16 吟遊詩人「そこはとても綺麗なのよ」
魔法使い「へえ、そうなんだ! 私も見てみたいなあ」
吟遊詩人「また今度、時間ができたら一緒に行きましょうか」
魔法使い「うん!」
勇者「何の話してんの?」
魔法使い「アラバの森の奥に綺麗な泉があるんだって!」
吟遊詩人「嫌なことがあったりすると時々そこに行くんだけど、結構癒されるのよ」
勇者「森林浴みたいな感じ?」
吟遊詩人「そうね。ストレス解消に丁度いいわよ」
勇者「俺も行ってみたいなあ」
吟遊詩人「ふふ。そのときは道案内するわ」
勇者「頼むよ。まあ、俺、普段はあまり水場には近づかないんだけどさ」
吟遊詩人「あら、どうして?」
魔法使い「勇者、昔サブマラの奥のほうにある沼に足を滑らせて落ちたことあるんだよ」
吟遊詩人「あ、あら、そうなの」
勇者「めっちゃ沈んだ。それ以来ぬかるみとかちょっとトラウマなんだよね。あとその出来事が原因かどうかわかんないけど水泳とかも苦手でさ。カナヅチってわけじゃないんだけど……」
魔法使い「一応訂正しておくけど吟遊詩人がしてるのは沼じゃなくて泉の話ね」
勇者「わかってるよ。沼見て心癒される人なんてそうそういないだろ」
吟遊詩人「大丈夫よ。泉っていっても浅いから、勇者くらいの身長ならちゃんと足がつくわ。あがってくるのも手伝うし……」
勇者「あ、もう落ちること前提なんだ」
~クリエントの街~
剣士「あれ、ガンナー何してんだ」
ガンナー「いや、なんか暇だったから散歩」
僧侶「さっそく単独行動ですか。貴方らしいですが」
ガンナー「あと軽く買い食いでもしようかなあって」
剣士「ああ、じゃあついでにその辺の店で夕飯の調達……」
僧侶「剣士さん? どうかなさいま――」
風「あ」
僧侶「あ」
ガンナー「うわ」
剣士「あー、その……アグアと、風――だったか」
風「何してんのお前ら」
剣士「こっちのセリフだろ……」
アグア「おなかすいた」
風「――って言うから」
剣士「子守りか」
風「そんなところだ。お前たちは今三人だけか」
ガンナー「お? なんだ、やるか? 受けて立つぞ」
風「ただの確認だ。フラマじゃないからこんな街中で乱闘なんてしない」
ガンナー「何、あいつ一人だけ熱くなっててうっとうしがられるタイプ?」
風「……や、別に……?」
僧侶「今の微妙な間は一体」
風「たしかにズバ抜けて気が触れてる感があるが……」
アグア「ある」
ガンナー「散々な言われようだな」
風「正直俺あいつ苦手だし」
アグア「フラマはひどい」
風「……それで、そっちは何をしていたんだ」
剣士「それをお前たちに教える義理はないだろう」
ガンナー「情報収集してた」
剣士「おい」
アグア「情報?」
僧侶「ガンナー」
ガンナー「ぶっちゃけ『魔王の刺客』について俺ら何も知らねえから、ダメ元でここの住人にいろいろ聞いて回ってる。お前らやること派手なのに情報面のガード堅いだろ」
風「……そうなのか?」ひそ
アグア「しらない……」ひそ
ガンナー「まあクリエントでもセシリカでも俺たちが持ってる以上の情報はまったく集まんねえんだわ。ってなわけでなんかこう、差支えない程度でもいいから適当にそっちのこと教えて。できれば差支える程度の情報のほうがいいけど」
剣士「新しい情報の収集方法だな」
風「全く隠そうとしない愚かさがいっそ清々しい」
ガンナー「もうこの際だから言うけど、お前らが何かしてくんないと俺らすることなくて暇なんだよね。だからポロポロっとこう、いくらか情報落としてってよ。お菓子あげるから」
アグア「えー……」
僧侶「刺客についての情報を本人たちに直接聞き込むという暴挙」
風「ハァ……何が知りたいんだ?」
剣士「えっ」
僧侶「えっ」
ガンナー「お。いいねぇ、教えてくれんの?」
風「質問の内容による。答えらえる範囲でなら、教えてやらんこともない」
アグア「……いいの?」
風「ただ後が面倒だから俺が喋ったって絶対に言うなよ」
ガンナー「こいつも中々にクズだわ」
~翌朝~
勇者「Zzz……はっ! 俺一番!?」ガバッ
勇者「……じゃないな、ガンナーしかいない」
僧侶「おや、勇者さん。おはようございます」
勇者「おはよう。剣士は?」
僧侶「朝食の準備をされていますよ」
勇者「そうか」
僧侶「ガンナーは――まだ眠っていますか」
勇者「俺が起きた時はまだ寝てたぞ。魔法使いもまだみたいだな」
僧侶「はい」
勇者「ガンナーが最後に起きるほうに賭けてもいいよ。あいつ、昔から朝弱いのか?」
僧侶「そうですね。彼が私や騎士よりも早く起きた事は過去に一度もないと断言できます」
勇者「そこまでか」
僧侶「無理に起こすと寝惚けて発砲することもあるので、ガンナーを起こす時は十分に用心してください」
勇者「やだ怖い」
吟遊詩人「あら、今日は皆早いのね」
勇者「あ、吟遊詩人。おはよう」
僧侶「おはようございます」
吟遊詩人「おはよう」
勇者「魔法使いたちは?」
吟遊詩人「もう起きてるわよ」
勇者「ほらガンナー最後だった」
ガタ、バタバタ……
勇者「ん?」
魔法使い「勇者!」
勇者「魔法使い?」
吟遊詩人「そんなに慌ててどうかしたの?」
魔法使い「これ……」
魔法使いが一通の手紙を差し出す
勇者「手紙?」カサ
勇者「! これって……」
~・・・~
ガンナー「……」
剣士「……」
ガンナー「おはよう」
剣士「まじではえぇな」
ガンナー「たまにはな」
剣士「次早く起きれるのは何年後かなあ」
ガンナー「おい」
バタバタ
勇者「剣士ィー! ってうおおおガンナーが起きてるうー!!」
僧侶「奇跡に近いですね」
ガンナー「おい」
剣士「どうしたそんなに慌てて」
勇者「魔法使い宛てに手紙が来たんだ」
ガンナー「なんで魔法使い宛ての手紙をお前が持ってるんだ、覗きか?」
剣士「……」
勇者「違う! 違うから! 剣士そんな冷めた目で見ないで!!」
僧侶「この場にいる全員を敵に回してしまうとは」
勇者「僧侶!?」
僧侶「冗談です。魔法使いさんが勇者さんに渡したのですよ。ご本人は既に拝見済みです」
ガンナー「僧侶が言うなら嘘じゃないな」
剣士「ああ。僧侶が言うなら本当だな」
勇者「えっ何? 俺ってそんなに信用ないの?」
ガンナー「……まあ」
勇者「剣士!」
剣士「さぁて昼飯は何にするかな」ハハ
勇者「剣士いいいいい!!」
剣士「な、なんだよ、泣くなみっともない」
ガンナー「朝っぱらからうっせぇぞ勇者」
勇者「ご、ごめん」
勇者「(……あれ、なんで俺謝ってんの?)」
手紙「明日の午後一時、レンテにて待つ。アグア」
剣士「これは……」
ガンナー「要点のみをまとめた無駄のない手紙だな」
剣士「そうだな、お前の手紙も大概こんなだけどな」
僧侶「字が……とても、その、芸術的ですね」
勇者「芸術的な字ってなに」
ガンナー「へたくそってことだろ」
勇者「芸術馬鹿にすんなよ。ちょっと不器用なだけだろ」
剣士「……で、どうするんだ? 明日一時」
勇者「どうするも何も、行くしかないだろ」
ガンナー「午後一時って部分がなんかもう子供が友達を遊びに誘ってるみたいな感覚だな」
勇者「こんな果たし状みたいな誘いかた嫌だな」
ガンナー「果たし状だろ?」
勇者「そうだよ」
剣士「魔法使い宛てだったんだろ? 魔法使いだけに行かせるのか?」
勇者「そ、そんなわけないだろ、いくらなんでも一人は危険すぎる。相手は何人いるかわからないんだし」
剣士「本気にするな、ただの確認だ。……まあ『そのつもりだ』なんて言われたら俺はお前をぶん殴ってたがな」
勇者「怖! ……こ、怖っ!! 何ソレめちゃくちゃ怖い!!」
ガンナー「顔青いぞ」
勇者「だってガンナーならいつものことだけど剣士だぜ? 剣士が殴りかかってくるんだぜ? 怖いだろ」
ガンナー「え、いや別に? 殴られる前に撃つし」
勇者「お前自分の兄貴に向かって発砲すんなよ!」
ガンナー「先手を取ってんだよ」
勇者「相手選べよ。兄弟だろ」
ガンナー「ああでも別に剣士だったら一瞬悩むかもなあ、勇者ならまだしも」
勇者「俺だったら迷わず撃つのかよ。差別だ!」
ガンナー「分別な」
勇者「そんな子供の間違いを正すみたいに言われてもさぁ『分別』って俺ゴミじゃねぇから」
ガンナー「まあ俺勇者に遠慮したことなんて今までもこれからも一度もないし」
勇者「だよな! お前俺に手加減しないもんな!」
ガンナー「いや手加減はしてる。しないとお前最悪死ぬじゃん」
勇者「そうでした」
剣士「何だ? お前とガンナーの力の差ってそこまで激しいのか? ああいや、こいつが馬鹿強ぇのは十分知ってるが」
勇者「いやなんかもうそのへんの小動物と魔王みたいな」
ガンナー「魔王お前の敵だろ」
勇者「戦力で言えばガンナーのほうが圧倒的」
剣士「まあ、そりゃな」
勇者「うわあっさり」