて言われても、急すぎてどうすればいいのか……できれば知り合いがいいよなあ。強くてもまったく知らない人とじゃ、人間関係とかこじれそうだし……」
勇者「戦闘面のバランスも考えないとな。七人で行くとなると前衛三人、中衛二人、後衛二人……それくらいかな。俺がいるから前衛はあと二人として……ううん」
勇者「……剣士どこだよ。ハア。接近戦が強い知り合いなんてあいつくらいなのに」
勇者「……ひとまず、魔法使いの家に行ってみよう。すぐそこだし」
勇者「おぉい、魔法使い!」ドンドン
おばさん「あら勇者くん。魔法使いちゃんなら今朝から出かけてるわよ」
勇者「えっ、そうなんですか?」
おばさん「ええ。故郷のお母さんたちに顔を見せにいくからって……聞いてなかったかしら?」
勇者「あ、そういえば、近々『サブマラ』に帰るって言ってたような……」
おばさん「勇者くんもたまには村に帰ってみたら? ご家族の方もよろこぶでしょうに」
勇者「はは……考えておきます。魔法使い、明日には帰ってくるんですよね?」
おばさん「そうね。お昼前には帰ってくるって言ってたと思うわよ。何か用事でもあったの? ……あ、もしかしてデートのお誘いかしら?」ニヤニヤ
勇者「ち、違いますよ! ……近いですけど」
おばさん「ふふ、若いわねえ。じゃあ、お買いものに行く途中だから、またね」
勇者「あ、はい。ありがとうございます」
勇者「魔法使いは留守、か。他に誰か今すぐ会えそうな人って……」
勇者「……」
~とある屋敷の門前~
勇者「相変わらずデッカイ家だなあ。塀がどこまでも続いてる」
勇者「えっと、呼び鈴……」
ギギギ、
勇者「おわっ!? 門が勝手に開いた! は、入って……いいのかな、これ」
勇者「」そわそわ、
ガチャ、
勇者「!」
?「さっさと来いっつの。ノロマ」
勇者「ガンナー! 脅かすなよ……って、なんで俺が来たことわかったんだ?」
ガンナー「部屋の窓から見えたからな。何の用だ?」
勇者「いや、その……とりあえず、これ見て。なんか説明しづらいからさ」カサ、
ガンナー「手紙? ああ、国王からの。へえ」
勇者「さっき剣士が届けてきたんだ」
ガンナー「……」
ガンナー「なるほど。魔王退治ね。お前六人も友達いんの?」
勇者「う、い、いるよ失礼な」
ガンナー「ハイ、じゃあ連れて行きたいやつの名前今すぐ六人」
勇者「意地悪なこと言うのやめろよ……」
ガンナー「で、俺のとこに来た用件は?」
勇者「いやその、魔法使いが留守でさ、剣士見つかんないし、他はまだ誰誘うか決めてなくて、できればガンナー一緒に来てくれないかなぁ……みたいな」
ガンナー「そんな近場まで出かけんのについてきてみたいなノリで言われてもな。別にいいけどよ」
勇者「あ、いいんだ」
ガンナー「どうせ剣士のほかにも騎士や僧侶も誘うつもりなんだろ? 幼馴染みと兄貴が行くってんのに放っておけるかよ」
勇者「まだ剣士たちが行くって決まったわけじゃないけど、そうだな」
ガンナー「いや、俺が来いって言ったら来るから。これ絶対」
勇者「なんて暴君!」
ガンナー「つうか魔法使いが留守って珍しいな。あのポニーテール何処行ってんだ」
勇者「故郷の村に帰ってるんだよ」
ガンナー「あっそう」
勇者「うわ興味なさそう」
ガンナー「んで? 七人ってことはあと一人必要だよな」
勇者「そうなんだよ。あとは吟遊詩人くらいしか思いつかないんだけど……」
ガンナー「弱いうえ俺あいつのことあんまり好きじゃないんだけど」
勇者「そ、そう言うなよ……っていうかお前から見たら全員弱いだろ悲しいことに。あ、そういえば、僧侶と騎士って今教会にいんの?」
ガンナー「いや、あの双子は今教会の仕事で留守だ。まあ、三日か四日すれば帰ってくるだろうけどな」
勇者「三日か……」
ガンナー「あの二人は魔法使いが帰ってきてから探しに行けばいいとして、吟遊詩人のやつはどうするんだ。あの女が何処に住んでるのかなんて、俺は知らないぜ」
勇者「そう言われてみれば吟遊詩人のこと、案外知らないんだよな。剣士と同い年ってことしか知らない」
ガンナー「まああいつはどうでもいいとして」
勇者「ひどいな」
ガンナー「ひとまず、剣士を探しに行って来いよ。まあ、どうせいつも通り広場で暇そうにボーっとしてるんだろうけどよ」
勇者「ついて来てはくれないんだな」
ガンナー「俺はこれからもうひと眠りしてくるから起きるまでにはあいつに声かけとけよ」
勇者「寝るって、まだ昼前だぞ。夜寝てないのか?」
ガンナー「夜ちゃんと寝たうえでもう一回寝るんだよ」
勇者「寝すぎるのも体に良くないぞ」
ガンナー「寝る子は育つって言うだろ」
勇者「説得力ない身長してるくせに」
ガンナー「いいからさっさと行って来いよ」
勇者「断られた場合はどうすれば」
ガンナー「俺に連絡してこい。二つ返事でOKさせてやる」
勇者「間違えてもKOはするなよ」
ガンナー「そりゃあ剣士の返答次第だな」
~広場~
剣士「ああ、別にかまわないが……」
勇者「あっ、いいんだ」
剣士「いや本当は嫌だし断りたいが俺がここで断ると後々ガンナーが出てきて銃口こっちに向けて威圧しながら『もう少し考えてみてくれよ』とか言ってきそうだしな」
勇者「実はガンナーにさっき、剣士に断られたら俺に言いに来いって言われてる。二つ返事でOKさせるとか言ってた」
剣士「だろ? どうせ拒否権ないだろうしもういいよ」
勇者「既に諦めモードだな」
剣士「お前が、俺がその手紙見てる間に『ガンナーは来てくれるって言ったんだけど』って言ったあたりでもう『あ、これ逃げられないな』って悟った」
勇者「お前あいつの兄貴だろ……弟に主導権握られてどうするんだよ……」
剣士「言っとくけど俺よりあいつのほうが強いからな。力じゃどうにもならん。口も達者だからなんだかんだで言いくるめられるに決まってる。変に抵抗するくらいなら大人しく言うこと聞いといたほうがよっぽどラクだ」
勇者「ダメな兄」
剣士「うるせえ。引きこもってる弟よりはマシだ。そもそもお前だって俺が嫌だって言った場合ガンナーを頼るつもりだったんだろ。あいつお前より一つ年下だぞ。俺がダメな兄貴ならお前はダメな年上だ」
勇者「こんなメンバーで大丈夫なのかなあ」
剣士「……まあ、なんとかなるだろ」
勇者「出たよ『なんとかなるだろ』。剣士困ったときいっつもそれ言うけど、それで本当になんとかなったことあんまりないじゃん」
剣士「お前と違ってポジティブ思考なんだよ俺は」
勇者「なんとかしようとアレコレ考えるのが面倒なだけだろ?」
剣士「考えるだけで何もしないお前が俺を悪く言えるのか」
勇者「剣士って言い逃れ上手いよな」
剣士「お前が隙だらけなだけだろ」
物凄く軽いノリで世界の命運を任せられた勇者。