17 勇者「適当なやつらだな」
勇者「え、えっとそれで……聞き込み中に風とアグアちゃんに出くわした――と?」
ガンナー「そんでそっちの情報流してって頼んだら案外あっさり教えてくれた」
魔法使い「軽く仲間裏切ってるよね」
僧侶「建前としては、自分たちに余裕があることをこちらに見せつけるため――だそうです」
吟遊詩人「本音は?」
僧侶「アグアさんのお菓子代が浮くから、と仰ってました」
勇者「お菓子につられた!」
剣士「自分が喋ったことを特にフラマには言わないようにってかなり念を押されたな」
勇者「そこまで気にするなら喋んなきゃいいのに」
ガンナー「喋ってくれたほうがこっちには都合いいだろ」
勇者「そうだけどさ」
吟遊詩人「えっと、それで、どんなことを聞き出したの?」
僧侶「向こうの仲間の情報について少々。情報――といっても、名前や容姿についてのことですが」
魔法使い「そ、それでも教えてくれたんだね」
剣士「俺もビックリした」
ガンナー「アグアが一番はじめに戦う相手だっていうのはさっき届いた手紙でわかったが、それが魔法使い宛だったってことはアグアが水の刺客だな」
勇者「あんまり強そうには見えなかったけど」
ガンナー「人を見た目で判断するなよ、痛い目みるぞ」
勇者「ガンナーが言うと説得力あるわ」
ガンナー「俺たちが知っている魔王の刺客はフラマ、風、アグア、ドロシー。あと風はアルボルやティエラがどうとかも言ってた」
魔法使い「どんな人?」
剣士「アルボルってやつは紫髪に紫の目をした男で、背は僧侶と同じくらいだそうだ。じっとしているのが苦手な性質で、よく外を出歩いているらしい」
勇者「僧侶と同じくらい? じゃあガンナーよりは背が大き」
ガンナー「勇者、あんまり調子に乗るなよ?」
勇者「ごめんなさい」
魔法使い「じゃあ、もしかしたら外でばったり出くわすかもしれないね」
僧侶「そうですね」
吟遊詩人「他にはなんて?」
剣士「いや、それ以外のことについては特に何も言ってなかったな」
吟遊詩人「そのアルボルって子が集中的に情報バラされてるわね」
ガンナー「この前昼寝中に変なアイマスクつけられたからその腹いせだとよ」
勇者「あいつら悪人なんだよな? なんかちょいちょいノリが軽いけど」
剣士「俺はもうそのあたりは気にしたら負けだと思うようにしている」
騎士「……明日は」
魔法使い「あ、そうだよ。明日はどうするの?」
勇者「ああ、えっと、どうしようか」
剣士「十二時ごろまで各自で準備をしておけ。それからレンテに出発しよう」
魔法使い「作戦とかは立てないんだ」
剣士「そこはまあ、なんとかなるだろ」
魔法使い「剣士ってテキトーだよね」
ガンナー「策を練るより力でねじ伏せるタイプだからな。あいつの言う『作戦』なんて名ばかりだぜ」
僧侶「貴方も他人のことを言えないでしょう」
勇者「この兄弟ぐうの音もでないほど怖い」
魔法使い「ぐうこわ」
吟遊詩人「レンテにはこんな大人数で戦えるような広さはないわ。戦うメンバーは四人か五人にしたほうがいいんじゃないかしら」
剣士「ああ――そういえばそうだな」
ガンナー「魔法使いと勇者は決定な。お前らあと二、三人誰がいい」
勇者「答えづらい質問だな……」
ガンナー「じゃあ誰に来てほしくないよ?」
勇者「さらに答えづらいわ!!」
魔法使い「アグアちゃんの戦闘スタイルがわかればそれに合わせて決められるのにね」
ガンナー「まあ初戦だしな、当たり障りのない感じのメンバーでいいんじゃね。前衛二人中衛二人後衛一人みたいな典型パーティで」
剣士「ならあと前中後それぞれ一人ずつだな。っつっても元々中衛ポジションはお前と魔法使いだけなんだが」
ガンナー「うわ、マジだ」
僧侶「となると後衛は私か吟遊詩人さんか――ということになりますね」
吟遊詩人「なら僧侶が行くといいわ。この周辺の地図は把握してるでしょうし、何より傷の治療ができるわ」
勇者「それじゃあ明日のメンバーは俺、魔法使い、ガンナー、僧侶――騎士と剣士はどうする?」
騎士「……私はいい」
剣士「なら残りの一人は俺か」
勇者「騎士、吟遊詩人、明日は留守番頼むよ」
騎士「……」コクリ
吟遊詩人「ええ。皆もがんばってね」
ガンナー「僧侶、勇者から目ぇ離すなよ」
僧侶「はい」
勇者「おい」
~夜、女部屋~
魔法使い「明日かあ」
吟遊詩人「朝起きたらどう過ごす?」
魔法使い「うーん……魔法書を見直したり、持ち物の再確認とかかなあ」
吟遊詩人「私はここで留守番だけど、何かあった時のために楽器を磨いておくわ」
魔法使い「十二時まで自由にしてていいんだっけ」
吟遊詩人「ええ。……緊張してる?」
魔法使い「まあね。相手も相手だし。向こうの指示に大人しく従ってるけど、その結果どうなるかもわからないしさ」
吟遊詩人「そうよね。なにか罠が仕掛けられているかもしれないわ。ガンナーや剣士がいるから何かあったとしても大丈夫だと思うけど、用心してね」
魔法使い「……騎士はもう寝たみたいだね」
吟遊詩人「感情に左右されにくい冷静な子だもの。私たちも見習わないといけないわ」
魔法使い「そうだね」
吟遊詩人「私たちもそろそろ寝ましょう」
魔法使い「うん、おやすみ」
吟遊詩人「おやすみなさい」
~男部屋~
勇者「ガンナーは?」
僧侶「もう眠っています」
勇者「剣士は?」
剣士「ん……ああ? どうした勇者……トイレか?」
勇者「あ、ごめん。なんか起こしたっぽい」
僧侶「声をかけるのがあと五秒遅ければ眠っていたでしょうね」
剣士「眠りにつく直前を見計らって声をかけるとは」
勇者「偶々だよ……」
剣士「トイレくらい一人で行けよ。お前もう十七だろ」
勇者「別にトイレで起こしたわけじゃないし、ってか、俺って夜中に一人でトイレ行けないやつだと思われてんの?」
剣士「……で、どうしたんだ」
勇者「流すなよ。いや、別に何か用はないんだけど、もう寝たかなぁって」
剣士「さっさと寝ろ」
~翌日~
勇者「……っは! よし起きた!!」ガバッ
剣士「お前のその目覚め方は毎回凄いと思うぜ」
勇者「そう?」
剣士「ビックリする」
勇者「こうでもしないと二度寝するからさ」
剣士「ガンナーにも真似させたいもんだ……が、こいつ二度寝はあまりしないんだよなあ」
勇者「そうなのか?」
剣士「一度寝て起きるまでが長い」
勇者「……ああ、思い返してみれば、確かにそうだなあ。なんでもできるクセに早起きだけはできないのか」
剣士「出来ないって事はないんじゃねえか? 昨日は早く起きてたし。まあ、ただのマグレかもしれないがな」
勇者「一番最後に変わりはないよね」
剣士「まあな」
剣士「……お前寝すぎだろ」
ガンナー「十二時まで好きにしてていいんだろ?」
剣士「確かにそうは言ったが、ギリギリまで寝てんなよ」
ガンナー「睡眠をとることによって力を蓄えてるんだよ」
剣士「人間ってのは起きてから二、三時間立たないと頭が回らないんだぞ」
ガンナー「個人差ってもんがあるだろう」
剣士「……否定はできないが」
ガンナー「一時間あれば充分だ」
剣士「本当かよ」
ガンナー「丁度いいハンデだろ。むしろこの程度だとお釣りがくるかもな」
剣士「見くびりすぎだろ」